科学・基礎/結晶光学

3.光と電磁波

 前項ではスネルの法則を導きましたが、屈折率はその物質中の光の速度の真空中の光束に対する比によって定義されることを説明しました。しかし物質によってその中での光の速度がなぜ異なるのかについては説明できていません。

 この説明はつぎのような考えでできそうだと想像できます。まず物質とくに結晶などの固体は原子が密に詰まった状態です。原子は正の電荷をもつ原子核と負の電荷をもつ電子からなっています。一方で光が電磁波であると考えると、電磁波は電界と磁界が振動しながら空間を伝わっていくものですから、これが固体中に入ると原子に作用を及ぼし、電磁波も影響を受けることが想像できます。つまり光と物質は相互に作用を及ぼし合うことになると考えられます。

 この相互作用を詳しくみていけば、光が物質中に進入するとどのようなことが起こるかがわかってくるはずです。この項ではまず電磁波について考えます。電磁波の存在を理論的に予言したのはマクスウェル(J.C.Maxwell)です。その後、ヘルツ(H.Herz)によって実験的に電磁波の存在が証明されました。そしてこの電磁波の理論から伝搬速度を求めると、実測された光の速度に一致することがわかりました。これについて以下に示します。

 マクスウェルの方程式の概要については「付録」に示していますので、これに基づいて電磁波を考えます。電磁波については真空中(空気中もほぼ同等)の伝搬を考えますので、電荷や電流は0です。この条件を入れるとマクスウェルの方程式は

\[\begin{align} &\nabla\cdot\boldsymbol{E} = 0\tag{1} \\ &\nabla\times\boldsymbol{E} = -\frac{\partial\boldsymbol{B}}{\partial t}\tag{2} \\ &\nabla\cdot\boldsymbol{B} =0\tag{3} \\ &\nabla\times\boldsymbol{B } = \varepsilon_0 \mu_0 \frac{\partial\boldsymbol{E}}{\partial t}\tag{4}\end{align}\]

となります。ここで(4)式の両辺を時間微分します。そしてその左辺に(2)式の関係を代入し、\(\boldsymbol{B}\) を \(\boldsymbol{E}\) に変換します。

\[左辺=\frac{\partial}{\partial t}(\nabla\times\boldsymbol{B})=\nabla\times\frac{\partial\boldsymbol{B}}{\partial t}=\nabla\times(-(\nabla\times\boldsymbol{E}))=-\nabla\times(\nabla\times\boldsymbol{E})\]

となります。ここで任意のベクトル \(\boldsymbol{A}\) に対しての公式 \[\nabla\times(\nabla\times\boldsymbol{A})=\nabla(\nabla\cdot\boldsymbol{A})-\nabla^2 \boldsymbol{A}\]

と(1)式の関係を用いると

\[左辺=-\nabla (\nabla\cdot\boldsymbol{E})+\nabla^2 \boldsymbol{E}=\nabla^2 \boldsymbol{E}\]

となります。なお、\(\nabla^2 \) はラプラスの作用素(ラプラシアン)を呼ばれ、xyz座標系では

\[\nabla^2 =\frac{\partial^2}{\partial x^2}+\frac{\partial^2}{\partial y^2}+\frac{\partial^2}{\partial z^2}\]

を意味します。

 一方(4)式右辺を時間微分すると

\[右辺=\frac{\partial}{\partial t}(\varepsilon_0 \mu_0 \frac{\partial\boldsymbol{E}}{\partial t})=\varepsilon_0 \mu_0 \frac{\partial^2\boldsymbol{E}}{\partial t^2}\]

となります。したがって(4)式の微分により、次式の微分方程式が得られます。

\[\nabla^2 \boldsymbol{E}=\varepsilon_0^2 \mu_0^2 \frac{\partial^2 \boldsymbol{E}}{\partial t^2}\tag{5}\]

 この電界 \(\boldsymbol{E}\) に関する微分方程式(5)は波動方程式と呼ばれています。

 同様に(2)式の両辺を微分し、左辺に(4)式の関係を代入して \(\boldsymbol{E}\) を \(\boldsymbol{B}\) に変換し、(3)式の関係を使うことによって

\[\nabla^2 \boldsymbol{B}=\varepsilon_0^2 \mu_0^2 \frac{\partial^2 \boldsymbol{B}}{\partial t^2}\tag{6}\]

が得られ、磁束密度 \(\boldsymbol{B}\) についても同様に波動方程式(6)が得られることがわかります。

 これらの波動方程式がどのような解をもつかを考えます。波動方程式という名前は波動を表す関数が解になっていることを示していますから、まずは次式で表される電界と磁束密度の平面波を考えます。

\[\boldsymbol{E}=\boldsymbol{E}_0\exp i\{\omega t-k(\boldsymbol{r}\cdot\boldsymbol{e}_k)\}\tag{7}\]

\[\boldsymbol{B}=\boldsymbol{B}_0\exp i\{\omega t-k(\boldsymbol{r}\cdot\boldsymbol{e}_k)\}\tag{8}\]

 平面波とはどのような波かというと、2項でも少し説明しましたが、波面すなわち等位相面が平面である波ということになります。そのイメージを図3-1に示します。平面波の他には例えば球面波というものもあります。これは1点から発した波が空間を等方的に伝わる場合で、波面が球面になります。

 複素関数の exp はオイラーの公式で実部または虚部をとると正弦波を表す関数になります(半導体物理学、15、16項参照)。ここで \(\boldsymbol{E}_0\) と \(\boldsymbol{B}_0\) は定数、\(\boldsymbol{r}\) は位置ベクトル、\(\boldsymbol{e}_k\) は波面の法線方向すなわち波の進行方向を示す単位ベクトル、また \(k\) と \(\omega\) はそれぞれ波動の波数と角周波数です。

 この関数は位置 \(\boldsymbol{r}\) と時間 \(t\) の両方を含む指数(exp)関数です。exp関数は位置、時間のいずれで何回微分しても関数形は変化しないので、定数の関係を定めれば、これが波動方程式の解になることは明らかです。

 ここでマクスウェルの方程式を満たす波動の性質を調べておきます。(7)式を時間 \(t\) で微分すると

\[\frac{\partial\boldsymbol{E}}{\partial t}=i\omega\boldsymbol{E}\]

です。また例えば、\(\nabla\boldsymbol{E}\) の \(x\) 成分を \((\nabla\boldsymbol{E})_x\) と書き、ベクトル \(\boldsymbol{E}\) や \(\boldsymbol{e}_k\) の x、y、z成分を \(E_x\)、\(e_{k,x}\) などと表すと

\[(\nabla\boldsymbol{E})_x =\frac{\partial E_x}{\partial y}-\frac{\partial E_y}{\partial z}=ik(e_{k,y} E_x -e_{k,z} E_y )=ik(\boldsymbol{e}_k\times\boldsymbol{E})_x \]

となり、y、z成分も同様なので

\[\nabla\times\boldsymbol{E}=ik(\boldsymbol{e}_k\times\boldsymbol{E})\]

となります。この関係は \(\boldsymbol{B}\) についての(8)式についても同様です。

 マクスウェルの方程式の第2、第4式に上の関係を代入すると

\[ik(\boldsymbol{e}_k\times\boldsymbol{E})+i\omega\boldsymbol{B}=0\tag{9}\]

\[ik(\boldsymbol{e}_k\times\boldsymbol{B})-\varepsilon_0 \mu_0 i\omega\boldsymbol{E}=0\tag{10}\]

ここで、ベクトル \(\boldsymbol{e}_k\times\boldsymbol{E}\)、\(\boldsymbol{e}_k\times\boldsymbol{B}\) は \(\boldsymbol{e}_k\) に垂直なので、上の(9)、(10)式と \(\boldsymbol{e}_k\) の内積をとれば

\[\boldsymbol{E}\cdot\boldsymbol{e}_k=0\]

\[\boldsymbol{B}\cdot\boldsymbol{e}_k=0\]

が成り立ち、電界と磁界はともに波の進行方向と垂直であること、すなわち電磁波は横波であることがわかります。また、(7)式と \(\boldsymbol{E}\) とのスカラー積をとると

\[\boldsymbol{B}\cdot\boldsymbol{E}=0\]

が成り立ち、電界と磁界も互いに垂直の関係にあることが分かります。

 この電界、磁界の波動のイメージを図3-2に示します。波の進行方向をz方向とし、電界 \(E\) の振動方向をy方向とすると、磁束密度 \(B\)(磁界)の振動方向はこれと直角のx方向となります。

 さて、ここまでは電磁波の話で、光との関係については触れていません。光との関係を知るために今一度波動方程式(取りあえずは電界に関する(5)式)に解である(7)式を代入します。簡単のために図3-2のようにz方向へ進行する波を考え、1次元の次式を(7)式の代わりに用います。

\[E=E_0\exp\{i(\omega t-kz)\}\]

 (5)式左辺の \(z\) に関する2階偏微分、右辺の \(t\) に関する2階偏微分を実行すると

\[k^2=\frac{1}{\varepsilon_0 \mu_0}\omega^2\tag{11}\]

が得られます。ここで波数 \(k\) は \(k=2\pi/\lambda\)、ただし \(\lambda\) は波長、と表され、また角周波数 \(\omega\) は \(\omega=2\pi/T_p\) (ただし \(T_p\) は振動の周期)と表されますから、これを(11)式に代入すると、

\[\sqrt{\varepsilon_0 \mu_0}=\lambda/T_p\]

ここで上式右辺は波動が1波長進行するときの時間、言い換えれば波の進行速度 \(v\) の逆数を示しています。したがって波の進行速度は

\[v=\frac{1}{\sqrt{\varepsilon_0 \mu_0}}\]

と表されます。ここで真空の誘電率 \(\varepsilon_0\) と真空の透磁率 \(\mu_0\) の値は知られており(1)

\[\varepsilon_0 =8.85419\times 10^{-12}\mathrm{F/m}\]

\[\mu_0 =1.25664\times 10^{-6}\mathrm{H/m}\]

ですから、これを上式に代入すると

\[v=2.9979\times 10^8 \mathrm{m/s}\]

 この \(v\) の値は実験的に測定されている光速 \(c\) の値によく一致します。これが光も電磁波であるという一つの論拠になっています。したがって

\[c=\frac{1}{\sqrt{\varepsilon_0 \mu_0}}\tag{12}\]

と書けます。そこで2項で説明しているように、誘電体中に光が進入すると光の進行速度が \(v_d\) が \(c\) より小さくなるのは、誘電体の誘電率 \(\varepsilon\) が \(\varepsilon_0 \) より大きいためと考えることができます。ここで対象としている誘電体は磁性をもたないとして、透磁率は真空の場合の \(\mu_0 \) と変わらないとします。すなわち

\[v_d =\frac{1}{\sqrt{\varepsilon\mu_0}}\tag{13}\]

となります。すなわち(12)式と(13)式の比をとれば

\[\frac{c}{v_d}=\frac{\sqrt{\varepsilon}}{\sqrt{\varepsilon_0}}\]

ですから、2項(2)式での屈折率 \(n\) の定義 \(n={c}/{v_d}\) から

\[n^2 =\frac{\varepsilon}{\varepsilon_0}\tag{14}\]

の関係が得られます。

 通常の電磁波は金属製のアンテナに振動する電気エネルギー(電流や電位)を与えることにより発生します。一方、光は必ずしも電気と関係の無い高温にした固体などからも発生します。これはこのような固体も電荷をもった原子核と電子からなっていて、これらが高いエネルギーをもったときに電磁波を発生すると定性的には考えられます。

 最後に電磁波のエネルギーについて考えます。光のエネルギーは量子力学ではプランク定数と振動数の積で表されますが、光が電磁波であるならば、光のエネルギーも電磁波のエネルギーの観点から求めることができるはずです。ここではマクスウェル方程式から電磁波のエネルギーを導きます。

 まず上に記したマクスウェル方程式のうち、(4)式に電界を掛けます。電界はベクトルなので正確には内積をとります。真空中ということで省かれていますが、(4)式には元々は電流 \(\boldsymbol{j}\) の項があります。したがってこれに電界を掛けると、次元としてはエネルギーに一致する式が得られます。正確には電流は電流密度でこれに電界をかけると、単位体積、単位時間当たりのエネルギーの次元になります。(4)式と \(\boldsymbol{E}\) の内積をとると

\[\begin{align}\boldsymbol{E}\cdot(\nabla\times\boldsymbol{B}) &= \varepsilon_0\mu_0\boldsymbol{E}\cdot\frac{\partial\boldsymbol{E}}{\partial t} \\ &= \frac{1}{2}\varepsilon_0\mu_0\frac{\partial}{\partial t}\boldsymbol{E}\cdot\boldsymbol{E}\tag{15}\end{align}\]

さらに(2)式と \(\boldsymbol{B}\) の内積をとると

\[\boldsymbol{B}\cdot (\nabla\times\boldsymbol{E})=-\frac{1}{2}\frac{\partial}{\partial t}\boldsymbol{B}\cdot\boldsymbol{B}\tag{16}\]

(15)、(16)式の差をとり、ベクトルの公式

\[\nabla\cdot(\boldsymbol{B}\times\boldsymbol{E})=\boldsymbol{E}\cdot(\nabla\times\boldsymbol{B})-\boldsymbol{B}\cdot(\nabla\times\boldsymbol{B})\]

を適用すると

\[\nabla\cdot(\boldsymbol{B}\times\boldsymbol{E})=\frac{1}{2}\varepsilon_0\mu_0\frac{\partial}{\partial t}\boldsymbol{E}\cdot\boldsymbol{E}+\frac{1}{2}\frac{\partial}{\partial t}\boldsymbol{B}\cdot\boldsymbol{B}\]

が得られます。さらに変形すると

\[\nabla\cdot(\varepsilon_0 c^2 \boldsymbol{E}\times\boldsymbol{B})=-\frac{\partial}{\partial t}(\frac{1}{2}\varepsilon_0\boldsymbol{E}\cdot\boldsymbol{E}+\frac{1}{2}\varepsilon_0 c^2 \boldsymbol{B}\cdot\boldsymbol{B})\tag{17}\]

となります。\(c\) は真空中の光の速度です。ここで右辺の \(\frac{1}{2}\varepsilon_0 E^2\) は静電エネルギーの場合で同じ形が知られています。コンデンサに電荷 \(Q\) が帯電している場合の単位面積当たりのエネルギー \(E_s \) は

\[E_s =\frac{1}{2}QV=\frac{1}{2}CV^2 =\frac{1}{2}\varepsilon_0 E^2\]

となり、意味は異なりますが、式の形は同じになりますから、(17)式はエネルギーを示していることがわかります。ここで静電容量 \(C\) のコンデンサは極板間が真空で、極板間距離が \(d\)、極板間の電位差が \(V\)、電界が \(E\) であるとしました。

 なお、(17)式において

\[\boldsymbol{S}=\varepsilon_0 c^2 \boldsymbol{E}\times\boldsymbol{B}\tag{18}\]

をポインティングベクトル(J.H.Poyntingにより提唱されたのにちなんでこの名で呼ばれる)と呼んでいます.電磁波のエネルギーをその進行方向とともに示すベクトルです。

 光のエネルギーを \(u\) とすると、光においては \(E=cB\) ですから

\[u=\frac{1}{2}\varepsilon_0 E^2+\frac{1}{2}\varepsilon_0 c^2\left (\frac{E^2}{c^2}\right )=\varepsilon_0 E^2\]

となります。電界 \(E\) は場所によって変化しますから、光の強度 \(I\) としては時間平均をとる必要があります。平均値を \(\lt \gt_{av} \) と表すことにすると

\[I=\lt u \gt_{av}=\varepsilon_0 \lt E^2 \gt_{av}\]

と書けます。ここで \(E^2 \) の時間平均値は \(E\) の振動周期 \(T_c \) より十分長い時間 \(T\) の範囲で求める必要があります。電磁波は(7)式の実部により表されるとすれば

\[\begin{align} \lt E^2 \gt_{av} &= \frac{1}{T}\int_0^T E^2\mathrm{d}T \\ &= \frac{1}{T}\int_0^T E_{0}^2\cos^2 (\omega t-kz)\mathrm{d}t \\ &= \frac{E_{0}^2}{T}\int_0^T \left ( \frac{1}{2}+\frac{1}{2}\cos2\left ( \omega t-kz \right ) \right ) \mathrm{d}t \\ &= \frac{1}{2}E_{0}^2 \end{align}\]

となります。ただし \(E_{0}\) は電界の振幅です。したがって光の強度 \(I\) は

\[I=\frac{1}{2}\varepsilon_0 E_{0}^2\tag{19}\]

と表されます。

(1) これらの定数については、例えば毎年発行の、国立天文台編「理科年表」(丸善出版)物理/化学部、基礎物理定数 の一覧表参照。