光デバイス/光制御素子
13.光導波路(その2)
前項では、光を光線とみなし、導波路内に閉じ込められる原理を屈折率が異なる界面での全反射によるとして説明しました。これは直感的に理解しやすいですが、詳細な光導波路の特性を説明するには十分でなく、これ以上の性質を説明するにはやはり光を電磁波として扱う必要があります。
とくに光導波路の設計上重要な「モード」という概念などは電磁波の性質として考える必要があります。この項ではマクスウェルの方程式から導かれる波動方程式をもとに光導波路の特性について考えます。
マックスウェルの方程式から導かれる電磁波の式は「結晶光学」3項で示しています。磁気に関しては磁界 H を用いる場合が多いと思いますが、このページでは磁束密度 B を用いることに統一してきましたので、ここでもそれに倣います。
関連する屈折率 n の媒体中のマクスウェルの方程式を念のため記すとつぎの通りです。
\begin{align}\nabla\times\boldsymbol{E} &= -\frac{\partial\boldsymbol{B}}{\partial t} \\ \nabla\times\boldsymbol{B} &= \varepsilon_0 \mu_0 n^2\frac{\partial\boldsymbol{E}}{\partial t }\end{align}\tag{1}
光導波路の構造は前項で触れたように様々な形のものがありますが、ここでは図13-1に示すようなもっとも単純化された平板2次元導波路(スラブ導波路)を考えます。xyz座標を図に示すようにとり、z方向が光導波路の方向(光の進行方向)であるとし、コア層、クラッド層の積層方向をx軸にとります。この系において電界 \boldsymbol{E} と磁界(磁束密度) \boldsymbol{B} がともに平面波であるとすれば、それらは次のように書けます(結晶光学3項参照)。
\begin{align}\boldsymbol{E} &= \boldsymbol{E}(x)\mathrm{exp}\lbrace i(\omega t-\beta z)\rbrace \\ \boldsymbol{B} &= \boldsymbol{B}(x) \mathrm{exp}\lbrace i(\omega t-\beta z)\rbrace\end{align}\tag{2}
ここで \omega は光の角周波数、\beta は前項で定義した伝搬定数です。
(2)式を(1)式に代入し、xyz成分に分けて示すとつぎの6つの方程式が得られます。ただし図13-1の系では導波路層に平行で光の伝搬方向に垂直なy方向については電界、磁束密度とも一様で変化がないので、\partial\boldsymbol{E}/\partial y=0、\partial\boldsymbol{B}/\partial y=0 としました。
\begin{align}i\beta E_y &= -i\omega B_x \tag{3-1}\\ -i\beta E_x &- \frac{\partial E_z}{\partial x} =-i\omega B_y\tag{3-2} \\ \frac{\partial E_y}{\partial x} &= -i\omega B_z\tag{3-3} \\ i\beta B_y &= i\omega\mu_0\varepsilon_0 n^2 E_z\tag{3-4} \\ -i\beta B_x &- \frac{\partial B_z}{\partial x} = i\omega\mu_0 \varepsilon_0 n^2 E_y\tag{3-5} \\ \frac{\partial B_y}{\partial x} &= i\omega\mu_0\varepsilon_0 n^2 E_z\tag{3-6} \end{align}
ここで導波光の偏光成分に注目します。導波光の偏光モードについては、導波路面内方向すなわち屈折率の境界面に平行な方向に電界成分をもつ偏光の場合をTE(Transverce Electric)モード、同じく導波路面内方向に磁界成分をもつ偏光の場合をTM(Transverce Magnetic)モードと呼んでいます(1)。
この2つの偏光モードの電界と磁界の方向は図13-1の系においてはつぎのようになります。
TEモード: E_y、B_x、B_z
TMモード: B_y、E_x、E_z
(3)式でTEモードの成分を含む式は(3-1)、(3-3)、(3-5)の各式、TMモードについては(3-2)、(3-4)、(3-6)の各式ということになります。
まずTEモードについて考えます。まず(3-1)、(3-3)、(3-5)式を用いて B_x、B_z を消去すると、E_y に関する波動方程式はつぎのようになります。
\frac{\partial^2 E_y}{\partial x^2}+\left (k^2 n^2 -\beta^2 \right )E_y =0\tag{4}
具体的な導波路について計算を行っていく前提として図13-1に示すようにコア層の屈折率を n_1 、これを挟むクラッド層の屈折率を n_2、n_3 とし、一般の場合を考えて両クラッド層の屈折率が異なる場合を考えます。ここでは図のようにn_1 \gt n_2 \gt n_3 とします。また、コア層の厚みを 2a とし、xyz座標の原点をコア層の中央にとることにします(前項ではコア層の厚みを a としています)。
つぎに(4)式のコア層内および両側のクラッド層内についての解の関数形を仮定します。クラッド層内ではコア層から離れる( x \rightarrow \pm\infty)にしたがって電界 E_y は単調に減少すると考えられますから、指数関数を仮定します。コア層内の E_y は定常的な振動となると考えられますから、三角関数が使えます。オイラーの公式(半導体物理学15項参照)を用いて複素数を導入した指数関数で表示することもできます。
この三角関数の選び方は意外に後の計算のために重要です。関数の選び方によっては式の計算が非常に煩雑になります。できるだけ一般的な関数にして得られる解に対応するようにする必要があり、\sin\theta +\cos\theta の形が一般性が高いのでよく使われていますが、これより \cos (\theta+\phi) の関数形を採用する方が後の計算のためによいようです。ただし、この2種類の関数形は三角関数の加法定理から導かれるように相互に変換可能です(2)。
以上から、両クラッド層内とコア内の E_y をつぎのように書きます。ただし、x=\pm a において E_y が連続でなければならないので、それを考慮しています。
\begin{align}E_y (x) &= A\cos (\sigma a-\phi)\exp \lbrace {-\gamma( x-a)\rbrace }~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~x\ge a \\ E_y(x) &= A \cos (\sigma x-\phi)~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~-a\le x\le a \\ E_y(x) &= A\cos (\sigma a+\phi)\exp\lbrace {\kappa (x+a)\rbrace }~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~x\lt -a\end{align}\tag{5}
ただし、これらは(2)式を満たさなければならないので、\gamma、\sigma、\kappa はそれぞれ
\begin{align}\gamma &= \sqrt{\beta^2 -n_2^2k_0^2} \\ \sigma &= \sqrt{n_1^2 k_0^2-\beta^2} \\ \kappa &= \sqrt{\beta^2 -n_3^2k_0^2} \end{align}\tag{6}
と表されます。A は定数です。
一方、B_z は(3-3)式より \partial E_y /\partial x に比例しますから、(5)式を x で微分すると
\begin{align}\frac{\partial E_y}{\partial x} &= -\gamma A\cos(\sigma a-\phi)\exp \lbrace {-\gamma( x-a)\rbrace }~~~~~~~~~~~~~~~~~~x\ge a \\ \frac{\partial E_y}{\partial x} &= -\sigma A\sin (\sigma x-\phi)~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~-a\le x\le a \\ \frac{\partial E_y}{\partial x} &= \kappa A\cos(\sigma a+\phi)\exp\lbrace {\kappa (x+a)\rbrace }~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~x\le -a\end{align}\tag{7}
となります(ただし虚数表示は省きました)。この \partial E_y/\partial x すなわち B_z も x\pm a において 連続でなければならないので、
\sigma\sin (\sigma a-\phi)=\gamma\cos (\sigma a-\phi)
\sigma\sin (\sigma a+\phi)=\kappa\cos (\sigma a+\phi)
となります。この2式は
\begin{align}\tan(\sigma a-\phi) &= \frac{\gamma}{\sigma} \\ \tan(\sigma a+\phi) &= \frac{\kappa}{\sigma}\end{align}\tag{8}
と書き直せます。タンジェント(正接)は \pm\pi/2 で発散する周期 \pi の周期関数ですから、
(8)式から次の関係が得られます。\tan^{-1}\left (\frac{\gamma}{\sigma}\right )+\tan^{-1}\left (\frac{\kappa}{\sigma}\right )=2\sigma a+m\pi\tag{9}
ただし、m は整数(m=0,1,2,\cdots)で、モード番号と呼ぶことがあります。 (9)式を固有値方程式と呼んでいます。
この方程式を計算するため、(6)式と k_0=2\pi/\lambda の関係を使って屈折率を用いた式に書き直すと
\frac{2a}{\lambda}=\frac{1}{2\pi\sqrt{n_1^2 -n_{eff}^2}}\left\lbrace\tan^{-1}\left (\sqrt{\frac{n_{eff}^2 -n_2^2}{n_1^2 -n_{eff}^2}}\right )+\tan^{-1}\left (\sqrt{\frac{n_{eff}^2 -n_3^2}{n_1^2 -n_{eff}^2}}\right )+m\pi\right\rbrace \tag{10}
となります。以上についての補足事項を付録4にまとめましたので、併せて参照して下さい。
図13-2は(10)式の関係を横軸に 2a/\lambda、縦軸に等価屈折率 n_{eff} をとり、m=0,1,2,3 について描いたものです。この特性を分散特性、あるいは分散曲線と呼んでいます。なお、図の例はコア層の屈折率を n_1 =3.4、クラッド層の屈折率を n_2 =3.0、n_3 =3.1 として計算しました。これらの屈折率の値はコア層がGaAs,クラッド層がAlGaAsである場合におおよそ該当します。
つぎにTMモードですが、同じように計算できます。(5)式に対応してTMモードの場合の B_y についての式を書くと
\begin{align}B_y (x) &= A\cos (\sigma a-\phi )\exp\lbrace {-\gamma (x-a)\rbrace }~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~x\ge a \\ B_y(x) &= A \cos (\sigma x-\phi)~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~-a\le x\le a \\ B_y(x) &= A\cos (\sigma a+\phi)\exp\lbrace {\kappa (x+a)\rbrace }~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~x\le -a\end{align}\tag{11}
となります。E_z は(3-6)式より B_y の x についての1次微分で表されるので、B_y、E_z の境界(x=a, -a) での連続条件からTMモードの固有値方程式が得られます。(10)式に対応する結論の式だけ掲げておくと
\begin{align}\frac{2a}{\lambda} &= \frac{1}{2\pi\sqrt{n_1^2 -n_{eff}^2}} \times \\ &\left\lbrace\left (\frac{n_1^2}{n_2^2}\right )\tan^{-1}\left (\sqrt{\frac{n_{eff}^2 -n_2^2}{n_1^2 -n_{eff}^2}}\right ) + \left (\frac{n_1^2}{n_3^2}\right )\tan^{-1}\left (\sqrt{\frac{n_{eff}^2 -n_3^2}{n_1^2 -n_{eff}^2}}\right )+m\pi\right\rbrace\tag{12}\end{align}
となります。グラフは省略しますが、分散特性は図13-2とあまり変わらない特性となります。
以上の特性からつぎのようなことがわかります。
ある実効屈折率(グラフの縦軸の値)すなわち伝搬定数に対し、特定のとびとびの導波路幅でしか光が伝搬することができないことがわかります。これは前項で書いたように導波路の幅方向に定在波が発生するような条件が必要なことに対応します。ある伝搬モードが伝搬できる最小の導波路幅をそのモードのカットオフ(cut-off)と言います。図13-1に示した導波路ならば、あるモード(m)に対するTEモードのカットオフ (2a)_{cutoff} は
\frac{(2a)_{cutoff}}{\lambda}=\frac{1}{2\pi\sqrt{n_1^2 -n_2^2}}\left\lbrace\tan^{-1}\left (\frac{\sqrt{n_3^2-n_2^2}}{\sqrt{n_1^2-n_2^2}}\right )+m\pi\right\rbrace\tag{13}
と表せます。(12)式よりTMモードでも同様な式で表されます。導波路幅を小さくしていくと m=0 のモードのみが伝搬する導波路が実現しますが、これを単一モード(Single mode)導波路と言います。これに対し、複数モードが伝搬できる導波路を多モード(Multi mode)導波路と言います。
n_2 =n_3 の対称導波路の場合は
\frac{(2a)_{cutoff}}{\lambda}=\frac{m}{2\sqrt{n_1^2 -n_2^2}}\tag{14}
となり、m=0 の場合は (2a)_{cutoff}=0 であり、いかなる導波路幅であっても導波が可能であることがわかります。
実際には各層に使用する材料すなわち屈折率と使用波長\lambda が決まっていて、m がいくつの導波路(例えば m=0 の単一モード導波路)を作りたいかを決めます。するとこれに対応する図13-2のような分散曲線が計算できます。横軸のコア層の厚さ 2a を 所望のm の値の分散曲線と交点が存在する範囲に選べば、この交点から等価屈折率 n_{eff} が求められ、伝搬定数が決定できます。
伝搬定数は各層の屈折率やコア層の厚みなどを決めても、式の計算からは求められません。そこで上記のようにグラフの交点から読み取るとしましたが、これでは正確な値を求めることはできません。正確な値が必要な場合には数値計算が用いられます。これは等価屈折率 n_{eff} を与えれば(10)式や(12)式からコア層の厚み 2a が計算できますから、小刻みに n_{eff} を変えて 2a を計算し、所望の 2a の値に必要精度で一致するような n_{eff} の値を探すという方法です。
つぎに各モードにおける電界 E_y や 磁束密度 B_y の強度がどのような分布になっているかを計算してみます。これは例えばTEモードであれば、(5)式や(7)式を具体的に計算すること、です。図13-2の場合と同じように n_1 =3.4、n_2 =3.1、n_3 =3.0 とします。伝搬定数すなわち実効屈折率 n_{eff} を決めれば図13-2の特性から各モードに対し、対応する 2a/\lambda の値が読み取れ、使用波長 \lambda が決まっていれば、コア層の厚さ 2a が決まります。
実際には各層の屈折率と使用波長\lambda が決まっていて、m がいくつの導波路、例えば m=0 の単一モード導波路、を作りたいかを決めます。するとこれに対応する分散曲線が計算できます。コア層の厚さ 2a を 所望のm の値の分散曲線と交点が存在する範囲に選べば、この交点から等価屈折率 n_{eff} が求められ、伝搬定数が決定できます。
計算のうえで重要な点は固有値方程式を求めた際と同様に x=a 及び x=-a においてE_y が連続でなければならないことですが、(5)、(11)式はこの条件を満たすように書かれています。また E_y や B_y の絶対値は問題にしませんので、A は1とします。
図13-3は E_y について m=0,1,2 の場合の計算結果を示したものです。n_{eff}=3.2 としました。電界 E_y はクラッド゙層内ではいずれもコア層から離れるにしたがって単調に減少します。コア層内では m=0 の場合、1つのピークを持ちますが、m=1 の場合は2つ、m=2 の場合は3つの極値をそれぞれもつことがわかります。B_y については省略しますが、同様な傾向を示します。またTMモードについても同様に計算できます。
この図をみると、電界はコア層に完全に閉じ込められているわけではなく、かなりクラッド層内に「しみ出し」ていることがわかります。この「しみ出し」がどの程度なのかを調べるために導波路内を伝搬する導波光のエネルギーを計算してみます。
伝搬する光のエネルギーは「結晶光学」3項で説明しているように同項(18)式で示すポインティングベクトルで与えられます。これに従えば、導波路をz方向に伝搬する光のエネルギー P は、2次元導波路ではy方向には一様なので、導波層に垂直なx方向全域にわたって積分して
P=\int_{-\infty}^{\infty}S_z\mathrm{d}x=\frac{1}{2\mu_0}\int_{-\infty}^{\infty}(\boldsymbol{E}\times\boldsymbol{B})_z\mathrm{d}x\tag{15}
と表せます。TEモードでは
P = \frac{1}{2\mu_0}\int_{-\infty}^{\infty}E_y B_z \mathrm{d}x = \frac{\beta}{2\omega\mu_0}\int_{-\infty}^{\infty}|E_y|^2\mathrm{d}x = \frac{\varepsilon_0 n_{eff }c}{2}\int_{-\infty}^{\infty}|E_y|^2\mathrm{d}x\tag{16}
と書け、これに(5)式を代入し、3つの区間ごとに積分を行います。上記同様、A=1 とし、表記を簡単にするため P_0 =\varepsilon_0 n_{eff }c/2 と置きます。
まず、x \ge a のクラッド層内のエネルギー P_1 について。積分は容易に行え、つぎのようになります。
P_1 =P_0 \int_a^\infty\cos^2 (\sigma a-\phi)\exp (-2\gamma x)\mathrm{d}x =\frac{P_0}{2\gamma}\cos^2 (\sigma a-\phi)\tag{17}
反対側のクラッド層内(x \le -a) の P_3 も同様にして
P_3 =P_0\int_{-\infty}^{-a}\cos^2 (\sigma a+\phi)\exp (-2\kappa x)\mathrm{d}x =\frac{P_0}{2\kappa}\cos^2 (\sigma a+\phi)\tag{18}
となります。コア層内のエネルギー P_2 は関数の形が異なりますから少し丁寧に書きます。
P_2 =P_0\int_{-a}^{a}\cos^2 (\sigma x-\phi)\mathrm{d}x
\cos の倍角定理を用いて
\begin{align}P_2 &= P_0\int_{-a}^{a}\frac{1}{2}\lbrace {\cos 2(\sigma x-\phi)+1\rbrace }\mathrm{d}x \\ &= \frac{P_0}{2}\left [\frac{1}{2\sigma}\sin 2(\sigma x-\phi) +x\right ]_{-a}^{a} \\ &=\frac{P_0}{2}\left\lbrace \frac{1}{\sigma}\sin 2(\sigma a-\phi)+\frac{1}{\sigma}\sin 2(\sigma a+\phi)+2a\right\rbrace\end{align}
今度は \sin の倍角の定理を用いて
P_2=P_0 \left\lbrace\frac{1}{\sigma}\sin (\sigma a-\phi)\cos (\sigma a-\phi)+\frac{1}{\sigma}\sin(\sigma a+\phi)\cos(\sigma a+\phi)+a\right\rbrace
となりますが、(8)式の関係を用いると
P_2 =P_0 a\left\lbrace 1+\frac{\sin^2 (\sigma a-\phi)}{2\gamma a}+\frac{\sin^2 (\sigma a+\phi)}{2\kappa a}\right\rbrace\tag{19}
が得られます。なぜこのような式に変形したかというと、全導波光のエネルギー(P=P_1 +P_2 +P_3 )の式を求める際に整合性がとれるためです。(17)、(18)、(19)式より
P=P_1 +P_2 +P_3 =P_0 a\left (1+\frac{1}{2\gamma a}+\frac{1}{2\kappa a}\right )\tag{20}
という簡単な形の式が得られます。
上で述べたように光導波路は光をコア層に閉じ込めて伝搬させることを目的にしているわけですが、コア層の外側のクラッド層内へエネルギーがしみ出します。これがどの程度かを示す指標として閉じ込め係数 \Gamma が次のように定義されます。
\begin{align}\Gamma=\frac{P_2}{P} &= \frac{1+\frac{\sin^2 (\sigma a-\phi)}{2\gamma a}+\frac{\sin^2 (\sigma a+\phi)}{2\kappa a}}{1+\frac{1}{2\gamma a}+\frac{1}{2\kappa a}} \\ &= \frac{2a+\frac{\gamma}{\sigma^2 +\gamma^2}+\frac{\kappa}{\sigma^2 +\kappa^2}}{2a+\frac{1}{\gamma}+\frac{1}{\kappa}}\end {align}\tag{21}
一行目は(19)、(20)式をそのまま代入したもの、二行目はさらに(8)式を用いて変形した式です。上の導波路の数値例を用いて閉じ込め係数を求めると、\Gamma=0.615 となってあまり大きくないことがわかります。なお、(21)式二行目の式の分母を実効導波路厚 T_{eff} といいます。物理的な導波路厚 2a より光のしみ出しを考えると、実効的に導波路厚が大きくなったとみなすことができるからです。
T_{eff}=2a+\frac{1}{\gamma}+\frac{1}{\kappa}\tag{22}
上の数値例では T_{eff} は 2a の約2.7倍と大きな値になります。このように導波路を伝搬する光は物理的に形成された導波層よりかなり外側にしみ出していることがわかります。これを考慮すると前項のジグザグ光線のモデルは少し見直した方がよいと思われます。すなわち、図13-4に示すように、光線の折れ曲がり点はコア層とクラッド層の境界より実効導波路厚の1/2分だけクラッド層側に入り込んだ点にあるとみなした方がよいと考えられます。
すると物理的なコア層とクラッド層の境界面では光線が入射する点と反射光線が出てくる点の間にずれが生じることになります。これをグース・ヘンヒェンシフト(3)と呼んでいます。これにより前項で触れたように界面では入射光と反射光の間で位相差が生じます。
屈折率 n_2 のクラッド層へのしみ込み深さは 1/\gamma であったので、グース・ヘンヒェンシフト d_{GH} は幾何学的に計算して
d_{GH}=\frac{2}{\gamma}\tan\theta=\frac{2n_{eff}}{\gamma\sigma}
となります。これはTEモードの場合で、TMモードの場合はしみ出し深さが異なるのでシフト量も異なります。このシフトに基づく位相差 \Phi は d_{GH} ではなく、延長された光路長によって生じるので
\Phi=k_0 \sqrt{\frac{4}{\gamma^2}+1}
となります。
以上、光導波路についてもっとも基本的なスラブ導波路についての理論をまとめました。
各種のデバイスに応用される光導波路は三次元のチャネル導波路が使われることも多くあります。三次元の場合は上記のような解析は難しくなります。いくつか近似計算法が知られていますが、限られた条件でしか精度のよい計算を行うことができません。最近ではもっぱら数値計算による解析が行われていますが、ここでは数値計算の方法には立ち入りません。
(1)一般の偏光については「s偏光」、「p偏光」という呼び方があります。これは偏光の方向が入射面に対して平行か垂直かで定義され(「結晶光学」6項)、偏光の方向は電界の方向または磁界の方向のいずれかが取られます。TEモード、TMモードは電界または磁界を特定したうえでの定義である点で異なる考え方です。
(2)加法定理を使って次の公式を導くことができます。
a\sin\theta+b\cos\theta =\sqrt{a^2 +b^2}\cos (\theta+\beta)
ただし、\sin\beta =-\frac{a}{\sqrt{a^2 +b^2}}、\cos\beta =\frac{b}{\sqrt{a^2 +b^2}} とします。
(3)グース・ヘンヒェンシフトはドイツの物理学者 \mathrm{H.F.G.Goos} と \mathrm{H.H\ddot a nchen} によって見出されたのでこの名が付けられています。後者はヘンシェンと表記されることも多いですが、ドイツ語読みではヘンヒェンの方が近いと思われます。日本語では発音しにくいですが。