光デバイス/光制御素子
14.回折格子
光制御素子に共通的に使われる基本的な要素について、前2項では光導波路について説明しました。もう一つの基本的な要素として回折格子(グレーティング、Grating)を取り上げておきます。
回折格子は入射する光線の方向を変えるはたらきがあり、その方向は波長に依存するので、光を波長によって分けるはたらき、すなわち分波あるいは分光するはたらきがあります。このはたらきを利用したのが分光器で、これは分析機器として重要な役割を担っています。
回折格子は光を透過させて使用する場合と、反射させて使う場合があります。反射させて使うための回折格子は図14-1(a)に示すように表面に周期的な凹凸構造が形成されていて、反射して用いるので金属でできていてもよいですし、透明な固体であってもよいです。
一方、光を透過させて使うタイプは基本的に透明な固体で、上記と同様に表面に凹凸形状が設けられていてもよいですが、図14-1(b)に示すように内部に周期的な屈折率変化が設けられている場合もあります。この屈折率変化は、屈折率の違う固体を積層して形成する場合もありますし、8~11項で述べたように均一な材料に対して外力によって屈折率変化を周期的に形成する場合もあります。後者は外力によって回折格子の特性を変更できるという特徴があります。
透過型は模式的に示すと図14-2のように不透明な板に等間隔 \(d\) で孔が空いているものと考えられます。入射光が入射角 \(\alpha\) で板に空いた孔に入射し、出射角が \(\beta\) になるように出射したとします。このとき入射側の光路長AO’が出射側の光路長OBの差が光の波長 \(\lambda\) の整数倍になれば、この2つの光の位相が一致するので打ち消しあうことなく出射します。すなわち、つぎの条件を満たすように出射角 \(\beta\) が決まります。
\[d(\sin\alpha-\sin\beta)=m\lambda\]
ここで \(m\) は \(m=\pm 1,\pm 2\cdots\) で、回折次数と呼ばれます。
一方、反射型は、模式的には図14-3に示すように何らかの反射点が等間隔 \(d\) で並んでいるような場合と考えられ、この場合の入射光の入射角 \(\alpha\) と反射光の出射角 \(\beta\) の間の関係は
\[d(\sin\alpha+\sin\beta)=m\lambda\]
となります。
ところで図14-1(b)のように透明な固体中に屈折率の周期変化が設けられている場合、図14-4に示すように間隔 \(d\) の平行な面での反射によって起こると考える回折も考えられます。この場合は2つの面で反射した光の光路差AOBが波長の整数倍になっている必要があります。すなわち
\[2d\sin\theta=m\lambda\]
の関係が得られます。ここで \(n\) は固体の屈折率です。これは「結晶の話」11項で述べたようにブラッグの法則あるいはブラッグ回折と呼ばれるものです。結晶の場合は原子が平面上に並んで作る平行な結晶面でX線が反射されることにより回折が生じますが、人為的に作られた屈折率の周期構造でも同様な回折が生じます。なお、「結晶の話」11項では上式右辺は波長を結晶の屈折率で割ってありますが、ここでは上記他の例も同様ですが、\(\lambda\) は伝搬している媒体中の波長とみなします。
もう一つ別のタイプの回折を挙げます。図14-5に示すように透過型の回折格子で屈折率の大小の繰り返しがあるとします。この屈折率の変化方向と垂直に光ビームを入射したとします。光は屈折率の大小に応じて位相が変化します。すなわち屈折率が高い部分を通過した光は位相が遅れて出射されます。この回折格子の幅が短く、光はほとんど屈折率が等しい部分を通過して出射するとします。その場合、出射直後の波面は屈折率の大小の周期にしたがって波状になります。このような光は遠方で複数の次数の回折光となります。
\(m\) 次の回折光の出射角を \(\theta_m\) とすると、
\[\sin\theta_m =m\lambda/d\]
となります。ただし、\(\lambda\) は上記同様、媒体中の波長です。このような回折をとくにラマン-ナス(Raman-Nath)回折と呼んで区別しています。
回折格子には光導波路との関係で重要な役割があります。光導波路へ外部から光を結合するには端面から導入する方法の他に表面から導入するプリズムを用いる方法と回折格子を用いる方法があります。結合に用いる回折格子をグレーティング・カップラ(回折格子結合器)と呼んでします。図14-6に示すように光導波路の表面に回折格子を設けておき、ここに外部空間から光を入射すると、外部光を導波路に結合し伝搬光にすることができます。逆に導波路を伝搬してきた光を外部空間に取り出すこともできます。
回折格子による光導波路への光の結合の理論的説明は光導波路の光結合理論を用いる必要があり、少し長くなるので、付録7に回します。