光デバイス/光制御素子

10.光弾効果・音響光学効果

 ここまで電場、磁場を外力として加えた場合の媒体の屈折率変化を考えてきましたが、この項では機械的な力を加える場合を考えます。

 力を加える対象は基本的に固体となります。さらにそのうち、力を加えたときだけ変形し、力を外すと元の形状に戻るような固体を対象とします。これを弾性体といいます。固体は大体、弾性体ですが、弾性体でない固体の例としては粘土などが挙げられます。

 弾性体に外部から力を加えると内部に力が発生します。この力を応力(stress)といいます。微視的に見れば、この応力により、それまで平衡を保っていた原子間距離のバランスがくずれ、弾性体内にひずみ(strain)が生じます。このような原子間距離のバランスのくずれは等方性物質においても屈折率の異方性を生じさせます。これを光弾性効果と呼びます。この弾性体の変形と屈折率変化の関係も微視的に解析されることはあまりなく、べき乗展開による現象論的な解析が普通です。

 力と歪みの関係はフック(Hooke)の法則として知られています。最初に学校で習うのはバネに力 \(F\) を加えたときの伸び \(x\) は力に比例するというものです。

\[F=kx\tag{1}\]

 \(k\) はバネ定数などと呼ばれます。この関係は弾性体内に生じる応力 \(T\) に対するひずみ \(S\) の関係にも拡張されます。ただし応力もひずみも3次元空間で考える必要があり、ベクトルで表されます。またバネ定数に相当する比例定数はテンソルとなります。

 まずxyz座標において、応力の表し方を決めておきます。

 図10-1に示すように3次元の弾性体にxyz座標軸をとります。そしてxy面、yz面、xz面に平行な面を考え、各面に垂直な方向と、各面に平行で座標軸に平行な2方向の計9つの方向の応力を考え、図のように記号 \(T_{ij}\) を付けます。ここで \(i\) は応力のはたらく方向、\(j\) は応力がはたらく面を示し、いずれもx、y、zのいずれかになります。

 1つの面につき3つの応力がはたらくので、\(T_{ij}\) は全部で9種類あります。ただし弾性体は静止している場合を考えますので、応力は全体としてつりあっているという条件から

\[T_{ij}=T_{ji}~(i\ne j)\]

でなければなりません。したがって独立な \(T_{ij}\) は6個となります。この6個をつぎのように1~6の番号で示します。

\[xx=1,~~yy=2,~~zz=3,~~yz=4,~~zx=5,~~xy=6\]

 応力がはたらいていないときの弾性体の屈折率楕円体は

\[\frac{x^2}{n_{0x}^2}+\frac{y^2}{n_{0y}^2}+\frac{z^2}{n_{0z}^2}=1\tag{2}\]

ですが、等方性媒体では \(n_{0x}=n_{0y}=n_{0z}=n_0\) ですから楕円体は球体になります。応力がはたらいて歪みが発生した場合にこの式がつぎのように変化するとします。

\[\begin{align}&\left (\frac{1}{n_{0x}^2}+P_{1k}S_k \right )x^2 +\left (\frac{1}{n_{0y}^2}+P_{2k}S_k \right )y^2+\left (\frac{1}{n_{0z}^2}+P_{3k}S_k \right )z^2 \\ &+2yzP_{4k}S_k +2zxP_{5k}S_k +2xyP_{6k}S_k =1\end{align}\tag{3}\]

 ここで \(S_k\) はひずみで、\(k\) は上記同様1~6の番号をとります。また \(P_{ijk}\) は1次の展開係数です。

 以下、ひずみについて簡単な例で説明します。図10-2に示すような透明な等方性の弾性体の平板に応力がはたらく場合を考えます。

 平板の平面がxy面にあるとし、x軸方向に応力(張力とします) \(T_{xx}\) がはたらき、光は平板に垂直はz軸方向に沿って入射するとします。このときx方向のひずみ \(S_{xx}\) は

\[S_{xx} =\frac{1}{Y}T_{xx}\]

と表されます。ここで \(Y\) はヤング(Young)率です。y方向とz方向のひずみ \(S'_{yy}\)、\(S'_{zz}\) は

\[S'_{yy} =-\sigma S'_{xx}\]

\[S'_{zz} =-\sigma S'_{xx}\]

と表せます。\(\sigma\) はx方向とy方向のひずみの比を表すポアソン(Poisson)比です。方向のひずみが伸びであると、y、z方向は縮むことになります。上式のマイナス符号はこの縮みを示します。

 x方向の \(T_xx\) に加えてy方向にも張力 \(T_yy\) がはたらいたとき、y方向にもひずみ \(S'_{yy}\) が生じますが、弾性変形の範囲内であれば、ひずみは単純な加え合わせと考えてよく、つぎの各式が成り立ちます。

\[\begin{align}S_{xx} &= S'_{xx}+S"_{xx}=\frac{1}{Y}\left (T_{xx}-\sigma T_{yy}\right ) \\ S_{yy} &= S'_{yy}+S"_{yy}=\frac{1}{Y}\left (T_{yy}-\sigma T_{xx}\right ) \\ S_{zz} &= S'_{zz}+S"_{zz}=-\frac{\sigma}{Y}\left (T_{xx}+T_{vv}\right )\end{align}\tag{4}\]

 ここで弾性体は等方性としているので屈折率は \(n_{0x}=n_{0y}=n_{0z}=n_0\) ですが、応力が加わった場合は \(n_x\)、\(n_y\)、\(n_z\) に変化するとします。弾性変形の範囲ではひずみは小さいので、屈折率の変化はひずみに比例しているとみなせばつぎのように書けます。

\[\begin{align}\frac{1}{n_x^2 } &= \frac{1}{n_0^2}+P_{11}S_1+P_{12}S_2+P_{13}S_3 \\ \frac{1}{n_y^2} &= \frac{1}{n_0^2}+P_{21}S_1+P_{22}S_2+P_{23}S_3\end{align}\tag{5}\]

 さらに等方性であることから

\[\begin{align}P_{11} &= P_{22}=P_{33} \\ P_{12} &= P_{21}=P_{23}=P_{32}=P_{31}=P_{13}\end{align}\]

が成り立ちます。

 \(n_x\)、\(n_y\) と \(n_0\) の差は小さいので、\(n_0 +n_x \simeq 2n_0\) とすると

\[\frac{1}{n_x^2}-\frac{1}{n_0^2}=\frac{(n_0 -n_x)(n_0 +n_x)}{n_x^2 n_0^2}\simeq \frac{2(n_0-n_x)}{n_0^3}\]

が成り立つとみなせます。応力がx方向及びy方向にかかっているとすると、

\[\begin{align}n_x &= n_0 -\frac{n_0^3}{2}\left (P_{11}S_1 +P_{12}S_2 +P_{13}S_3 \right ) \\ n_y &= n_0 -\frac{n_0^3}{2}\left (P_{21}S_1 +P_{22}S_2 +P_{23}S_3 \right )\end{align}\tag{6}\]

が得られます。これに(4)式の関係を用いると

\[n_y -n_x =\frac{n_0^3}{2Y}(1+\sigma)(P_{11}-P_{12})(T_{xx}-T_{yy})\]

となります。右辺の定数部分を \(C\) と書きます。

\[n_y -n_x =C(T_{xx}-T_{yy})\]

\[C=\frac{n_0^3}{2Y}(1+\sigma)(P_{11}-P_{12})\]

 この \(C\) を光弾性定数と呼びます。単位はヤング率 \(Y\) の逆数で、m2/N となりますが、このヤング率の値は通常 1010N/m2と大きな値になります。そこで \(C\) の値を1~10程度の値になるように、単位を10-12m2/Nに変えたものをブリュースター(Brewster)と呼びます(1)

 以上で考えた応力は媒体に機械的な力を加えることによって得られます。具体的には重りを使って重力による力を利用するとか、万力のようなねじの締め付けを利用することが考えられます。一方で電気光学効果のところ(8項)では敢えて触れませんでしたが、媒体に電界をかけることによっても応力が発生します。

 圧電効果(Piezoelectric effect)は比較的よく知られています。これは特定な誘電体に圧力をかけると帯電が発生する現象です。この逆に電界をかけると応力を発生する効果も知られていて、これを逆圧電効果と言います。また同様な効果として電歪(でんわい)効果(Electrostrictive effect)というものもあります。

 逆圧電効果と電歪効果の違いは1次と2次の電気光学効果の違いと同様です。逆圧電効果は歪みが電界に比例する効果で、電歪効果は歪みが電界の2乗に比例する効果です。

 このため媒質に電界を印加すると、電気光学効果による屈折率変化と光弾性効果による屈折率変化が生じ、この2つの屈折率変化は加算されると考えられます。したがって純粋に電気光学効果のみによる屈折率変化を評価したい場合には両者を分離する必要があります。両者を分離するには、電界をかけたときに媒体が変形しないように固定して歪みが発生しないようにする必要があります。また液体のような場合は、変形が自由に生じるようにして応力が発生しないようにする方法も考えられます。実用的にはあまり問題にならないと思われます。

音響光学効果

 光弾性効果による屈折率変化をデバイスに応用しようとするとき、媒質にどのようにして制御された応力をかけるかが問題となります。そこで考えられる一つの手段が音波です。音波は気体だけでなく固体や液体など媒質中を伝わります。媒質が弾性体であれば、この音波の伝搬によって媒質内にひずみが生じます。このとき光弾性効果によって媒質の屈折率変化が生じることになります。音波によって媒質の屈折率が変化する現象は光弾性効果の特別な場合ですが、これをとくに音響光学効果(accoust-optic effect)と呼んでいます。

 等方性の媒質中を音波が一定の方向(\(x\)方向)に伝搬しているとします。\(x\) 一定の平面上での質点の変位 \(u\) は

\[u(x,t)=A\sin\left (\omega_s t-k_s x\right )\tag{7}\]

と書けます。ここで \(\omega_s\) は音波の角周波数、\(k_s\) は音波の波数です。この変位による媒質の点 \(x\) におけるひずみ \(s\) は

\[s(x,t)=\frac{\partial u}{\partial t}=-s_0\cos\left (\omega_s t-k_s x\right )\]

と書けます。ただし \(s_0=Ak_s\) と置きました。

 このひずみ \(s(x,t)\) による屈折率 \(n(x,t)\) の変化は(6)式同様に考えれば

\[n(x,t)=n_0-\frac{n_0^3}{2}Ps(x,t)\tag{8}\]

と表せます。

 この音波が弾性体中を伝搬するとき発生する波、すなわち弾性波のエネルギーを求めます。

 力学エネルギー \(E_t\) は一般に運動エネルギー \(K\) とポテンシャルエネルギー \(U\) の和で表せます。

 まず微小区間 \(\Delta x\) の運動エネルギー \(K\Delta x\) を考えます。媒質の密度を\(\rho\)、対象とする区間の断面積 \(S\) とすると、質量は \(\rho S\Delta x\) と表せます。速度は \(\partial u /\partial t\) ですから

\[\begin{align}K\Delta x &= \frac{1}{2}\rho S\Delta x \left (\frac{\partial u}{\partial t}\right )^2 \\ &=\frac{1}{2}\rho S\Delta x \omega_s^2 A^2 \cos^2 (k_s x-\omega_s t)\end{align}\]

 したがって

\[K=\frac{1}{2}\rho S\omega_s^2 A^2 \cos^2 (k_s x-\omega_s t)\tag{9}\]

となります。一方、ポテンシャルエネルギーはこの場合、弾性エネルギーに相当します。(1)式のバネの場合と同様に

\[U=\frac{1}{2}kx^2\]

と表されます。上記運動エネルギーと同じ微小区間 \(\Delta x\) がひずみであると考えれば、ヤング率を \(Y\) として比例定数 \(k\) は\(k=YS/\Delta x\) なので

\[\begin{align}U\Delta x &= \frac{1}{2}kx^2=\frac{1}{2}\frac{YS}{\Delta x}\left (\frac{\partial u}{\partial x}\Delta x\right )^2 \\ &= \frac{1}{2}YS\Delta x k^2 A^2 \cos^2 (k_s x-\omega_s t)\end{align}\]

となります。したがって

\[U=\frac{1}{2}YS k^2 A^2 \cos^2 (k_s x-\omega_s t)\tag{10}\]

となります。波の速度 \(v_s\) が

\[v_s =\sqrt{\frac{Y}{\rho}}=\frac{\omega}{k}\tag{11}\]

と表せることを考慮して(9)、(10)式を比べると \(K=U\) であることがわかります。したがって全エネルギー \(E_t\) は

\[\begin{align}E_t &= K+U=2K \\ &= \rho S\omega_s^2A^2\cos^2 (k_s x-\omega_s t) \\ &=YSk^2A^2\cos^2 (k_s x-\omega_s t)\end{align}\]

と表せます。平均エネルギー \(<E_t >\) を求めると

\[<E_t >=\frac{1}{t}\int_0^t E_t \mathrm{d}t=\frac{1}{2}\rho\omega_s^2 A^2\]

となります。音波の強度 \(I\) は \(I=v_s <E_t >\) で定義されるので

\[I=\frac{1}{2}\rho v_s^3 A^2 =\frac{1}{2}\rho v_s^3 \left (\frac{s_0}{k_s}\right )^2\tag{12}\]

 この音波の強度と屈折率の変化の関係を求めます。(8)式で屈折率の変化分を \(\Delta n =n(x,t)-n_0 \) とし、\(s(x,t)\rightarrow s_0\) と置き換えて(12)式の関係を用いると

\[\left (\Delta n\right )^2 =\frac{1}{2}\frac{n^6 P^2}{\rho v_s^3}I\]

となります。ここで

\[M=\frac{n^6 P^2}{\rho v_s^3}\]

と置くと、\(M\) は入力した音波の強度により生じる屈折率変化(の2乗)を表す量となりますから、これを音響光学効果の性能指数として用います。\(M\) が大きければ音波の強度に対して屈折率変化が大きいことを意味します。

 音響光学効果を応用する際には、可聴周波数の音波より超音波を用いるのが普通です。超音波を弾性体の表面に伝搬させた表面弾性波の光との相互作用を応用したデバイスがありますが、これについては後の項で取り上げます。

 

 

(1)このブリュスターは偏光の反射に関するブリュスター角のブリュスターと同一人物の名前です。実はブリュスターは光弾性効果の発見者でもあります。

.