科学・基礎/結晶光学
<付録>マクスウェルの方程式
3項で電磁波の理論を説明していますが、そのベースにあるのが電磁気学の基本方程式であるマクスウェルの方程式です。マクスウェルの方程式は4つの式から成り立っていますが、これらは何かの公理から数学的に導かれた定理ではなく、先人によって行われた実験結果から導かれた電磁気学の基本法則を一般化して表したものです。以下、各式ごとに基本法則との関係を説明していきます。このような説明は「高校数学でわかるマクスウェル方程式」1) にていねいに説明されています。
第1式 第1式は電荷によって発生する電界についての式です。 空間に電荷が存在するとその周りに電界が発生します。また電界が存在する空間では電荷に力がはたらきます。2つの電荷間にはたらく力についてはクーロンの法則があります。2つの電荷 \(q_1\) と \(q_2\) の間にはたらく力は電荷間の距離 \(r\) の2乗に反比例し、つぎのような関係になります。これはフランスのC.Coulombによって18世紀後半に実験的に見出された法則です。万有引力の法則とよく似た関係ですが、\(q_1\) と \(q_2\) が同符号の場合は斥力、異符号の場合は引力となる点が異なります。
\[F=k\frac{q_{1}q_{2}}{r^2}\]
ここで定数 \(k\) の値はMKS単位系で \(k=9.0\times 10^9 \mathrm{Nm}^{2}/\mathrm{C}^2\) です。
この関係で一方の電荷 \(q_2\) にはたらく力を考えると、力 \(F\) は \(kq_{1}/r^2\) に比例することがわかります。ここで \(E=kq_{1}/r^2\) を「電界」と定義すると
\[F=qE\]
の関係が得られます。ただし \(q_2\) を一般の電荷 \(q\) に置き換えました。
ここで付図1に示すように、この点電荷 \(q\) を中心に置いた半径 \(r\) の球を考えると、この球面上ではどこでも電荷 \(q\) からの距離が \(r\) に等しいので、電界 \(E\) の強さも一様になります。
ここで球の表面積 \(S=4\pi r^2\) と球の表面での電界の強さ \(E\) の積をとってみると \(SE=4\pi kq\) となってその値は球の半径に依らないことがわかります。MKS単位系の電磁気学では
\[\varepsilon_0 =\frac{1}{4\pi k}\]
と置くことになっており、ここで真空の誘電率 \(\varepsilon_0\) が登場します。すなわち
\[E \times 4\pi r^2 =\frac{q}{\varepsilon_0}\]
という関係が得られます。これを拡張して、電荷が1個の点電荷だけでなく複数ある場合、さらには分布して存在する場合も含めて考えることにし、位置の関数として電荷密度 \(\rho\) を考えます。そしてこれらの電荷をすべて積分した球内の全電荷量から電界が発生すると考えればよいことなります。
さらに電界と球の表面積の積も一般化します。電荷を囲む球を考えてきましたが、電界の強さは球の半径には無関係なので、立体は球に限る必要はありません。すべての電荷を囲う閉じた面をもった立体であれば形状は問わないことになります。この面における電界の強度を面すべてにわたって積算すればよいので、
\[\int_S \boldsymbol{E}\cdot\mathrm{d}\boldsymbol{S}=\frac{1}{\varepsilon_0}\int_V\rho\mathrm{d}V\tag{1}\]
と書けます。ここで左辺の積分は面積分と呼びます。電界 \(E\) をベクトルで表し、これが閉曲面 \(S\) を横切るときの法線方向成分をすべて足し合わせることを意味しています。実際に計算するためには面の方程式をxyz座標などで書き、これに直交する電界成分を面全体にわたって積分計算する必要があります。 右辺の積分は体積分と呼ばれ、閉曲面内の電荷をすべて足し合わせるという意味です。以上より(1)式は積分形式で書いたガウス(K.F.Gauss)の法則と呼ばれ、これがそのままマクスウェルの方程式の第1式となっています。
第3式 式の意味が第1式と共通であるので、先に第3式を説明します。これは磁界に関するガウスの法則と呼ばれます。電荷と異なり、磁荷の場合は単独で存在することができません。付図2にはS極とN極が棒状の磁性体の両端にある永久磁石、いわゆる棒磁石を含む空間を示しますが、図に示すように、空間部分のみを含む閉曲面でも磁石を含む閉曲面でも磁束の出入りがつりあっていて、これが電界の場合と異なります。このことから磁束密度を \(B\) として
\[\int_S \boldsymbol{B}\cdot\mathrm{d}\boldsymbol{S}=0\tag{3}\]
が成り立ちます。これが第3式です。
第2式 第2式に戻ると、これは電磁誘導に関する式で、ファラデー(M.Faraday)の法則がベースになります。ファラデーの法則は磁束 \(\phi\) が時間変化すると起電力 \(V_e\) が発生するというものです。ファラデーの行った実験は、付図3に示すように、コイルの両端に電圧計をつないでおき、そのコイルの中で磁石を動かすというものです。その結果としてコイルに電流が流れ、両端に電圧が発生するのが観測されました。この現象を表す式としては
\[-\frac{\mathrm{d}\phi}{\mathrm{d}t}=V_e \]が成り立つと考えられます。マクスウェルの方程式の場合は、磁束を磁束密度 \(B\) のベクトルで表し、その周りを囲む電線に電界 \(E\) (これもベクトル)が発生したとして
\[\oint_C \boldsymbol{E}\cdot\mathrm{d}\boldsymbol{r}=-\frac{\mathrm{d}}{\mathrm{d}t}\int_S \boldsymbol{B}\cdot\mathrm{d}\boldsymbol{S}\tag{2}\]
と表します。ここで \(\oint\) を周回積分といい、閉じた曲線Cに沿って、つまりコイルの電線に沿って1周分を積分するという意味です。\(\boldsymbol{r}\) は周回方向を示すベクトルです。これがマクスウェルの方程式の第2式になります。
第4式 これはアンペール(A.M.Ampere)の法則です。アンペールの法則とは付図4に示すように電線に電流 \(I\) が流れるとその周囲、半径 \(r\) の円周上に磁界 \(H\) が発生し、電流と磁界の間に
\[H=\frac{I}{2\pi r}\]
の関係があるというものです。円周は円でなく閉曲線であればよく、電流もこの閉曲線のなかを流れる電流の総計で計算します。このように一般化したアンペールの法則は磁界 \(H\) をベクトルで表し、
\[\oint_C \boldsymbol{H}\cdot\mathrm{d}\boldsymbol{r}=\int_S\boldsymbol{j}\cdot\mathrm{d}\boldsymbol{S}\]
と書けます。ただし \(\boldsymbol{j}\) は電流密度(ベクトル)を表します。この磁界 \(H\) は定常電流だけでなく、コンデンサを充電するとき流れるような時間変化する電流(変位電流)によっても発生します。一例としてコンデンサの充電の際、流れる電流を考えると、充電電流密度 \(J\) は単位面積当りの静電容量が \(C\) のコンデンサの極板上の電荷密度 \(Q\) の時間変化で与えられますから
\[J(t)=\frac{\mathrm{d}Q}{\mathrm{d}t}\]
と書けます。コンデンサの極板間の電圧を \(V_d \) とすると \(Q=CV_d \) 、コンデンサ内の誘電体の誘電率を \(\varepsilon\)、コンデンサの極板間の距離を \(d\) とすると \(C=\varepsilon/d\) です。極板間の電界を \(E\) とすると、\(E=V_d /d\) ですから、上式は
\[J(t)=Cd\frac{\mathrm{d}E}{\mathrm{d}t}=\varepsilon\frac{\mathrm{d}E}{\mathrm{d}t}\]
と変形されます。この \(J(t)\) を変位電流として上記アンペールの法則に加えると
\[\oint_C \boldsymbol{H}\cdot\mathrm{d}\boldsymbol{r}=\int_S \boldsymbol{j}\cdot\mathrm{d}\boldsymbol{S}+\frac{\mathrm{d}}{\mathrm{d}t}\int_S\varepsilon \boldsymbol{E}\cdot\mathrm{d}\boldsymbol{S}\tag{4}\]
が得られます。マクスウェルによって変位電流の項が加えられたことから、これをマクスウェル-アンペールの法則と呼ぶことがあります。これが第4式です。
以上4つの式を再度掲げると(1i)~(4i)式となります。これらはいずれも積分を使って記述されています。これを積分形式のマクスウェルの方程式と呼びます。
\[\begin{align}\int_S\boldsymbol{E}\cdot\mathrm{d}\boldsymbol{S} &= \frac{1}{\varepsilon_0}\int_V\rho\mathrm{d}V\tag{1i} \\ \oint_C \boldsymbol{E}\cdot\mathrm{d}\boldsymbol{r} &= -\frac{\mathrm{d}}{\mathrm{d}t}\int_S \boldsymbol{B}\cdot\mathrm{d}\boldsymbol{S}\tag{2i} \\ \int_S \boldsymbol{B}\cdot\mathrm{d}\boldsymbol{S} &= 0\tag{3i} \\ \oint_C \boldsymbol{H}\cdot\mathrm{d}\boldsymbol{r} &= \int_S \boldsymbol{j}\cdot\mathrm{d}\boldsymbol{S}+\frac{\mathrm{d}}{\mathrm{d}t}\int_S\varepsilon \boldsymbol{E}\cdot\mathrm{d}\boldsymbol{S}\tag{4i}\end{align}\]
以降は数学的な話になりますが、数式の見やすさ、取り扱い易さのため、微分形式で書かれたマクスウェルの方程式が知られています。これを結果から先に書き下すとつぎのようになります。
\[\begin{align}&\nabla\cdot\boldsymbol{E}=\mathrm{div}\boldsymbol{E}=\frac{\rho}{\varepsilon_0}\tag{1d} \\ &\nabla\times\boldsymbol{E}=-\frac{\partial\boldsymbol{B}}{\partial{t}}\tag{2d} \\ &\nabla\cdot \boldsymbol{B} =0\tag{3d} \\ &\nabla\times\boldsymbol{H}=\boldsymbol{j}+\varepsilon\frac{\partial\boldsymbol{E}}{\partial t}\tag{4d}\end{align}\]
微分形式では、各物理量がベクトルで表わされ、対象が3次元であっても数式が簡略に書けます。
ここで \(\nabla\) はナブラと呼ばれ、xyz座標系では
\[\nabla=\boldsymbol{e}_{x}\frac{\partial}{\partial x}+\boldsymbol{e}_{y}\frac{\partial}{\partial y}+\boldsymbol{e}_{z}\frac{\partial}{\partial z}\]
を意味します。 \(\boldsymbol{e}_{x}\)、\(\boldsymbol{e}_{y}\)、\(\boldsymbol{e}_{z}\) はそれぞれx、y、z方向の単位ベクトルです。さらに \(\nabla\cdot\) は"div"とも書き、任意のベクトル \(\boldsymbol{u}\) を
\[\boldsymbol{u}=u_x\boldsymbol{e}_x +u_y\boldsymbol{e}_y +u_z\boldsymbol{e}_z\] とすると
\[\nabla\cdot\boldsymbol{u}=\mathrm{div}\boldsymbol{u}=\frac{\partial u_x}{\partial x}+\frac{\partial u_y}{\partial y}+\frac{\partial u_z}{\partial z}\]
を意味します。これをベクトル \(\boldsymbol{u}\) の発散(divergens)と言います。
また \(\nabla\times\) は"rot" とも書き、
\[\nabla\times\boldsymbol{u}=\mathrm{rot}\boldsymbol{u}=(\frac{\partial u_x}{\partial y}-\frac{\partial u_y}{\partial z})\boldsymbol{e}_x +(\frac{\partial u_x}{\partial z}-\frac{\partial u_z}{\partial x})\boldsymbol{e}_y+(\frac{\partial u_y}{\partial x}-\frac{\partial u_z}{\partial y})\boldsymbol{e}_z\]
を意味します。これをベクトル \(\boldsymbol{u}\) の回転(rotation)と言います。
この積分形式から微分形式への変換は(1)式と(3)式の場合は、任意のベクトル \(\boldsymbol{A}\) に対するガウスの発散定理
\[\int_S\boldsymbol{A}\cdot\mathrm{d}\boldsymbol{S}=\int_V\nabla\cdot\boldsymbol{A}\mathrm{d}V\]
により、行うことができます。(1i)式について上式の関係を適用すると、
\[\int_S \boldsymbol{E}\cdot\mathrm{d}\boldsymbol{S}=\int_V\nabla\cdot\boldsymbol{E}\mathrm{d}V\]
となります。ここで、任意の関数 \(f\) と \(g\) に対して
\[\int_{V} f\mathrm{d}V=\int_{V} g\mathrm{d}V\]
が成り立つならば、\(f=g\) です(これも本当は証明が必要ですが省略します)。これを用いれば(1d)式が成り立つことがわかります。(3i)式からも同様に(3d)式が導けます。
(2)式と(4)式の場合は同じくストークスの定理
\[\oint_C\boldsymbol{A}\cdot\mathrm{d}\boldsymbol{r}=\int_S(\nabla\times\boldsymbol{A})\cdot\mathrm{d}\boldsymbol{S}\]
を用いて変換することができます。(2i)式より、
\[\oint_C \boldsymbol{E}\cdot\mathrm{d}\boldsymbol{r}=\int_S(\nabla\times\boldsymbol{E})\cdot\mathrm{d}\boldsymbol{S}=-\int_S\frac{\partial\boldsymbol{B}}{\partial t}\cdot\mathrm{d}\boldsymbol{S}\]
が成り立ち、(2d)式が成り立つのがわかります。(4i)式についても同様にして(4d)式を得ることができます。
なお、ここではガウスの発散定理とストークスの定理自体の証明については省略します。
(1)竹内惇「高校数学でわかるマクスウェル方程式」ブルーバックス、2002、講談社