科学・基礎/結晶光学
7.誘電率と屈折率結晶光学の目的は光と結晶の相互作用を明らかにすることだと最初に述べましたが、これまでの項では専ら光(電磁波)の性質について説明してきました。ここからは結晶(固体)の側に話を移します。
3項の電磁波についての説明は主として真空中を伝わる電磁波についてでしたが、物質(誘電体)に電磁波が入射したとき、どのようなことが起こるでしょうか。あらゆる物質は原子で構成されています。この原子は正電荷をもつ原子核とその周りの負電荷をもつ電子とで構成され、外部電界がなければ、時間平均としては中性を保っています。しかし物質に電磁波が入射すると電磁波の振動している電界が物質を構成している原子に作用して変化を起こさせるはずです。
どのような変化が起こるかというと、電界が印加されると、図7-1に示すように正電荷と負電荷が反対方向に変位し、電気双極子が形成されます。変位が \(\delta \) とすると \(\boldsymbol{p}=q\delta \) で表される電気双極子モーメントが発生します。\(\boldsymbol{p}\) はベクトルですが、その方向は電界の方向とほぼ一致していると考えれば、誘電体中の双極子モーメントの総和 \(\boldsymbol{P}\) は \(\boldsymbol{P}=N\boldsymbol{p}\) です。ただし \(N\) は誘電体中の双極子の個数です。この \(\boldsymbol{P}\) を分極と呼びますが、これは電圧が印加された際、誘電体の一番端に当たる表面に発生する電荷に相当します。実際の物質では含まれる原子によって分極の生じ易さが異なり、また物質を構成する原子は1種類とは限らないので、これらを考慮すると物質ごとに双極子モーメントは異なると考える必要があります。
ここで少し回り道になりますが、図7-2のような平行平板電極をもつコンデンサについて、マクスウェルの方程式に戻って考えます。電極間距離を \(d\) とし、電極間を真空(近似的には空気でもよい)としたとき、電極間に電界 \(E\) が発生するように電圧 \(V=dE\) を印加したとします。この状態で電極間に誘電率 \(\varepsilon\) の誘電体を挿入します。この状態を示した斜視図が図7-2(a)です。
マクスウェルの方程式の第1式、すなわちガウスの法則(付録(1)式)を適用するための閉空間として図示するような2つの直方体AとBを考えます。上下の電極に平行な面の面積を \(S\) とします。以下、図を簡単にするために断面図で考えます。図7-2(b)が誘電体を挿入していない状態、同図(c)が誘電体を挿入した状態を示します。
まず閉空間Bは誘電体の有無に関わらず、内部に電荷が存在しませんから、閉空間の内外で電界に変化がなく、平行平板電極間では電界 \(\boldsymbol{E}\) の大きさは一様です。また方向も電極面に垂直な方向に限られます。したがってマクスウェルの方程式第1式を積分形式で書けば当たり前ですが、
\[\int_S \boldsymbol{E}\cdot\boldsymbol{n}\mathrm{d}S=0\]
となります。一方、閉空間Aの場合はどうでしょうか。まず誘電体がない図7-2(b)の場合をみると、閉空間内の電極上には電源の電圧 \(V\) で充電された真電荷 \(Q\) が存在します(図の場合は正電荷)。コンデンサの電極面積を \(S\) とすれば、電極上の電荷密度は \(Q/S\) です。閉空間Aの電極に平行な面の面積を \(\Delta S\) とすると、閉空間A内に存在する総電荷は \(Q\Delta S/S\) です。一方、閉空間Aを出入りする電界は面積 \(\Delta S\) の下面だけです。大きさは \(E=V/d\) です。上面は電極の外側ですから電界はありません。また側面も電極に垂直で電界に平行なので、これを横切る電界はありません。したがってこの場合のマクスウェルの方程式の第1式は
\[E\Delta S=\frac{1}{\varepsilon_0}\frac{Q}{S}\Delta S\]
となります。したがって
\[E=\frac{1}{\varepsilon_0}\frac{Q}{S}\]
が得られます。
つぎにこのコンデンサの電極間に誘電体を挿入した図7-2(c)の場合を考えます。この場合は、上で説明したように誘電体の表面に単位面積当たりの分極 \(\pm P\) が生じます。これを考慮すると閉空間Aについてマクスウェルの方程式、第1式はつぎのようになります。
\[E\Delta S=\frac{1}{\varepsilon_0}\left ( \frac{Q}{S}-P \right ) \Delta S\]
したがって
\[E=\frac{1}{\varepsilon_0}\left (\frac{Q}{S}-P\right )\tag{1}\]
となります。
ここで
\[D=\varepsilon_0 E+P\tag{2}\]
と置きます。すると(1)式から
\[D=\frac{Q}{S}\tag{3}\]
となります。ここまで考えてきた平行平板コンデンサでは電界は一方向で一様でしたから、議論も1次元で十分でしたが、一般には3次元で考えた方がよいので、改めてベクトルを用いて表示します。(1)式はそのままつぎのように書き直せます。
\[\boldsymbol{D}=\varepsilon_0 \boldsymbol{E}+\boldsymbol{P}\tag{4}\]
一方、(3)式右辺は閉曲面内の電荷の総和を意味しますから、一般化すればマクスウェル方程式第1式の右辺と同じように書けます。したがって(1)式は
\[\int_S \boldsymbol{D}\cdot\boldsymbol{n}\mathrm{d}S=\int_V\rho\mathrm{d}V\tag{5}\]
と整理することができます。これはマクスウェル方程式の第1式において \(\boldsymbol{E}\) を \(\boldsymbol{D}\) に置き換えた形になっていることがわかります。これは誘電体の分極がある場合であっても \(D\) を用いることにより、ガウスの法則と同じ形の式が使えることを示しています。そこで(5)式を拡張したガウスの法則ということがあります。なお、ここで登場した \(\boldsymbol{D}\) を電束密度と呼んでいます。さらに
\[\boldsymbol{D}=\varepsilon\boldsymbol{E}\]
と置いて、誘電率 \(\varepsilon\) を定義すれば(4)式より
\[\boldsymbol{P}=\varepsilon_0 \left ( \varepsilon -1 \right ) \boldsymbol{E}\tag{6}\]
の関係が得られます。
ところで物質中の原子が分極するとき、原子に加わる電界は外部から印加した電界と等しいとは限りません。むしろ異なると考えるのが妥当です。なぜかというと物質中の原子は他の多数の原子に囲まれていて互いに電気的影響を受けるからです。この個々の原子に加わる電界のことを局所電界(あるいは内部電界)と呼びます。しかし小さな誘電体片であっても含まれる原子の数は膨大ですから原子1個1個の影響をすべて計算するのは不可能です。そこで提案されたのが図7-3のようなモデルです。
1個の原子(赤色で示す)に注目し、その周囲にある半径 \(R\) の球体を考えます。この球の外側はこの物質の誘電率を持つ連続媒体と考えます。一方、球の内側はこの物質の原子が所定の規則で並んでいると考えます。
この誘電体を電極で挟んで電圧を掛けたとき、中心Oに位置する原子にかかる局所電界を考えます。この局所電界 \(\boldsymbol{E}_{loc}\) を要素に分け、その和で表すことにします。
\[\boldsymbol{E}_{loc}=\boldsymbol{E}_0 +\boldsymbol{E}_1 +\boldsymbol{E}_2\]
ここで \(\boldsymbol{E}_0\) は外部電源から電圧 \(V\) をかけて発生する電界で
\[\boldsymbol{E}_0 =V/d\]
です。
\(E_1\) は球状の空洞がある誘電体が分極したとき、空洞の中心にはたらく電界です。これを求めるため図7-4に示すように誘電体中に半径 \(R\) の球状の空洞を考えます。この空洞に対して電界はz方向にかかっているとすると、誘電体中の分極 \(\boldsymbol{P}\) も z方向を向いています。したがって空洞表面に誘起される電荷の密度 \(\sigma\) は、\(\boldsymbol{n}\) を球表面に対して法線方向をもつ単位ベクトルとすると、これと分極ベクトル \(\boldsymbol{P}\) の内積によって求められ、
\[\sigma=\boldsymbol{P}\cdot\boldsymbol{n}=P\cos\left ( \pi-\theta\right )=-P\cos\theta\tag{7}\]
となります。ここでこの球と交わるz方向に垂直な薄い平板を考えます。この平板と球の表面が交わる円環上に微小面積 \(\mathrm{d}S\) をとります。球の中心Oからみてこの微小面積をとった位置がz軸から角 \(\theta\) の位置にあるとします。さらにz軸と垂直に交わるx軸をとり、微小面積はこのx軸から角 \(\phi\) の位置にあるとすると、\(\mathrm{d}S\) は
\[\mathrm{d}S=R\sin\theta\mathrm{d}\phi\cdot R\mathrm{d}\theta\tag{8}\]
と表されます。
この微小面積部分の電荷 \(\mathrm{d}q=\sigma\mathrm{d}S\) によって球の中心に作る電界はクーロンの法則によって求められます。したがって球の中心に作られる電界のz方向成分である \(E_1\) は(7)、(8)式を用いて
\[\begin{align} E_1 &= -\frac{1}{4\pi\varepsilon_0 R^2}\int\sigma\mathrm{d}S\cos\theta \\ &=-\frac{1}{4\pi\varepsilon_0 R^2}\int \left ( -P\cos\theta\right ) \left ( R\mathrm{d}\theta\cdot P\sin\theta\cdot\mathrm{d}\phi \right ) \cos\theta \\&=\frac{1}{4\pi\varepsilon_0 R^2}R^2 P\int_0^{2\pi} \mathrm{d}\phi\int_0^{\pi}\sin\theta\cos^2\theta\mathrm{d}\theta \\ &= \frac{1}{4\pi\varepsilon_0}2\pi P\left\lbrack -\frac{\cos^3 \theta}{3}\right\rbrack_0^{\pi} \\ &=\frac{P}{3\varepsilon_0}\end{align}\tag{9}\]
となり、球の半径 \(R\) に依存しないことがわかります。これをローレンツの局所電界あるいは単にローレンツ電界と呼んでいます。
つぎに \(E_2\) ですが、これは上記の球内に配列している原子が分極し、その双極子一つ一つが球の中心に作る電界の重ね合わせです。やや長くなりますが、まず一つの双極子が離れた点に及ぼす電界の大きさを求めておきます。
図7-1に示した距離 \(\delta \) 離れた正負の電荷 \(q\) からなる電気双極子が、距離 \(r\) 離れた点Oに作る電界を求めます。考え方としては、図7-5に示すように、正負の電荷それぞれによって点Oに生ずるクーロンポテンシャルを求め、これを重ね合わせます。ただし正負の電荷は互いに近距離にあるとします。
双極子から点Oまで距離 \(r\) は正負の電荷を結ぶ線分の中点AからOまでの距離とします。そして正電荷からOまでの距離を \(r_1\)、負電荷からOまでの距離を \(r_2\) とします。このとき点Oに生ずる電位 \(\psi\) 、すなわちクーロンポテンシャルは
\[\psi=\frac{q}{4\pi\epsilon_0}\left ( \frac{1}{r_1}-\frac{1}{r_2}\right )\tag{10}\]
です。距離 \(r_1\)、\(r_2\) はそれぞれ
\[\begin{align}r_1^2 &= (r\sin\theta)^2 +(r\cos\theta-\frac{\delta}{2})^2 \\ r_2^2 &= (r\sin\theta)^2 +(r\cos\theta+\frac{\delta}{2})^2\end{align}\]
の関係から
\[\begin{align}r_1 &= \sqrt{r^2-\delta r\cos\theta+(\delta/2)^2} \\ r_2 &= \sqrt{r^2+\delta r\cos\theta+(\delta/2)^2}\end{align}\]
となります。(10)式のクーロンポテンシャルにはこの \(r_1\)、\(r_2\) の逆数が必要ですが、扱いにくい形になっています。そこで近似を使って式を簡単化します。\(1/r_1\)、\(1/r_2\)は上式から次の \(f_i(r)\) ような形の \(r\) の関数です(\(i=1,2\))。
\[f_i(r)=\frac{1}{r}\left (1\mp\frac{\delta}{r}\cos\theta +\frac{1}{4}\left (\frac{\delta}{r}\right )^2\right )^{-\frac{1}{2}}\]
ここで双極子の電荷間の距離 \(\delta\) は1原子内の距離ですから、 \(r\) に比べて非常に小さいので、\(X=\delta/r\) と置けば、\(X\ll 1\)です。そこで、\(f_i(X)\)を \(X\) で展開して1次の項までとる近似を考えます。すなわち、\(f_i(X)=f_i(0)+f'_i(0)X\) と近似します。
\[g_i (X)=\left (1\mp\cos\theta\cdot X+\frac{1}{4}X^2 \right )^{-\frac{1}{2}}\]
と置き、\(X\) で微分すると
\[g'_i (X)=-\frac{1}{2}\left (\mp\cos\theta+\frac{1}{2}X\right )\left (1\mp\cos\theta\cdot X+\frac{1}{4}X^2\right )^{-\frac{3}{2}}\]
が得られるので、
\[\begin{align} g_i (0) &=1\\ g'_i (0) &=\pm\frac{1}{2}\cos\theta\end{align}\]
となります。したがって \(f_i(r)\) の近似関数は
\[f_i(r)=\frac{1}{r}\left (1\pm\frac{1}{2}\cos\theta\cdot\frac{\delta}{r}\right )\]
となります。これを用いると
\[\frac{1}{r_1}-\frac{1}{r_2}=f_1 (r)-f_2 (r)\simeq\frac{\delta\cos\theta}{r^2}\]
となりますから、双極子から距離 \(r\) のO点に生じる(10)式のクーロンポテンシャルは
\[\psi (r)=\frac{q\delta}{4\pi\epsilon_0}\frac{\cos\theta}{r^2}\tag{11}\]
となります。
点Oにおける電界は(11)式の微分によって求められます。ここでは図7-5に示すように \(\boldsymbol{r}\) の方向とそれに直交する \(\theta\) 方向を座標軸にとった \((r,\theta)\) 座標系で考えるのが便利です。そこで上式を \(r\) と \(\theta\) で微分すると
\[E_r=-\frac{\partial\psi}{\partial r}=\frac{1}{4\pi\epsilon_0}\frac{2p\cos\theta}{r^2}\tag{12}\]
\[E_{\theta}=-\frac{1}{r}\frac{\partial\psi}{\partial\theta}=\frac{1}{4\pi\epsilon_0}\frac{p\sin\theta}{r^2}\tag{13}\]
となります。ここで \(p\) は双極子モーメント \(p=q\delta\) です。この電界のベクトル表示を考え、\(r\) 方向の単位ベクトルを \(\boldsymbol{e}_r\) 、\(\theta\) 方向の単位ベクトルを \(\boldsymbol{e}_{\theta}\) として、電界ベクトル\(\boldsymbol{E}(\boldsymbol{r})\) を
\[\boldsymbol{E}(\boldsymbol{r})=E_r \boldsymbol{e}_r +E_{\theta}\boldsymbol{e}_{\theta}\tag{14}\]
と書きます。ここで \(\boldsymbol{e}_r \) は
\[\boldsymbol{e}_r = \boldsymbol{r}/r\tag{15}\]
と表せます。また \(\boldsymbol{e}_{\theta}\) は図7-5を参照してベクトル \(\boldsymbol{e}_r\) と双極子モーメント \(\boldsymbol{p}\) の方向の合成で表すことができ、つぎのようになります。
\[\boldsymbol{e}_{\theta} = \frac{1}{\tan\theta}\cdot\boldsymbol{e}_r -\frac{1}{\sin\theta}\cdot\frac{\boldsymbol{p}}{p}\tag{16}\]
(12)、(15)式および(13)、(16)式を組み合わせれば
\[\begin{align}E_r\boldsymbol{e}_r &= \frac{1}{4\pi\epsilon_0}\frac{2pr\cos\theta}{r^4}\boldsymbol{e}_r = \frac{1}{4\pi\epsilon_0}\frac{2(\boldsymbol{p}\cdot\boldsymbol{r})\boldsymbol{r}}{r^5} \\ E_{\theta}\boldsymbol{e}_{\theta} &=\frac{1}{4\pi\epsilon_0}\cdot\frac{p\sin\theta}{r^3}\boldsymbol{e}_{\theta}=\frac{1}{4\pi\epsilon_0}\left (\frac{p\cos\theta}{r^3}\boldsymbol{e}_r -\frac{\boldsymbol{P}}{r^3}\right )\end{align}\]
が得られるので、これらを(14)式に代入して
\[\boldsymbol{E}(\boldsymbol{r})=\frac{1}{4\pi\epsilon_0}\left (-\frac{\boldsymbol{p}}{r^3}+\frac{3(\boldsymbol{p}\cdot\boldsymbol{r})\boldsymbol{r}}{r^5}\right )\tag{17}\]
となります。以上求めた双極子から距離 \(r\) の位置の電界の大きさは、距離 \(r\) の-3乗に比例してかなり急速に減衰することがわかります。
(17)式の表す電界ベクトル \(\boldsymbol{E}(\boldsymbol{r})\) の性質は同式を見ただけでは分かり難いので、もう少し具体的にみておきます。
双極子からの距離 \(r\) を一定とした場合に、電界が \(\theta\) によってどのように変化するかを調べます。
\(r\) が一定の場合、電界に影響を及ぼすのは(17)式中の内積 \((\boldsymbol{p}\cdot\boldsymbol{r})=pr\cos\theta\) の角度 \(\theta\) です。双極子ベクトル \(\boldsymbol{p}\) の方向の延長線上では \(\theta=0\) または \(\pi\) ですから、\(\cos\theta=1\)、したがって電界の方向は \(\boldsymbol{p}\) と同方向で大きさ \(E\) は
\[E=\frac{2p}{4\pi\varepsilon_0 r^3}\]
となります。\(\theta=\pi/2\) あるいは \(\theta=-\pi/2\) の場合は \(\cos\theta=0\) ですから、電界は \(\boldsymbol{p}\) とは逆方向となり、大きさは
\[E=-\frac{p}{4\pi\varepsilon_0 r^3}\]
となります。この中間の角度では電界は \(p/4\pi\epsilon_0 r^3\) と \(2p/4\pi\epsilon_0 r^3\) の間を周期的に変化します。この変化の様子を図7-6に赤線で示します。
つぎに電界の方向について考えます。双極子モーメントのベクトル \(\boldsymbol{p}\) の単位ベクトルを\(\boldsymbol{e}_p\)、ベクトル \(\boldsymbol{r}\) の単位ベクトルを \(\boldsymbol{e}_r\) として(17)式を書き直すと
\[\boldsymbol{E}(\boldsymbol{r})=pr^2 (3\cos\theta\boldsymbol{e}_r -\boldsymbol{e}_p )\]
となります。ここでの電界ベクトル \(\boldsymbol{E}(\boldsymbol{r})\) の変化は、\(r\)、\(p\) が一定ですから、ベクトル \(3\cos\theta\boldsymbol{e}_r \) と 一定ベクトルである \(-\boldsymbol{e}_p \) を合成することによって求められることがわかります。電界ベクトルの方向をz軸からの角度 \(\theta_E\) とすると、\(\theta_E\) は基本的には
\[\tan\theta_E =\frac{3\cos\theta\sin\left (\frac{\pi}{2}-\theta\right )-1}{3\cos\theta\cos\left (\frac{\pi}{2}-\theta\right )}=\frac{3\cos^2 \theta-1}{3\cos\theta\sin\theta}\]
と表されます。この特性は角度 \(\theta_E\) の符号をz軸から右側(x軸の正方向)に正、左側(x軸の負方向)に負にとると、図7-6の青線で示すようなやや直感とは異なる複雑な周期変化をすることがわかります。この電界ベクトル\(\boldsymbol{E}(\boldsymbol{r})\) の位置変化のイメージを図7-7に示します。なお図示した電界ベクトル\(\boldsymbol{E}(\boldsymbol{r})\) の絶対値と方向は概略を示すもので正確ではありません。
さて話を目的の \(E_2\) に戻すと、これを正確に求めるには、図の球内のすべての原子について中心原子からの距離を求め、各原子に誘起された双極子が中心位置に作る電界の総和を計算しなければなりません。すなわち(17)式を用いて
\[\boldsymbol{E}_2 =\sum_i \frac{1}{4\pi\epsilon_0}\left ( -\frac{\boldsymbol{p}_i}{r_i^3}+\frac{3(\boldsymbol{p}_i \cdot\boldsymbol{r}_i )\boldsymbol{r}_i}{r_i^5}\right )\tag{18}\]
のようにすべての原子(双極子)に付けた番号 \(i\) について総和を求める必要があります。限られた範囲とはいえ非常に多数の原子について計算しなければならないので、コンピュータを用いても相当困難と思われます。
ただし結晶であれば対称性があるので、物質を特定すれば、原子配置の規則性を考慮して、計算量を減らせる場合もあり得ます。ここでは図7-8に示すような単純な立方晶について考えてみます。立方晶は立方体の頂点に原子があってそれが積み重なった構造ですから、すべてのもっとも近接した原子は等距離にあります(「結晶の話」参照)。
まず系をxyzの直交座標系で考えます。そして印加電界の方向、すなわち双極子の方向をこれまで同様z方向に選ぶことにします。すなわち、\(\boldsymbol{p}=(0,0,p)\) とします。\(\boldsymbol{r}_i =(x_i,y_i,z_i )\) とします(\(i\) は整数です)。この場合(18)式の 内積は \((\boldsymbol{p}_i \cdot \boldsymbol{r}_i )=pz_i\) です。\(\boldsymbol{r}_i \) については
\[r_i^2=x_i^2 +y_i^2 +z_i^2 \]
であり、立方晶の対称性から
\[\sum_i x_i^2 =\sum_i y_i^2 =\sum_i z_i^2 =\sum_i \frac{r_i^2}{3}\]
\[\sum_i x_i y_i =\sum_i y_i z_i =\sum_i z_i x_i =0\]
が成り立ちます。以上を用いて \(\boldsymbol{E}_2 \) のxyz成分を求めます。
\[E_{2x}=\frac{1}{4\pi\varepsilon_0 }\sum_i \left ( \frac{3x_i (p\cdot z_i )}{r_i^5}\right )=\frac{3p}{4\pi\varepsilon_0}\sum_i\frac{z_i x_i}{r_i^5}=0\]
\[E_{2y}=\frac{1}{4\pi\varepsilon_0} \sum_i \left ( \frac{3y_i (p\cdot z_i )}{r_i^5}\right )=\frac{3p}{4\pi\varepsilon_0}\sum_i\frac{z_i y_i}{r_i^5}=0\]
\[\begin{align}E_{2z} &= \frac{1}{4\pi\varepsilon_0}\sum_i \left (\frac{3x_i (p\cdot z_i )}{r_i^5}-\frac{p}{r_i^3}\right ) \\ &=\frac{3p}{4\pi\varepsilon_0}\sum_i \left (\frac{z_i^2}{r_i^5}-\frac{1}{3}\frac{1}{r_i^3}\right ) \\ &= \frac{3p}{4\pi\varepsilon_0}\left (\sum_i \frac{z_i^2}{r_i^5}-\frac{1}{3}\sum_i {r_i^2}{r_i^5}\right )=0\end{align}\]
以上の結果から、立方晶の対称性がある場合、\(E_2 =0\) になることが示されます。このように原子配列の対称性の高い場合には \(E_2\) は小さいことが予想されます。このためしばしば局所電界 \(E_{loc}\) としては
\[E_{loc}=E_0+\frac{P}{3\varepsilon_0}\tag{19}\]
のローレンツ電界が用いられます。
分極 \(P\) にはその元になる電荷によって電子分極、原子分極、配向分極、空間電荷分極などがあります。 電子分極は図7-1に示したように、原子の原子核と電子の変位によってできる双極子によるものです。 原子分極はイオン分極とも呼ばれ、電荷をもった原子が互いに変位して生じる双極子によるものです。 配向分極は分子の極性基などが形成する双極子の回転によるものです。 空間電荷分極は固体中で可動なイオンや電子の電荷が固体内を移動することによる分極です。
結晶光学で対象になる分極現象は光の振動数に応答するもので、電子分極と原子分極はこれに相当しますが、配向分極や空間電荷分極は応答が遅く、電磁波に対しては分極を起こしません。
電子分極または原子分極の双極子モーメント \(p\) は原子に印加される電界に比例すると考えられています。この比例定数を分極率と呼びます。分極の種類によって異なるので、電子分極率や原子分極率などと区別して呼ばれることが多いです。局所電界が \(E_{loc}\) であれば、電子または原子分極率を \(\alpha\) として
\[p=\alpha E_{loc}\]
と表されます。 これによる分極 \(P\) は原子の濃度を \(N\) とし、局所電界にローレンツ電界を適用して
\[P=Np=N\alpha\left (E+\frac{P}{3\varepsilon_0}\right )\]
と表せます。\(P\) について解けば
\[P=\frac{N\alpha}{\left (1-N\alpha/3\varepsilon_0 \right )}E\]
となります。これに(6)式の関係を用いると
\[\frac{\varepsilon-1}{\varepsilon+2}=\frac{N\alpha}{3\varepsilon_0}\tag{20}\]
さらに3項(14)式の屈折率 \(n\) と誘電率 \(\varepsilon\) の関係を用いると
\[\frac{n^2 -1}{n^2 +2}=\frac{N\alpha}{3\varepsilon_0}\tag{21}\]
が得られます。この(20)式または(21)式をローレンツ-ローレンツ(Lorentz-Lorenz)の公式と呼んでいます。なお、(21)式を\(n^2\) について解くと
\[n^2=\frac{\left ( 1+\frac{2N\alpha}{3\varepsilon_0}\right )}{\left (1-\frac{N\alpha}{3\varepsilon_0}\right )}\]
となります。これらの式より、屈折率 \(n\) は分極率 \(\alpha\) と原子の密度 \(N\) で表されることがわかります。なお、原子が複数種類含まれる場合はそれぞれ分極率が異なると思われますので、\(N\alpha\) を \(i\) 番目の原子ごとに、密度 \(N_i\) と分極率 \(\alpha_i\) を用い、総和 \(\sum_i N_i \alpha_i\) を求めて置き換えればよいことになります。
以上より、物質の屈折率はその物質を構成する原子の分極率と密度によって決まることが明らかになりました。