科学・基礎/結晶光学
6.偏光の屈折と反射ここでは前項、前々項で説明したような偏光した光(電磁波)が屈折率の異なる物質に入射する場合の反射、屈折について考えます。図6-1のように、屈折率 \(n_1\)の物質Aから \(n_2\)の物質Bへ光が入射する場合の入射光と反射光、屈折光を考え、入射角を \(\theta_1\)、屈折光の出射角を \(\theta_2\) とします。これらの光は同一平面上(画面上)にあるとし、この面を入射面といいます。光学的な位置関係は2項で述べたものと同じですが、ここでは入射光が偏光している場合を考えます。
このとき電界 \(E\) の振動方向が入射面内にある場合をp偏光と呼び、入射面に垂直な場合をs偏光と呼びます。この他の方向の偏光はp偏光とs偏光の合成で示すことができます。磁界 \(H\) の振動方向は電界と垂直ですから、p偏光では入射面に垂直、s偏光では平行となります。
2項で説明した反射の法則や屈折に関するスネルの法則は偏光の有無によって変わることはなく、同じように成り立ちます。偏光によって影響を受けるのは反射率です。反射率は入射光の強度に対する反射光の強度の比で定義されます。
電界 \(E\) と磁界 \(H\) はp偏光とs偏光を示すために、添え字"p"と"s"を付け、さらに入射光に"1"、反射光に"2"、屈折光に"3"をそれぞれ付けることにします。
入射光の強度は反射光と屈折光に分割されますから、電界と磁界の画面に垂直な成分の振幅について
\[E_{s1}+E_{s2}=E_{s3}\tag{1}\]
\[H_{p1} +H_{p2}=H_{p3}\tag{2}\]
が成り立ち、画面に平行な成分については
\[E_{p1}\cos{\theta_1}-E_{p2}\cos{\theta_1}=E_{p3}\cos{\theta_2}\tag{3}\]
\[H_{s1}\cos{\theta_1}-H_{s2}\cos{\theta_2}=H_{s3}\cos{\theta_2}\tag{4}\]
がそれぞれ成り立ちます。ここで \(H=\sqrt{\varepsilon/\mu}\cdot E\) の関係を用いて(2)式から \(H\)を消去すると
\[\sqrt{\frac{\varepsilon_1}{\mu_1}}E_{p1}\cos{\theta_1}+\sqrt{\frac{\varepsilon_1}{\mu_1}}E_{p2}\cos{\theta_2}=\sqrt{\frac{\varepsilon_2}{\mu_2}}E_{p3}\cos{\theta_3}\]
となりますが、磁性のある物質は対象としないとすれば、\(\mu_1\simeq\mu_2\simeq 1\) ですから、上式及び(4)式はつぎのように書き直せます。(1)、(3)式を含め、上記4式に対応する(1’)~(4’)式を以下に示します。
\[\begin{align} &E_{s1}+E_{s2}=E_{s3}\tag{1'} \\ &\sqrt{\varepsilon_{1}}E_{p1} +\sqrt{\varepsilon_{1}}E_{p2}=\sqrt{\varepsilon_{2}}E_{p3}\tag{2'} \\ &E_{p1}\cos{\theta_1}-E_{p2}\cos{\theta_1}=E_{p3}\cos{\theta_2}\tag{3'} \\ &\sqrt{\varepsilon_{1}}E_{s1}\cos{\theta_1}-\sqrt{\varepsilon_{1}}E_{s2}\cos{\theta_1}=\sqrt{\varepsilon_{2}}E_{s3}\cos{\theta_2}\tag{4'}\end{align}\]
ここで求めようとするのはp偏光に対する界面での振幅反射率 \(r_p\) と振幅透過率 \(t_p\) 、s偏光に対する振幅反射率 \(r_s\) と振幅透過率 \(t_s\) です。これらはつぎのように表せます。
\[r_p =\frac{E_{p2}}{E_{p1}}~~~~~~~~~~t_p =\frac{E_{p3}}{E_{p1}}\]
\[r_s=\frac{E_{s2}}{E_{s1}}~~~~~~~~~~t_s=\frac{E_{s3}}{E_{s1}}\]
これらを用い、かつスネルの法則の関係
\[\frac{\sin{\theta_1}}{\sin{\theta_2}}=\sqrt{\frac{\varepsilon_2}{\varepsilon_1}}=\frac{n_2}{n_1}\tag{5}\]
を用いて(1’)~(4’)式を書き直すと
\[\begin{align}1+r_s &= t_s \tag{1"} \\ 1+r_p &=\frac{\sin{\theta_1}}{\sin{\theta_2}}t_p \tag{2"} \\ 1-r_p &= \frac{\cos{\theta_2}}{\cos{\theta_1}}t_p \tag{3"} \\ 1-\frac{\sin{\theta_1}}{\sin\theta_2}r_s &= \frac{\sin\theta_1}{\sin\theta_2}\cdot\frac{\cos\theta_2}{\cos\theta_1}t_s \tag{4"}\end{align}\]
この4元連立方程式を解いて 各振幅反射率と振幅透過率 \(r_p\)、\(t_p\)、\(r_s\)、\(t_s\) を求めます。手順としては例えば (2")+(3") からただちに \(t_p\) が求まります。これを(2”)に代入すると、\(r_p\) が得られます。つぎに(1”)を(4”)に代入することにより、\(t_s\) が求められます。これを(1”)式に入れることにより \(r_s\) が求められます。結果を以下に示します。
\[\begin{align}r_p &= \frac{n_2\cos{\theta_1}-n_1\cos{\theta_2}}{n_2\cos{\theta_1}+n_1\cos{\theta_2}}=\frac{\tan{(\theta_1 -\theta_2)}}{\tan{(\theta_1 +\theta_2)}}\tag{6} \\ t_p &= \frac{2n_1\cos{\theta_1}}{n_2\cos\theta_1+n_1\cos{\theta_2}}=\frac{2\cos{\theta_1}\sin{\theta_2}}{\sin{(\theta_1+\theta_2 )}\cos{(\theta_1 -\theta_2 )}}\tag{7} \\ r_s &= \frac{n_1\cos{\theta_1} -n_2\cos{\theta_2}}{n_1\cos{\theta_1}+n_2\cos{\theta_2}}=\frac{\sin{(\theta_1 -\theta_2)}}{\sin{(\theta_1 +\theta_2)}}\tag{8} \\ t_s &= \frac{2n_1\cos{\theta_1}}{n_1\cos{\theta_1}+n_2\cos{\theta_2}}=\frac{2\cos{\theta_1}\sin{\theta_2}}{\sin{(\theta_1 +\theta_2)}}\tag{9}\end{align} \]
なお、上式の右端の式は、スネルの法則を使って \(n_1\) と \(n_2\) を消去し、さらに三角関数の倍角の公式などを使って得られる式で、入射角 \(\theta_1\) と屈折角 \(\theta_2\) だけを使って表されています。これをフレネル(Fresnel)の式と呼んでいます。
ここで(6)~(9)式をみると、(6)式の \(r_p\) だけが \(\theta_1 +\theta_2 =\frac{\pi}{2}\) のとき分母が無限大に発散することがわかります。このとき \(r_p =0\) となり、p偏光に対してはこの条件を満たしたとき、反射光が得られないことを意味します。このときの入射角 \(\theta_{1B}\) をブリュースター(Brewster)角と呼んでいます。
このときの屈折角を \(\theta_2 =\theta_{2B}\) とすると、
\[\sin{\theta_{2B}}=\sin{(\frac{\pi}{2}-\theta_{1B})}=\cos{\theta_{1B}}\]
の関係があり、ブリュスター角 \(\theta_{1B}\) は
\[\tan{\theta_{1B}}=\frac{n_2}{n_1}\tag{10}\]
で与えられます。
なお、\(\theta_1 +\theta_2 =\frac{\pi}{2}\) という条件は、図6-1から明らかなように、反射光と屈折光のなす角が直角であることを意味します。実験的には入射角をこの条件を満たすように調節することでブリュスター角を得ることができます。
ここまでの議論は振幅反射率について行ってきましたが、実際に測定される光の反射率 \(R\) は光の強度についての反射率で、p偏光、s偏光についてそれぞれ \(R_p\)、\(R_s\) とすると
\[R_{p,s}=|r_{p,s}|^2\]
と表されます。透過率 \(T_p\) 、\(T_s\) は
\[T_{p,s}=1-R_{p,s}\]
となります。
図6-2はp偏光とs偏光についての反射率 \(R_{p,s}\) の入射角 \(\theta_1\) 依存性を示したものです。\(n_1 =1\)、\(n_2 =2.42\) (ダイアモンドの値)として(6)式と(8)式を用いて計算したものです。ブリュスター角は約68度となることがわかります。
さてここまでは屈折率 \(n_1 \) と \(n_2 \) の大小関係には触れずにきましたが、図6-1に従えば \(\theta_1 \gt \theta_2 \) であるように描いていますから、スネルの法則により、\(n_1 \lt n_2 \) が前提になっていることがわかります。それでは逆に \(n_1 \gt n_2 \) である場合はどうなるか、以下それに触れておきます。
\(n_1 \gt n_2 \) のとき、(5)式のスネルの法則において
\[\frac{n_1}{n_2}\sin\theta_1=\sin\theta_2 \gt 1\]
となる場合があることがわかりますが、これはあり得ません。この場合、光は屈折率 \(n_2 \) の物質B側には入り得ず、物質A側に反射されます。これを全反射と言うことは2項でも触れた通りです。なお、
\[\frac{n_1}{n_2}\sin\theta_1=1\]
となる \(\theta_1 \) を臨界角と呼び、\(\theta_c\) とします。
さて、\(\sin\theta_2 \gt 1\) の場合、\(\sin^2 \theta +\cos^2 \theta =1\) という公式に従えば、
\[\cos^2 \theta_2 =1-\sin^2 \theta_1 \lt 0\]
と書けるので、\(\cos\theta_2 \) は純虚数とみることができます。すなわち
\[\cos\theta_2 =\pm i \sqrt{\left (\frac{n_1}{n_2}\right )^2 \sin^2 \theta_1 -1}\]
です。このとき、(6)、(8)式の \(r_p \)、\(r_s \) は複素数となり、その絶対値 \(|r_p |\)、\(|r_s |\) と位相 \(\phi_p \)、\(\phi_s \) を用いてつぎのように書くことができます。
\[\begin{align}r_p &= \frac{(n_2 /n_1 )^2\cos{\theta_1}+i\sqrt{\sin^2\theta_1-(n_1 /n_2)^2}}{(n_2 /n_1 )^2\cos\theta_1 -i\sqrt{\sin^2 \theta_1-(n_1 /n_2 )^2}}=|r_p |e^{-i\phi_p }\tag{11} \\ r_s &= \frac{\cos\theta_1 +i\sqrt{\sin^2\theta_1 -(n_1 /n_2 )^2}}{\cos\theta_1-i\sqrt{\sin^2\theta_1 -(n_1 /n_2 )^2}}=|r_s |e^{-i\phi_s }\tag{12}\end{align}\]
この式から位相 \(\phi_p \)、\(\phi_s \) を求めるための複素数の計算を念のため書いておきます。(11)、(12)式の真ん中の項をみると、いずれも \((a+ib)/(a-ib)\) の形をしている(\(a\)、\(b\) は実数)ので、これを
\[\frac{a+ib}{a-ib}=\frac{a^2 -b^2 +2iab}{a^2+b^2 }=|A|e^{iB}\]
と置き、 \(A\)、\(B\) を求めます。\(A\) については(6)、(8)式をみれば、直ちに \(|A|^2=1\) であることがわかります。一方、\(B\) については
\[\tan\frac{B}{2}=\frac{1-\cos B}{\sin B}=\frac{a^2 +b^2 -(a^2 -b^2 )}{2ab}=\frac{b}{a}\]
となりますから、これに当てはめると
\[\begin{align}\tan\frac{\phi_p}{2} &= \frac{(n_1 /n_2)\sqrt{(n_1/n_2)^2\sin^2 \theta_1 -1}}{\cos\theta_1}\tag{13} \\ \tan\frac{\phi_s}{2} &=\frac{\sqrt{(n_1 /n_2)^2 \sin^2 \theta_1 -1}}{(n_1 /n_2)\cos\theta_1}\tag{14}\end{align}\]
という関係が得られます。すなわち全反射したp偏光、s偏光は上式で表される位相変化を受けることがわかります。
p偏光の”p”は"parallel"から来ているとされます。英語の垂直は"perpendicular"ですから、これでは両方”p”になってしまいます。だからということではなく初めからだと思いますが、s”はドイツ語で垂直を意味する"senkrecht"の頭文字だそうです。parallelは英独共通なのでドイツ語からとった命名ということでしょう。