光デバイス/光制御素子

9.磁気光学効果

 前項では外力として電界が印加された場合の屈折率変化を取り上げましたが、これに続いてこの項では磁界が印加された場合の効果を取り上げます。

 物質を構成する原子に磁場が印加されると、電荷をもつ原子核と電子には力がはたらき、電場の場合と同様に分極が生じます。これによって誘電率が変化し、したがって屈折率が変化すると考えることができます。

 ここでは電子が原子核に束縛され自由に動けない場合を考えます。原子核と電子がバネで結ばれていると考えれば、原子核と電子の間にはその距離に比例した復元力がはたらきます。いわゆるフックの法則です。固体(誘電体)をこのような原子核と電子の対が多数あると考えるモデルをローレンツ(Lorentz)モデルと呼ぶことがあります。

 このモデルでは上記の復元力を \(-m\omega_0^2\boldsymbol{r}\) と書きます。ここで \(m\) は電子の質量、\(\omega_0\) は電子の固有角振動数、\(\boldsymbol{r}\) は電子の変位ベクトルで原子核と電子の距離を表すベクトルです。

 そしてこの系に磁束密度 \(\boldsymbol{B}\) の磁場がはたらいた場合、電子には

\[\boldsymbol{F}=-e\left (\frac{\mathrm{d}\boldsymbol{r}}{\mathrm{d}t}\times\boldsymbol{B}\right )\]

で表される力 \(\boldsymbol{F}\) がはたらきます。この力をローレンツ力と呼びます。

 さらにこの系に光(電磁波)が入射すると、電子には電磁波の電界 \(\boldsymbol{E}\) による力 \(-e\boldsymbol{E}\) がはたらきます。電磁波の磁界もありますが、その大きさは外部から印加した磁界に比べて無視できるとします。

 以上の力がはたらく場合、古典力学を適用した電子の運動方程式は

\[m\frac{\mathrm{d}^2\boldsymbol{r}}{\mathrm{d}t^2}=-m\omega_0^2 \boldsymbol{r}-e\left (\frac{\mathrm{d}\boldsymbol{r}}{\mathrm{d}t}\times\boldsymbol{B}\right )-e\boldsymbol{E}\tag{1}\]

となります。磁場がz方向であるとし、(1)式をxyz成分に分解して書くと

\[\begin{align}m\frac{\mathrm{d}^2 x}{\mathrm{d}t^2} &= -m\omega_0^2 x-e\frac{\mathrm{d}y}{\mathrm{d}t}B-eE_x \\ m\frac{\mathrm{d}^2 y}{\mathrm{d}t^2} &= -m\omega_0^2 y-e\frac{\mathrm{d}x}{\mathrm{d}t}B-eE_y \\ m\frac{\mathrm{d}^2 z}{\mathrm{d}t^2} &= -m\omega_0^2 z-eE_z\end{align}\tag{2}\]

となります。光の振動数を \(\omega\) とすると、\(\boldsymbol{r}=(x,y,z)\) も振動数 \(\omega\) の正弦波振動をしていると考えられるので、

\[\frac{\mathrm{d}x}{\mathrm{d}t}=i\omega x,~~~~~\frac{\mathrm{d^2}x}{\mathrm{d}t^2}=-\omega^2 x,~~~\cdots\]

などと複素表示できます。これらを(2)式に代入すると

\[\begin{align} &m\left (\omega_0^2-\omega^2\right )x+ie\omega B_y = -eE_x \\ -&ie\omega Bx+m\left (\omega_0^2-\omega^2 \right )y = -eE_y \\ &m\left (\omega_0^2 -\omega^2\right )z =-eE_z\end{align}\tag{3}\]

となります。\(\boldsymbol{r}\) の成分である \(x\)、\(y\)、\(z\) について解き直すと

\[\begin{align}x &=\frac{-e}{m(\omega_0^2 -\omega^2)}E_x +i\frac{e^2\omega B}{m^2 (\omega_0^2-\omega^2)^2}E_y \\ y &= -i\frac{e^2\omega B}{m^2 (\omega_0^2 -\omega^2)^2} E_x +\frac{-e}{m(\omega_0^2 -\omega^2)}E_y \\ z &=\frac{-e}{m(\omega_0^2 -\omega^2 )}E_z \end{align}\tag{4}\]

となります。ただし \(B^2\) の項は無視しました。

 さて上記のように原子1個の電気双極子モーメントは \(-e\boldsymbol{r}\) ですから、これが単位体積あたり \(N\) 個あるとすれば、分極 \(\boldsymbol{P}\) は

\[\boldsymbol{P}=-e\boldsymbol{r}N\]

と表せます。したがって分極 \(\boldsymbol{P}\) のxyz成分は(4)式右辺に定数 \(-eN\) をかけただけで表されます。電束密度 \(\boldsymbol{D}\) は「結晶光学」7項の(4)式に示す通り

\[\boldsymbol{D}=\varepsilon_0\boldsymbol{E}+\boldsymbol{P}=[\varepsilon]\boldsymbol{E}\]

と書けますから、誘電率テンソル \([\varepsilon]\) は(3)、(4)式の関係を用いて

\[[\varepsilon]=\pmatrix{\varepsilon & -i\varepsilon_0 \chi B & 0 \cr i\varepsilon_0 \chi B & \varepsilon & 0 \cr 0 & 0 & \varepsilon}\tag{5}\]

と表されます。ただし(5)式では式を簡単にするため

\[\varepsilon=\varepsilon_0 \left (1+\frac{e^2 N}{\varepsilon_0 m(\omega_0^2-\omega^2)^2}\right )\]

\[\chi=\frac{e^2N\omega}{\varepsilon_0m^2(\omega_0^2 -\omega^2)^2}\]

と置きました。(5)式から明らかなように、\(\varepsilon\) は磁界がかかっていない \(B=0\) の場合の誘電率を示していますから、そのときの屈折率 \(n_0\) は

\[n_0 =\sqrt{\frac{\varepsilon}{\varepsilon_0}}\]

と表されます。磁界が印加されると(5)式からわかるように屈折率は異方性をもつようになります。これを示す(5)式の非対角項は虚数になっていて、これは通常の異方性誘電体とは異なる特徴です。

ファラデー効果

 磁界が上記のようにz方向に印加されていて、光も同方向に入射する場合を考えます。これをファラデー(Faraday)配置と呼んでいます。ここで「結晶光学」9項の(12)または(12’)式で示した異方性のある場合の基本式を思い出しましょう。

\[\varepsilon_0 n^2\left\{\boldsymbol{E}-(\boldsymbol{E}\cdot\boldsymbol{e}_k)\boldsymbol{e}_k\right\}=\boldsymbol{D}\tag{6}\]

 ここで \(\boldsymbol{e}_k\) は光の進行方向を示す単位ベクトルです。この場合、z方向を向いていることになります。ここで \(\boldsymbol{e}_k\) と \(\boldsymbol{D}\) は直交し、内積は0となります。したがって \(D_z =0\) です。等方性物質ならば \(D_z =\varepsilon E_z \) が成り立つので、\(E_z\) も0となります。このとき(6)式の\(\boldsymbol{D}\) を\(\boldsymbol{D}=[\varepsilon]\boldsymbol{E}\) の関係で置き換え、(5)式の関係を用いると

\[\begin{align}n_0^2 E_x -i\chi BE_y &= n^2 E_x \\ i\chi B E_x +n_0^2 E_y &= n^2 E_y \end{align}\tag{7}\]

の関係が得られます。これは \(E_x\)、\(E_y\) に関する連立方程式で斉次方程式ですから、\(E_x\)、\(E_y\) が0でない解をもつためには

\[\left | \matrix{n_0^2 -n^2 & -i\chi B \cr i\chi B & n_0^2 -n^2 \cr} \right | =0\]

でなければなりません。これより \(n\) についてつぎの2つの解 \(n_{\pm}\) が求められます。

\[n_{\pm} =\sqrt{n_0^2 \pm\chi B}\simeq n_0 \pm\frac{\chi B}{2n_0}\tag{8}\]

 ここで \(n_+\) のとき、(7)式(第1式)より、\(E_y =iE_x \) が得られ、\(E_x \) と \(E_y \) は大きさが等しく、位相が \(\pi/2\) ずれていることがわかります。(7)式を「結晶光学」4項のジョーンズベクトルで表すと

\[J_+ =\frac{1}{\sqrt 2}\pmatrix{1 \cr i}\]

となり、右回り円偏光であることがわかります。この光は位相速度 \(v_+ =c/n_+ \) で伝搬します。一方、\(n_-\) の場合は、\(E_y =-iE_x \) であり、ジョーンズベクトルは

\[J_+ =\frac{1}{\sqrt 2}\pmatrix{1 \cr -i}\]

であり、左回りの円偏光となり、位相速度は \(v_- =c/n_- \) となります。

 以上から、等方性媒質にファラデー配置で磁場を印加すると、左右の円偏光が異なる速度で伝搬することになり、これは異方性結晶内を伝搬する光が常光線と異常光線に分かれる性質とは異なる性質をもつことがわかります。

 少し具体的に考えます。図9-1にように長さ \(l\)の媒体に、その長さ方向に磁束密度 \(B\) の磁界がかかっているとし、この媒体に磁界の方向(z方向)に沿ってx方向に直線偏光した光を入射するとします。この光は媒体内では

\[k_{\pm}=\frac{2\pi}{\lambda}n_{\pm}\tag{9}\]

で与えられる2つの波数で進行します。この2つの円偏光はつぎのように書けます。

\[E_{\pm}=\frac{E_0}{2}(\boldsymbol{e}_x \pm i\boldsymbol{e}_y)\mathrm{e}^{(i\omega t +k_{\pm}z)}\tag{10}\]

 ただし \(\boldsymbol{e}_x\)、\(\boldsymbol{e}_y\) はそれぞれx方向、y方向の単位ベクトルです。(10)式で表される2つの電場を合成した電場のx、y成分を求めると次のようになります。

\[\begin{align}E_x &= \frac{E_0}{2}\mathrm{e}^{i\omega t}(\mathrm{e}^{-ik_+ z}+\mathrm{e}^{-ik_- z}) \\ E_y &= i\frac{E_0}{2}\mathrm{e}^{i\omega t}(\mathrm{e}^{-ik_+ z}-\mathrm{e}^{-ik_- z})\end{align}\]

 ここで \(k_0 =\frac{1}{2}(k_+ +k_-)\)、\(\kappa=\frac{1}{2}(k_+ -k_-)\) とおくと

\[\begin{align}E_x &= \frac{E_0}{2}\mathrm{e}^{i(\omega t-k_0 z)}(\mathrm{e}^{-i\kappa z}+\mathrm{e}^{i\kappa z}) \\ &=E_0\mathrm{e}^{i(k_0 z-\omega t)}\cos \kappa z\end{align}\]

\[\begin{align}E_y &= i\frac{E_0}{2}\mathrm{e}^{i(\omega t-k_0 z)}(\mathrm{e}^{-i\kappa z}-\mathrm{e}^{i\kappa z}) \\ &=E_0\mathrm{e}^{i(k_0 z-\omega t)}\sin \kappa z\end{align}\]

となります。両式より媒体の端 \(z=l\) において

\[\frac{E_y}{E_x}=\tan\kappa l\tag{11}\]

 なお、(8)、(9)式より

\[\kappa=\frac{\pi\chi B}{\lambda n_0}\]

が得られます。

 x方向に直線偏光した光が媒体に入射し、媒体を通過して出射する時点で(11)式からわかるように、x軸から角度 \(\theta_F =\kappa l\) だけ回転していることになります。この磁場による入射光の偏光の回転を「ファラデー効果」と呼んでいます(1)。ここで回転角 \(\theta_F\)(ファラデー回転角と呼ぶことがあります) は

\[\theta_F =\frac{\pi\chi Bl}{\lambda n_0}=VBl\tag{12}\]

と書くことができます。回転角は印加した磁束密度 \(B\) と光路長 \(l\) に比例しますが、比例定数\(V (=\pi\chi/\lambda n_0 )\) をヴェルデ゙(Verdet)定数と呼んでファラデー効果の指標として用います。

 上式からヴェルデ定数の単位は[rad/Tm]です。ただし回転角の単位にラジアン、磁束密度の単位にテスラ(T、温度ではないので注意)を採ったMKSA単位系です。歴史が長いのでCGS単位系や角度に度(deg)を採ったものなど文献によって単位が異なる場合があるので比較には換算が必要です。さらにヴェルデ定数は波長、温度に依存するので、これらの条件にも注意する必要があります。

 さらには必ずしもヴェルデ定数ではなく、ファラデー回転角そのもので特性を表示している場合もありますが、これは上記の通り、磁束密度や光路長に依存するので、それらを特定しないと比較はできません。

 この効果は原子の分極現象に起因しているので、あらゆる物質で観測されますが、デバイスに応用できるような大きな偏光回転が生じる物質が重要です。最初に注目されたのはイットリウム鉄ガーネット(YIG)の結晶です(1)。ガーネットというのはもともと日本語で柘榴(ざくろ)石と呼ばれる宝石に由来しますが、酸化物の特定の結晶形を意味します。

 YIGはイットリウム(Y)と鉄の複合酸化物で、成分比はY3Fe5O12です(または3Y2O3・5Fe2O3と書く方がわかりやすいかも知れません)。YIGは強磁性体(フェリ磁性体)で大きなベルデ定数を持ちます。可視域では吸収が大きいため光学的な応用には向きませんが、波長1μm以上では透明で、光通信に使われる波長域では有用です。

 このYIGは希土類元素成分のYの一部または全部を他の元素に置き換えることにより、吸収波長域を変えたり、ベルデ定数を改善できる可能性が期待できます。例えばYをBiに一部置き換えたBiYIGはファラデー回転角が大きくなることが知られています。ただし光の吸収係数は増大するようです。また、Feを含まないガーネットにも材料探索の範囲は広がっており、例えばテルビウムガリウムガーネット(Tb3Ga5O12、TGG)などは可視域で使える材料として知られています(2)

 ここで図9-1で出射側の偏光子を透過した光を反射鏡で反射してもう一度、結晶に戻すことを考えます。この場合、この場合、光の進行方向に対して磁界の方向が反転することになるので、(12)式から偏光の回転方向も反転します。これは元の入射光を基準にすれば偏光は同一方向に回転することになります。つまり入射端へ戻ってくる偏光は一度通過した後の回転角の2倍の回転をした偏光となります。通常の光学系、例えば1/2波長板などを考えると、ある光路を通過した光を同一光路を通して元に戻す場合、光の進行方向に対しては同方向の偏光回転が起こるので、入射光側からみれば最初の状態に戻ります。これが光学系では一般的で、光の相反性と呼んでいます。ところがこのファラデー効果においては上記のように相反性がありません。これを非相反性と呼び、光学系では比較的特異な性質です。この特徴を生かした応用デバイスについては後述します。

 以上、ファラデー効果を古典論的に説明しました。量子論を用いた説明もできますが、これについては省略します。

磁気光学カー効果

 前項で取り上げたように2次の電気光学効果をカー効果と呼びますが、磁気光学の方にもカー効果と呼ぶ効果があります。これは磁性体などの表面で反射した光の偏光が変化する現象で、現象としては電気光学効果の方のカー効果とは関係がありません。詳細は省略します。

フォイクト効果

 磁場の方向と光の進行方向が直角な場合を、フォイクト(Voigt)配置と言います。いま磁場の方向がz方向で、光の進行方向がx方向の場合を考えます。この場合、(6)式から \(D_x =0\) です。(5)式の \([\varepsilon]\) を(6)式の \(\varepsilon_0 n_0^2\) に代入し、xyz成分ごとに書くと、

\[\begin{align} &n_0^2 E_x -i\chi BE_y=0 \\ &i\chi BE_x +n_0^2 E_y =n^2 E_y \\ &n_0^2 E_z =n^2 E_z\end{align}\]

となります。3番目の式からz方向に偏光した光に対する屈折率は \(n_0\) であり、磁場の影響は受けないことがわかります。x、y方向の偏光に関しては

\[E_x =-\frac{i\chi B}{n_0^2}E_y\]

の関係が成り立ち、これより \(n\) は

\[n=n_0\sqrt{1-\frac{\chi^2 B^2}{n_0^4}}\simeq n_0 -\frac{\chi^2 B^2}{2n_0^3}\]

となります。ただし \(\chi B \ll n_0^2\) としました。これよりz方向とy方向に偏光した光は伝搬速度が異なり、その差は磁場の2乗に比例することがわかります。これをフォイクト効果と呼んでいます。コットンームートン(Cotton-Mouton)効果ということもあります。

(1)マイケル・ファラデイ(Michael Faraday)によって1845年に鉛ガラスにおいて発見された現象。

(1)D.Vojna, et al, Materiaks Vol.13, p.5324 (2020)

(2)M.Y.A.Raja, et al, Appl. Phys. Lett. Vol.67, p.2123 (1995)