科学・基礎/結晶光学
5.偏光状態とその表示(その2)

 前項では偏光の状態について説明しました。しかし偏光状態は人間の眼では感知できません。自然光に対して偏光した光がやや異なった性質をもつことは感知できる場合があるかもしれませんが、それが直線偏光なのか楕円偏光なのかなどは区別はできません。

 したがって偏光状態を知るには特別な装置を使った測定を行う必要があります。この項では偏光状態を知るための測定方法について取り上げます。ただし具体的な実験装置である偏光を検知する装置そのものについては後の項で取り上げることにし、ここではそのような装置が存在するものとして話を進めます。

 まず測定の基本となる装置は偏光子と呼ばれる素子です。これは特定の種類の偏光だけを透過あるいは遮断する素子です。このような素子ができるのは結晶光学の一つの成果でもありますから、後の項でその原理と具体例を取り上げます。

 もう一つ必要なのは光強度の測定装置です。偏光子を透過した光の強度が透過前の強度からどれだけ変化したかを検知する装置です。光の強度測定にはいくつかの原理が用いられますが、最近は半導体受光素子を使う場合が多くなっていると思います。絶対強度を求めるものではありませんが、偏光の評価には相対的な強度が得られれば十分です。

 偏光の状態を知るためにはつぎの4つの測定が必要です。前項同様に光はz軸方向に進行しているとします。

第1の測定

 まず測定対象の光の強度の測定です。強度測定器に対象光が垂直に入射するようにして強度を測定します。これによって測定される光強度は3項に示した通りですが、光がz方向に進行している場合には、電界の振動方向はxy平面内にありますので

\[I_0=\frac{E_{0x}^2 +E_{0y}^2}{2}\]

に相当します。ここで \(E_{0x}\) と \(E_{0y}\) はそれぞれx方向とy方向の電界の振幅です。

第2の測定

 2番目の測定はx方向に振動する成分のみの強度を測定します。この測定は光強度測定器の前に直線偏光子を置いて行います。直線偏光子とは1方向の偏光成分のみを透過し、これ以外の方向に偏光した光は遮断するはたらきをもった素子です。そのような素子はどのように実現できるのかについては後の15項で実例をまじえて説明しています。

 これによって測定されるのは、偏光子をx方向の偏光を透過するようにセットしたとすれば

\[I_{0x}=\frac{E_{0x}^2 }{2}\]

です。

第3の測定

 3番目の測定はx方向とy方向に対して45°傾斜した方向に偏光した成分の強度 \(I_{45}\) を測定します。これは2方向あり、\(E_x \cos{45^\circ}+E_y\sin{45^\circ}\) です。強度の時間平均を \(\lt\gt_{av}\) と記すと

\[\begin{align} I_{45} &= \left\langle\left (\frac{1}{\sqrt{2}}E_x +\frac{1}{\sqrt{2}}E_y\right )\right\rangle_{av} \\ &= \frac{1}{2}\lt (E_0x \cos (\omega t-kz)+E_0y\cos(\omega t-kz+\delta))^2\gt_{av} \\ &= \frac{E_{0x}^2}{4}+\frac{E_{0y}^2}{4}+\frac{1}{2}E_{0x}E_{0y}\cos\delta\end{align}\]

に相当する量が測定されることになります。

第4の測定

 4番目の測定は右回りの円偏光の光強度を測定します。これには右回りの円偏光を生成する素子(これも後の15項で説明します)が必要です。

\(E_x \) を左右回りの円偏光に分解すると

\[\dbinom{E_x}{0} = \dbinom{\frac{1}{2}E_{0x} \cos\tau}{\frac{1}{2}E_{0x}\sin\tau}+ \dbinom{\frac{1}{2}E_{0x} \cos\tau}{-\frac{1}{2}E_{0x}\sin\tau}\]

となります。ここで右辺第1項が左回り、第2項が右回りの偏光を表しています。\(E_y \) についても同様に分解し、x、y両方向について右回りの偏光をまとめると、次のようになります。

\[\dbinom{\frac{1}{2}E_{0x} \cos\tau}{-\frac{1}{2}E_{0x}\sin\tau}+\dbinom{\frac{1}{2}E_{0y} \sin(\tau+\delta)}{\frac{1}{2}E_{0y}\cos(\tau+\delta)}\]

 したがって右回り円偏光の強度を \(I_R\) とすると

\[\begin{align} I_R &= \left ( \frac{1}{2}\right )^2 \lt \{ E_{0x} \cos\tau +E_{0y} \sin(\tau+\delta)\}^2 \gt_{av}+\left ( \frac{1}{2}\right )^2 \lt \{ E_{0x}\sin\tau+E_{0y}\cos(\tau+\delta)\}^2 \gt_{av} \\ &= \frac{(E_{0x} )^2 }{4}+\frac{(E_{0y} )^2 }{4}+\frac{1}{2}E_{0x} E_{0y} \sin\delta\end{align}\] 

となり、この \(I_R\) に相当する量が測定されることになります。

ストークスパラメータ、ストークスベクトル

 以上の測定で得られた値から \(E_{0x}\)、\(E_{0y}\)、\(\delta\) の値が算出できますが、その前にこれら測定値を簡潔に表示する方法を紹介します。これはストークスパラメータと呼ばれています(G.Stokesによる)。このストークスパラメータは上記の4つの測定値に対応して、\(S_0\)、\(S_1\)、\(S_2\)、\(S_3\) の4つの要素を持ち、つぎのような4行1列の行列で表現されます。

\[\boldsymbol{S}=\pmatrix{S_0 \cr S_1 \cr S_2 \cr S_3}\]

 この \(\boldsymbol{S}\) をストークスベクトルと呼びます。ストークスベクトルの4つ要素であるストークスパラメータはつぎのように定義されます。

 まず \(S_0\) は第1の測定で得られた強度 \(I_0\) の2倍、すなわち \(2I_0\) の値となります。

\[S_0 =2I_0 =(E_{0x})^2 +(E_{0y})^2 \tag{1}\]

 つぎに \(S_1\) は第2の測定で得られた \(I_{0x}\) を4倍したものから \(S_0\) を引いた値で、

\[S_1 =4I_{0x} -S_0 =(E_{0x})^2 -(E_{0y})^2 \tag{2}\]

と定義されます。

 つぎに \(S_2 \) は第3の測定で得られた \(I_{45}\) を4倍したものから \(S_0\) を引いた値で、

\[S_2 =4I_{45}-S_0 =2E_{0x}E_{0y}\cos\delta \tag{3}\]

と定義されます。

 最後に \(S_3 \) は第4の測定で得られた \(I_R \) を4倍したものから \(S_0\) を引いた値で、

\[S_3 =4I_R -S_0 =2E_{0x}E_{0y}\sin\delta \tag{4}\]

で定義されます。

以上をまとめると、ストークスベクトル \(\boldsymbol{S}\) は

\[\boldsymbol{S}=\pmatrix{S_0 \cr S_1 \cr S_2 \cr S_3}=\pmatrix{(E_{0x})^2 +(E_{0y})^2 \cr (E_{0x})^2 -(E_{0y})^2 \cr 2E_{0x}E_{0y}\cos\delta \cr 2E_{0x}E_{0y}\sin\delta}\tag{5}\]

と表せることになります。なお、光強度の絶対値を特に必要としない場合は、各パラメータを \(S_0\) で割った値で表してもよく、これを基準化したパラメータと呼んでいます。

 以上のように1つの光について測定した値から求めたストークスパラメータを用いれば、その光の偏光状態を示す値が求められます。\(S_0\) と \(S_1\) からは(1)式と(2)式からわかるように \(E_{0x}\) と \(E_{0y}\) が求められます。また \(S_2\) と \(S_3\) からは(3)式、(4)式により \(\delta\) が求められます。

 ところで、上記の4種類の測定はとくに偏光していない光に対してももちろん行え、結果が得られますので、対応したストークスパラメータも求めることができます。ここまでは測定対象の光が偏光している場合について考えてきましたが、自然光のようにまったく偏りのない光である場合があり、また偏光した光と偏光していない光が混じっている場合もあります。現実には理想的に偏光した光を作るのは難しく、多かれ少なかれ偏光していない光が混じっている場合が多いと思われます。

 純粋に偏光した光に対しては(1)~(4)式からわかるように

\[S_0^2 =S_1^2 +S_2^2 +S_3^2 \tag{6}\]

が成り立ちます。一方で、まったく偏光していない光については

\[S_0=E_{0x}^2 +E_{0y}^2 \]

\[S_1 =S_2 =S_3 =0\]

となります。偏光した光が一部混じった場合には \(S_1\)、\(S_2\)、\(S_3\) の少なくとも1つが 0 でなくなりますから

\[S_0^2 \gt S_1^2 +S_2^2 +S_3^2 \]

となります。このことから光の偏光の程度を示す偏光度というパラメータが定義されています。この偏光度を \(p\) とすると、\(p\) は

\[p=\frac{\sqrt{S_1^2 +S_2^2 +S_3^2}}{S_0}\]

で与えられます。

 代表的な偏光状態のストークスベクトル表示をまとめておきます。

<直線偏光>

 直線偏光は前項で説明したように、\(\delta =0\) または \(\pi\) の場合です。ただし偏光の方向は光の進行方向がz軸方向である場合、z軸の回りのあらゆる角度をとり得ます。前項で示したようにx軸からの角度を \(\eta\) とすると、\(E_{0y}/E_{0x}=\tan\eta\) の関係があるので、これを(5)式に代入すると

\[\boldsymbol{S}=\pmatrix{(E_{0x})^2 +(E_{0x})^2 \tan^2 \eta \cr (E_{0x})^2 -(E_{0x})^2 \tan^2 \eta \cr 2{E_{0x}}^2\tan\eta \cr 0}=S_0 \pmatrix{1 \cr 2\cos\eta \cr 2\sin\eta \cr 0 }\tag{7}\]

さらに特別な場合として、x軸方向の偏光の場合は \(\eta =0\) ですから

\[\boldsymbol{S}=\pmatrix{1 \cr 1 \cr 0 \cr 0}\tag{8}\]

y軸方向の場合は \(\eta =90^\circ \) ですから

\[\boldsymbol{S}=\pmatrix{1 \cr -1 \cr 0 \cr 0}\tag{9}\]

となります。

<円偏光>

 円偏光では \(E_{0x} =E_{0y} =E_0 \) です。左回り円偏光では \(\delta=-\frac{\pi}{2}\) ですから

\[\boldsymbol{S}=\pmatrix{2E_0^2 \cr 0 \cr 0 \cr -2E_0^2}=S_0\pmatrix{1 \cr 0 \cr 0 \cr -1}\tag{10}\]

となります。右回り円偏光では \(\delta=\frac{\pi}{2}\) ですから

\[\boldsymbol{S}=S_0\pmatrix{1 \cr 0 \cr 0 \cr 1}\tag{11}\]

となります。

<無偏光>

 まったく偏光のない光のストークスベクトルは

\[\boldsymbol{S}=\pmatrix{E_{0x}^2 +E_{0y}^2 \cr 0 \cr 0 \cr 0}=S_0 \pmatrix{1 \cr 0 \cr 0 \cr 0}\tag{12}\]

と表されます。

ポアンカレ球

 偏光は3次元空間での波動の特性ですから、数式によって表したとしても、その状態を直感的に捉えるのは難しいので、いろいろな工夫がなされています。ここまでは特徴を取り出してベクトル形式で表示する方法を紹介しました。これとは異なり、幾何学的に表示する方法が考案されていますので、つぎにこれを紹介します。

 上で述べたストークスパラメータでは4つのパラメータの間に(6)式が成り立っています。ここで \(S_0 =1\) と規格化すると

\[S_1^2 +S_2^2 +S_3^2 =1\]

となります。これは3次元ベクトル \(\boldsymbol{P}\) を

\[\boldsymbol{P}=\{S_1 ,S_2 ,S_3\}\tag{13}\]

と定義すると、ベクトル \(\boldsymbol{P}\) は長さが1であり、その終点は起点を中心とする球面上にあることがわかります。したがってこの球の表面の位置はストークスパラメータと対応しているので、偏光状態を対応させることができます。

 このように球の表面上の位置によって偏光状態を表示する方法はフランスの物理学者ポアンカレ(\(\mathrm{J\cdot H.Poincar}\acute e \)) によって考案されたので、ポアンカレ球と呼ばれます。

 前項では楕円偏光の傾きを示す方位角 \(\alpha\) を定めましたが、前項図4-5を再掲し(図5-1)、角 \(\beta\) を導入します。この角 \(\beta\) は楕円率角と呼ばれ、\(a\)、\(b\) とつぎの関係があります。

\[\mp\frac{b}{a}=\tan\beta\tag{14}\]

ただし頭の符号の意味は前項(19)式に対して逆の符号をとることを意味します。これにより \(0\le\beta\le\pi/4\) ならば右回りの楕円偏光、\(-\pi/4\le\beta\le 0\) ならば左回りの楕円偏光になります。

 つぎにこの角 \(\alpha\)、\(\beta\) と基準化した \(S_1 \)、\(S_2 \)、\(S_3 \) の関係を求めます。まず \(S_1 \) は前項で用いた \(\eta\) すなわち、\(E_{0x}/E_{0y}=\tan\eta\) の関係を用い、三角関数の公式を用いて変形すると

\[S_1 =\frac{E_{0x}^2 -E_{0y}^2 }{E_{0x}^2 +E_{0y}^2 }=\frac{1-\tan^2 \eta}{1+\tan^2 \eta}=\cos^2 \eta-\sin^2 \eta=\cos 2\eta\]

となります。

 つぎに \(S_2 \) と \(S_3 \) ですが、前項の(22)×(24)+(23)×(25)より

\[\mp ab=E_{0x}E_{0y}\sin\delta\]

が得られるので、前項(28)式の \(a^2 +b^2 =E_{0x}^2 +E_{0y}^2 \) の関係を用い、さらに \(\sin^2\eta +\cos^2\eta =1\) の関係を用いれば

\[\mp\frac{2ab}{a^2 +b^2}=\frac{2E_{0x} E_{0y} \sin\delta}{E_{0x}^2 +E_{0y}^2}=\sin 2\eta\sin\delta\tag{15}\]

が得られます。したがって

\[S_3 =\sin 2\eta \sin\delta\tag{16}\]

となります。同様に

\[S_2 =\sin 2\eta \cos\delta\]

が得られます。ここでの目的は \(S_1 \)、\(S_2 \)、\(S_3 \) を \(\alpha\) と \(\beta\) を用いて表すことです。そこで(15)、(16)式に(14)式の関係を用いると、

\[S_3 =\frac{2ab}{a^2 +b^2}=\frac{2\frac{b}{a}}{1+\frac{b^2}{a^2}}=\frac{2\tan\beta}{1+\tan^2 \beta}=\sin2\beta\]

が得られます。この関係と(15)式より

\[\sin2\beta =\sin2\eta \sin\delta\]

また前項(15)式より

\[\tan2\alpha=\tan2\eta\cos\delta\]

ですから、この2つの式から \(\delta\) を消去します。両式の辺々を2乗し、\(\sin^2 \delta+\cos^2 \delta=1\) の関係を使うと

\[\cos2\eta =\cos2\alpha\cos2\beta\]

の関係が得られます。これより

\[S_1=\cos2\beta\cos2\alpha\]

となります。以上まとめると

\[\begin{align} S_0 &= 1\tag{17} \\ S_1 &=\cos2\alpha\cos2\beta\tag{18} \\ S_2 &= \sin2\alpha\cos2\beta\tag{19} \\ S_3 &=\sin2\beta\tag{20}\end{align}\]

となります。これより \(S_1 \)~\(S_3 \) は \(\alpha\) と \(\beta\) の2倍の \(2\alpha\) と \(2\beta\) を用いて表されることがわかります。

 ここでポアンカレ球に話を戻します。上記のようにポアンカレ球は図5-2に示すように半径1の球です。この球を地球(地球儀といった方がよいかもしれません)に見立てると、南極から北極に向かって光の進行方向であるz軸を取ります。赤道面をz軸と直交するxy平面とし、この面内に直交するx軸とy軸をとります。今、球の中心を原点Oとし、球の表面上に点Pを取り、OからPに至るベクトル \(\overrightarrow{OP}\) を取ります。

 ここで点Pからxy平面に垂線を下ろし、その足をQとします。このとき \(\angle\)POQを\(2\beta\) とすると、(20)式からベクトル\(\overrightarrow{OP}\) のz成分の長さが \(S_3\) になることがわかります。また角 \(2\beta\) は地球で言えば緯度を表すことになります。

 つぎにこのベクトル \(\overrightarrow{OP}\) のxy平面上の射影OQとx軸とのなす角を \(2\alpha\) とすれば、(18)式からベクトル\(\overrightarrow{OP}\) のx成分が \(S_1\) を示すことになります。同様にy成分が \(S_2\) を示します。そして角 \(2\alpha\) は経度に相当することになります。

 以上からxyz軸はそれぞれ \(S_1\)、\(S_2\)、\(S_3\) 軸となることがわかり、ベクトル\(\overrightarrow{OP}\) は(13)式のベクトル \(\boldsymbol{P}\) と一致し、ストークスベクトルであることが分かります。

 ストークスベクトルは偏光状態を示すことは上記の通りですから、ポアンカレ球の球面上の点は偏光状態に対応することになります。上記のストークスパラメータの例と照らし合わせてみましょう。

 まず直線偏光の場合は、(7)式から \(S_3 =0\) ですから、ポアンカレ球の赤道上の点に対応します。さらにx軸方向、y軸方向の直線偏光の場合は(8)、(9)式から \(S_2 \) も 0 ですから、球面とx軸との2つの交点がこれに対応し、この2点の偏光方向は互いに直交していることも分かります。一般に原点Oに関して対向する点の偏光は互いに直交することになります。

 つぎに円偏光の場合は、(10)、(11)式から分かるように、\(S_1 =S_2 =0\) ですから、z軸上、すなわち北極と南極がこれに相当します。北極が右回り、南極が左回りということになります。

 その他の球上に点は楕円偏光に対応します。北半球が右回り、南半球が左回りということになります。