光デバイス/光制御素子
12.光導波路(その1)
後続の項ではいろいろな種類の光制御素子を紹介していきますが、その前に光制御素子に共通的に使われる基本的な要素について2つだけ説明をしておきます。一つ目は光導波路です。この項と次項の2項にわたって取り上げます。
光導波路とはその語の通り、波動としての光を導く路のことです。光はビームとして空間を伝わることができますから、この光ビーム自体に何か作用を及ぼして制御することもできます。例えば鏡を置いて進路を折り曲げるとか、レンズを置いて絞る(集束させる)とか。しかしこのような機能を設計通り発揮させるためには、用いる光学素子の位置関係は正確でなければならず、僅かな誤差でも光学系の機能が失われてしまう恐れもあります。これは光学系が複雑になればなるほど厳しくなっていきます。そこで光学実験では定盤と呼ばれる大きな鉄板を用い、その上に光学素子をマグネットで固定して位置を定める方法がとられます。しかしこれでは系全体の大型化は避けられません。
そこで考えられたのが光導波路です。もともと光に近い性質をもつ波長の短いマイクロ波などの電磁波を導くための導波管というものがあります。これはその名の通り、金属製の中空の管で、金属の表面で電磁波が反射を繰り返すことにより伝搬します。光導波路は屈折率の異なる透明な誘電体の界面での全反射を利用する点では導波管と異なりますが、導波の原理は共通点が多く、先に検討がなされた導波管の理論が光導波路に適用されている場合が多くなっています。
全反射の原理は「結晶光学」2項で説明していますが、屈折率の異なる2つの誘電体が接している境界では、屈折率の大きい側から境界面に入射する光はある角度より浅い角度で入射すると境界面で反射され、屈折率の小さい側に入れずに屈折率の大きい側に閉じ込められます。そこである屈折率の誘電体の周囲をそれより小さい屈折率の誘電体で覆ってしまえば、中の誘電体中を進行する光は、その中に閉じ込められることになります。
ただ光が光導波路内を伝搬できる条件はこれだけではなく、さらに条件が必要です。その辺りをもう少し以下で説明します。
図12-1に示すように屈折率 \(n_1 \) の平板状誘電体1の両側を屈折率 \(n_2\) と \(n_3\) の平板状誘電体2、3で覆った構造を考えます。ただし \(n_1 \gt n_2 \gt n_3\) であるとします。
誘電体1中を進行してきた光線は、誘電体2または3との境界に入射する角度によって全反射されたり、誘電体1から誘電体2、または3側に侵入したりします。その関係を数式を使って表してみます。
まず角度のとり方ですが、「結晶光学」2項では界面に対する垂線からの角度をとっています。一般に入射角という場合はこのとり方をしますが、光導波路の場合は界面からの角度をとることもあります。入射角等を実測する場合に実際に見ることができる界面からの方が測りやすいからかもしれません。いずれをとっても互いに補角の関係になるので大した違いはありませんので、ここでは図12-2に示すように、角度をとっています。
誘電体1の端面(誘電体各層に垂直な面とします)から入射角 \(\theta_i \) で光が入射するとし、外界の屈折率を \(n_0\) (空気なら \(n_0 =1\))とすると、スネルの法則(「結晶光学」2項の(3)式)により、屈折率 \(n_1\) の誘電体1内へ入射する屈折光の角度 \(\theta_1 \) は
\[n_0 \sin\theta_i =n_1 \sin\theta_1 \]
で与えられます。この光線が誘電体2との界面に界面からの角度 \(\theta_1 \) で入射します。この界面での臨界角 \(\theta_c\) は
\[\theta_c =\sin^{-1}\left (\frac{n_2}{n_1}\right )\tag{1}\]
で与えられますが、導波路に光が閉じ込められるためには、光線が界面に下ろした垂線に対して \(\theta_c \) より大きい角度で入射する必要があります。したがって導波路端面での入射角が大きいとその光は導波路に閉じ込められないことになります。その最大入射角(これも図のように入射面の垂線に対してとります)を \(\theta_{max}\) とすると、空気中からの入射として
\[\sin\theta_{max} =n_1 \cos\theta_c \tag{2}\]
と表されます。図のピンク色で表した範囲がこの角度範囲を示しています。ここで \(\sin\theta_{max}\) を開口数(Numerical Aparcher)といい、しばしば頭文字を取って「NA(エヌ・エー)」と呼ばれます。NAが大きいほど光導波路の端面に対する入射角を大きくでき、光導波路へ光が入射しやすいことを表しますから、光ファイバなどの光導波路の性能を示す指数として使われます。
導波路端面への入射光の入射角が \(\theta_{max}\) より大きくなり、図のピンク色の領域の外側になると光は誘電体1内に留まれず、図の青色の破線のように誘電体2内へ出ることになります。このような光を放射光と呼んでいます。
ところで(1)式は \(\cos^2 \theta_c +\sin^2 \theta_c =1\) の関係を使えば
\[\cos\theta_c =\sqrt{1-\left (\frac{n_2}{n_1}\right )^2 }=\sqrt{\frac{n_1^2 -n_2^2}{n_1^2}}\]
とも書けます。 \(n_1\) と \(n_2\) の差は小さいので \(n_1 +n_2 \simeq 2n_2 \) とみなせ、
\[\cos\theta_c \simeq \sqrt{\frac{(n_1 -n_2 )2n_1}{n_1^2}}=\sqrt{\frac{2(n_1-n_2 )}{n_1}}\]
と近似できます。ここで
\[\Delta=\frac{n_1^2 -n_2^2}{2n_1^2}\tag{3}\]
と置き、\(\Delta\) を比屈折率差と呼びます。これを用いると
\[\mathrm{NA}=\sin\theta_{max}=n_1 \sqrt{2\Delta}\]
とも書けることになります。
さて光導波路中に光が閉じ込められて伝わるには屈折率が異なる界面での全反射の条件が必要であることがわかりました。この条件が満たされれば一見よいように思われますが、実はさらに条件が必要です。
図12-3に示すように、導波路内の光線は屈折率の界面で反射を繰り返しながら進んでいきます。光導波路の長手方向であるz方向には波長に比べて十分な長さがありますので、とくに制限はありませんが、これと垂直なx方向には導波路の幅による制限があります。
ここで真空中での光の波長を \(\lambda\) とすると、「結晶光学」3項などでも示している波数 \(k_0 \) は\(k_0 =2\pi/\lambda\)で定義され、これは単位長さ当たりの位相の変化を表します。屈折率 \(n_1\) の層中では波長が真空(空気)中の \(1/n_1 \) になるので、実効的な波数は \(n_1\) 倍となります。
図12-3に示すように光導波路の幅を \(a\) とし、界面に角度 \(\theta\) で入射する光線が点Aから出発し界面で反射され、同じx座標の点A'へ戻ってくるときの位相変化は \(2n_1 k_0 a\sin\theta\) で表されます。この位相変化が \(2\pi\) の整数倍であり、同じx座標における位相が変化しないことが、光が光導波路内に閉じ込められる条件となります。この条件は、言い換えれば光導波路の幅方向には定在波となる条件です。以上とは別に屈折率界面での反射で位相がさらに \(\Phi\) だけずれるとすると、上記1周期の間に2回の反射が起こることを考慮して、条件は \(N\) を整数として
\[2n_1 k_0 a\sin\theta-2\Phi=2\pi N\]
となります。なお、\(n_{eff}=n_1 \sin\theta\) と置き、\(n_{eff}\) をこの導波層の等価屈折率または実効屈折率と言います。さらに \(\beta=k_0 n_{eff}\) をこの導波路の伝搬定数と言います。これを用いると上式は
\[a\beta-\Phi=\pi N\]
となります。伝搬定数 \(\beta\) を用いると、導波路の性質(モード)を次のように端的に見極めることができます。
\(n_1 k_0 \gt \beta \gt n_2 k_0 \gt n_3 k_0\) であれば導波モードです。
\(n_1 k_0 \gt n_2 k_0 \gt n_3 k_0 \gt \beta\) であれば放射モードです。
\(n_1 k_0 \gt n_2 k_0 \gt \beta \gt n_3 k_0\) であれば屈折率 \(n_3\) のクラッド層側だけ放射モードとなります。
なお、界面での位相変化 \(\Phi\) については次項で取り上げます。
光導波路の種類
光導波路の構造上の種類について触れておきます。光導波路で光が伝搬する高屈折率層のことをコアと呼び、周囲の低屈折率層のことをクラッドと呼んでいます。光ファイバは光導波路の一種ですが、これは図12-4(a)のように、コア、クラッドとも円筒状です。
一般に光制御デバイスに使われる光導波路は平板型の方が普通です。平板導波路のもっとも簡単な構造は同図(b)のような低屈折率層-高屈折率層-低屈折率層と積層したものです。低屈折率材料の基板を用いれば、その上に2層の薄膜を積層するだけで作ることができます。このような構造の光導波路を2次元光導波路と呼びます。スラブ導波路とかプレーナ導波路という呼び方もあります。
2次元導波路はコアに相当する層が面方向に広がっているので、この方向には光が閉じ込められません。そこで同図(c)に示すようにコア層を加工して一定幅を残して除去した構造の光導波路があります。これを3次元導波路と呼びます。チャネル導波路という呼び方もあります。面内方向にも光が閉じ込められるようになり、光が進行する方向をより厳密に決めることができるようになります。例えば光の進行する方向を導波路の形状に従って曲げるようなこともできるようになります。
この2次元導波路と3次元導波路の中間のような構造のものも使われています。同図(d)はリッジ型と呼ばれるもので、高屈折率層の導波路となる中央部分の厚さが厚く、周囲の部分が薄く加工されています。これでも実効的に中央部分の屈折率が高くなるので、2次元導波路より側方の閉じ込め効果が向上します。
もう一つのタイプは同図(e)に示すように高屈折率層の中央部分の上により高い屈折率の層を積層したもので、装荷型と呼ばれます。この方法によっても光は中央部分に閉じ込める効果が現れます。
以上、光導波路の構造の主な種類を説明しましたが、屈折率層の境界部分の状態が異なるタイプのものがあります。上で取り上げた光導波路ではコア層とクラッド層の屈折率が境界面で急激に変化しています。すなわち屈折率が階段(ステップ)状に変化しているので、階段屈折率(ステップインデクス)型と呼ぶことがあります。
これに対し、コア層とクラッド層の境界の屈折率が徐々に変化している場合があります。これでも光を屈折率の高い側に閉じ込めることができます。これを傾斜屈折率(グレーデッドインデクス)型と呼んでいます。
この二つの種類の光導波路は製造方法が異なります。ステップインデクス型は上記のようにコア層とクラッド層を積層することによって作るのが一般的です。一方、グレーデッドインデクス型は屈折率の高い層に含まれる元素を周囲の屈折率の低い層の中に拡散などの方法によって導入する方法によってコア層が形成されます。この場合は屈折率の境界部分で徐々に屈折率が変化することになります。
なお、上記の製造方法は平板型(プレーナ)導波路に関するもので、円筒状の光ファイバの製造方法はこれとはまったく異なりますが、ここでは省略します。
以上の説明では、光を直進する光線とみなしました。しかしこれまで説明してきた通り、光は電磁波であり、波動の性質をもっています。そこで本来は波動としての性質を考慮して考えないと、光導波路の詳しい特性は明らかにできません。次項ではこの点を考慮した理論的な取り扱いについて考えます。