光デバイス/光制御素子
<付録7>ブラッグ導波路
導波路のコア層表面に周期的な凹凸構造が設けられている、すなわち付図7-1に示すようなコア層表面に回折格子が設けられている場合について検討します。
付録5のモード結合理論のところで、接近した2つの導波路に互いに逆方向に光が伝搬した場合、結合は生じないと言いました。ただしこれは2つの導波路間に回折格子のような何か導波光のモードに変化を与えるような構造があると話は違ってきて結合が生じる場合があります。
ここでは付図7-2に示すように、xy平面上に2本の平行な接近した導波路1、2がz方向に設けられているとし、この2本の導波路に互いに逆方向に光が伝搬している場合を考えます。すなわちそれぞれの光の伝搬定数の符号が異なり、 \(\beta_1 \gt 0\) 、\(\beta_2 \lt 0\) とします。
この導波路1、2の間のxy表面に、周期 \(\Lambda\) の凹凸構造をもっている回折格子が形成されているとします。その形状 \(\chi_{12}(z)\) は、フーリエ展開した次式で表せるとします。
\[\chi_{12}(z)=\chi_G \exp\lbrace -i(2\pi/\Lambda )z\rbrace\tag{1}\]
ただし \(\chi_G\) は定数です。このとき、モード結合方程式は付録5の(17)式同様につぎのように書けます。
\[\begin{align}\frac{\mathrm{d}A_1}{\mathrm{d}z} &= -i\chi_G A_2 \exp\lbrace i(\beta_1 -\beta_2-\frac{2\pi}{\Lambda})z\rbrace \\ \frac{\mathrm{d}A_2}{\mathrm{d}z} &= i\chi_G A_1\exp\lbrace -i(\beta_1 -\beta_2-\frac{2\pi}{\Lambda})z\rbrace\end{align}\tag{2}\]
+z方向に進行する光のパワー \(P\) は \(|A_1 |^2 -|A_2 |^2\) に比例します。エネルギー保存則から
\[\frac{\mathrm{d}}{\mathrm{d}z} \left (|A_1 |^2 -|A_2 |^2\right )=0\]
が成り立つので、
\[\chi_{21}=-\chi_{12}^{\ast}=-\chi_G \exp\left (i\frac{2\pi}{\Lambda}z\right )\tag{3}\]
が得られます。
回折格子は \(0\le z\le L\) の範囲に存在するとし、光は導波路1の一端からだけ入射するとします。すなわち
\(A_1(0)=A_{10}\)、\(A_2(L)=0\) として、付録5と同様な方法で結合方程式((2)式)の解を求めます。結果は
\[\psi=\frac{\beta_1 -\beta_2 -2\pi/\Lambda}{2}\tag{4}\]
をパラメータとして導入し、この \(\psi\) と \(\chi_G\) との大小関係で区分して以下のような形で表されます。
\(|\psi|\gt\chi_G\):
\[\begin{align}A_1 (z) &= A_{10}\frac{\rho\cos\lbrace\rho(z-L)\rbrace -i\psi\sin\lbrace\rho(z-L)\rbrace}{\rho\cos(\rho L)+i\psi\sin(\rho L)}\mathrm{e}^{i\psi z} \\ A_2 (z) &= A_{10}\frac{i\chi_G\sin\lbrace\rho(z-L)\rbrace}{\rho\cos(\rho L)+i\psi\sin(\rho L)}\mathrm{e}^{-i\psi z}\end{align}\tag{5-1}\]
ただし \(\rho =\sqrt{\psi^2 -\chi_G^2}\) です。
\(|\psi |=\chi_G\):
\[\begin{align}A_1 (z) &= A_{10}\frac{1-i\psi (z-L)}{1+i\psi L}\mathrm{e}^{i\psi z} \\ A_2 (z) &= A_{10}\frac{i\chi_G (z-L)}{1+i\psi L}\mathrm{e}^{-i\psi z}\end{align}\tag{5-2}\]
\(|\psi|\lt\chi_G\):
\[\begin{align}A_1 (z) &= A_{10}\frac{\alpha\cosh\lbrace\alpha(z-L)\rbrace-i\psi\sinh\lbrace\alpha(z-L)\rbrace}{\alpha\cosh (\alpha L)+i\psi\sinh(\alpha L)}\mathrm{e}^{i\psi z} \\ A_2 (z) &= A_{10}\frac{i\chi_G\sinh\lbrace\alpha(z-L)\rbrace}{\alpha\cosh(\alpha L)+i\psi\sinh(\alpha L)}\mathrm{e}^{-i\psi z}\end{align}\tag{5-3}\]
ただし \(\alpha=\sqrt{\chi_G^2 -\psi^2}\) です。また、\(\sinh\)、\(\cosh\) は双曲線関数で、それぞれ、\(\sinh x=\frac{\mathrm{e}^x -\mathrm{e}^{-x}}{2}\)、\(\cosh x=\frac{\mathrm{e}^x +\mathrm{e}^{-x}}{2}\) で定義されます。
なお、コア層をクラッド層ではさんだ通常の導波路のコア層またはクラッド層の一部に回折格子が設けられている場合は
\[\beta_1 =-\beta_2=kn_{eff}\tag{6}\]
\[\psi =kn_{eff}-\frac{\pi}{\Lambda}\tag{7}\]
が成り立ち、このような導波路をブラッグ導波路と呼びます。素子への応用では通常このような形になることが多いので重要です。
このような導波路を進行するパワー \(P_f (z)\)、反射されたパワー \(P_b(z)\) は入射パワーで規格化して表すと
\[P_f (z)=\frac{|A_1 (z)|^2}{|A_{10}|^2}\]
\[P_b (z)=\frac{|A_2 (z)|^2}{|A_{10}|^2}\]
と書けます。(5-1)~(5-3)式に対応した区分ごとに整理するとつぎのように書けます。
\(|\psi|\gt\chi_G\):
\[\begin{align}P_f (z) &= \frac{\rho^2 +\chi_G^2\sin^2\lbrace\rho (z-L)\rbrace}{\rho^2 +\chi_G^2\sin^2(\rho L)} \\ P_b (z) &= \frac{\chi_G^2 \sin^2\lbrace\rho (z-L)\rbrace}{\rho^2 +\chi_G^2\sin^2(\rho L)}\end{align}\tag{8-1}\]
\(|\psi|=\chi_G\):
\[\begin{align}P_f (z) &= \frac{1+\chi_G^2(z-L)^2}{1 +\chi_G^2 L^2} \\ P_b (z) &= \frac{\chi_G^2 (z-L)^2}{1 +\chi_G^2 L^2}\end{align}\tag{8-2}\]
\(|\psi|\lt\chi_G\):
\[\begin{align}P_f (z) &= \frac{\alpha^2 +\chi_G^2\sinh^2\lbrace\alpha (z-L)\rbrace}{\alpha^2 +\chi_G^2\sinh^2(\alpha L)} \\ P_b (z) &= \frac{\chi_G^2 \sinh^2\lbrace\alpha (z-L)\rbrace}{\alpha^2 +\chi_G^2\sinh^2(\alpha L)}\end{align}\tag{8-3}\]
(8-1)~(8-3)式の \(P_f(z)\)、\(P_b(z)\) がどのような傾向を示すか、図示してみます。
まず、\(\rho=\pi/L\)、\(\chi_G =2/L\) 、すなわち \(|\psi|\gt\chi_G\) の場合。この場合、(8-1)式は
\[\begin{align}P_f &= 1+\frac{4}{\pi^2}\sin^2(\frac{z}{L}-1)\pi \\ P_b &= \frac{4}{\pi^2}\sin^2 (\frac{z}{L}-1)\pi\end{align}\tag{9-1}\]
となります。一方、\(\alpha=\chi_G =2/L\)、すなわち、\(|\psi|\lt\chi_G\) の場合、(8-3)式は
\[\begin{align}P_f &= \frac{1+\sinh^2 2(z/L-1)}{1+\sinh^2 2} \\ P_b &= \frac{\sinh^2 2(z/L-1)}{1+\sinh^2 2}\end{align}\tag{9-2}\]
となります。(9-1)、(9-2)式を図示すると付図7-3(a)、(b)のようになります。
これらの図からもわかるように \(|\psi|\gt\chi_G\) の場合は、一端から入射した光は他端から出射します。その周波数範囲は(7)式から
\[\frac{\omega}{c}n_{eff}\lt \frac{\pi}{\Lambda}-\chi_G,~~~~\frac{\omega}{c}n_{eff}\gt \frac{\pi}{\Lambda}+\chi_G\]
であり、入射光の周波数がこの範囲であれば、透過することがわかります。この範囲を透過帯域(パスバンド)と呼んでいます。
一方、\(|\psi|\lt\chi_G\) の範囲では反射され、一端から入射した光は他端に到達できません。すなわち
\[\frac{\pi}{\Lambda}-\chi_G\lt\frac{\omega}{c}n_{eff}\lt \frac{\pi}{\Lambda}+\chi_G\]
の範囲がこれに相当し、この範囲は阻止帯域(ストップバンド)と呼ばれます。
上記2つの範囲の境界、すなわち \(\psi=0\) の場合、\(\frac{\omega}{c}n_{eff}=\frac{\pi}{\Lambda}\) であり、この周波数に相当する波長は
\[\lambda_B =2n_{eff}\Lambda\tag{10}\]
であり、これはブラッグ波長に相当し、このような回折格子を設けた光導波路をブラッグ導波路と呼ぶことは上記の通りです。
このブラッグ波長周辺の波長に対するブラッグ導波路の特性をみておきます。長さ \(L\) の回折格子の入射端を\(z=0\)、出射端を \(z=L\) とすると、この区間の透過率 \(T\) と反射率 \(R\) はつぎのように表されます。
\[T=\frac{|A_1 (L)|^2}{|A_{10}|^2}~~~~~R=\frac{|A_2 (0)|^2}{|A_{10}|^2}\]
これに(5)式の \(A_1\) と \(A_2\) を代入します。ただし(5)式同様に \(\chi_G\) に対する3つの場合分けを行います。
\(|\psi|\gt\chi_G\):
\[R=\frac{(\chi_G /\rho)^2\sin^2(\rho L)}{1+(\chi_G /\rho )^2 \sin^2(\rho L)}\]
\(|\psi|=\chi_G\):
\[R=\frac{(\chi_G L)^2}{1+(\chi_G L)^2}\]
\(|\psi|\lt\chi_G\):
\[R=\frac{(\chi_G/\alpha)^2 \sinh^2 (\alpha L)}{1+(\chi_G /\alpha)^2 \sinh^2 (\alpha L)}\]
透過率 \(T\) はいずれの場合も \(T=1-R\) で表されます。(5)式から(11)式の中で(11-3)式がストップバンドに相当するので、この場合の反射率が大きいことになります。この反射スペクトルを描くために、角周波数 \(\omega\) を用います。波長 \(\lambda\) との関係は
\[\omega=2\pi c/\lambda\]
です (\(c\) は光速)から、ブラッグ波長に対応する角周波数 \(\omega_B\) を基準にした \((\omega-\omega_B)n_{eff}/c\) に対する反射率 \(R\) をプロットしたものが反射率のスペクトルとなります。
以上は導波モードに関する特性ですが、回折格子が設けられることによって、導波モードと放射モードが結合することも可能になります。これは素子応用上重要です。
(2)式の結合方程式は \(m\) 次の回折がある場合には
\[\begin{align}\frac{\mathrm{d}A_1}{\mathrm{d}z} &= -i\chi_G A_2 \exp\lbrace i(\beta_1 -\beta_2-\frac{2m\pi}{\Lambda})z\rbrace \\ \frac{\mathrm{d}A_2}{\mathrm{d}z} &= i\chi_G A_1\exp\lbrace -i(\beta_1 -\beta_2-\frac{2m\pi}{\Lambda})z\rbrace\end{align}\tag{11}\]
と書けます。この場合、位相整合条件は
\[\beta_1 -\beta_2=\frac{2m\pi}{\Lambda}\]
となります。ただし \(m=\pm 1,\pm 2\cdots\) です。ここで \(\beta_1\)、\(\beta_2\)、\(K=2\pi/\Lambda\) は方向を考えなければならないので、ベクトルで表示し、\(\boldsymbol{\beta_1}\)、\(\boldsymbol{\beta_2}\)、\(\boldsymbol{K}\) と書きます。すなわち、
\[\boldsymbol{\beta_1}-\boldsymbol{\beta_2}=m\boldsymbol{K}\]
と書けます。\(\boldsymbol{K}\) はy-z平面上にあってz方向を向いています。また\(|\boldsymbol{\beta_1|}=|\boldsymbol{\beta_2|}\) です。
\(m\) の具体的な値に対して上の式のベクトルの関係を考えます。
\(m=1\) の場合、すなわち、\(|\boldsymbol{K}|=2\pi/\Lambda\) の場合、付図7-4に示すように、導波光の反射のみ可能となります。
\(m=2\) の場合、\(|\boldsymbol{K}|=4\pi/\Lambda\) ですから、\(|\boldsymbol{\beta_1|}=|\boldsymbol{\beta_2|}=2\pi/\Lambda\) となります。この場合は付図7-4のように2つの場合が考えられます。\(m=2\) の場合は導波光の反射となりますが、\(m=1\) の場合は \(\beta_2\) のz方向の成分は存在できず、x方向に出射することになります。
\(m=3\) の場合、\(|\boldsymbol{K}|=6 \pi/\Lambda\) ですから、\(|\boldsymbol{\beta_1|}=|\boldsymbol{\beta_2|}=3\pi/\Lambda\) となります。この場合は付図7-4のように3つの場合が考えられます。\(m=3\) の場合は導波光の反射となりますが、\(m=2\) の場合は 次式の関係を満たす \(\theta_m\) の方向へ出射します。
\[nk\sin\theta_m =n_{eff} +mK\]
ただし \(n\) は導波路の外側の媒体の屈折率で、空気中への出射であれば \(n=1\) です。なお、上式の関係を満たす \(\theta_m\) が存在するためには \(|\beta_m| \lt nk\) の条件を満たす必要があります。