電子デバイス/半導体集積回路

8.CMOS素子の作り方

 前項のCMOSをどうやって1つの半導体基板(ウェハ)上に作るか、という話をします。CMOSはIGFETを使ったICの基本構成として広く使われていますが、それを作る手順はかなり複雑です。このため、作り方について多くの技術開発が行われ改良がなされました。1975年前後にはCMOSの製造方法に関する特許出願が多くなされています。ここではこのような製造方法の改良の歴史には立ち入らず、基本的な手順について説明します。この基本的手順はIGFETを使ったICの製造に共通に使われている技術ですから、これを知っていれば大体大丈夫です。

 図8-1を見て下さい。これは基本的な作り方を手順を追って説明するための図です(1)。図の(a)から(g)はCMOSの基本的な作製手順を示しています。まず(g)を参照して下さい。これがCMOSの完成断面図です。基板がn型シリコンだとすると、右側にあるのがpチャンネルIGFETです。左側のグレーの矩形領域はこの部分だけ基板がp型になっていますので、この中にnチャンネルIGFETを作ることができます。それでは(a)から順に作り方を見ていきましょう。

 (a)はn型シリコン基板上全面にSiO膜を形成した状態を示しています。シリコン基板の表面を鏡面に磨いたのち、よく洗浄して汚れを取り除いた後、酸素雰囲気中で1000℃程度に加熱すると、表面が酸化されて一定の厚さのSiO膜ができます。

 つぎに(b)のようにこのSiO膜の一部に穴をあけてシリコン基板を露出させます。この穴を開ける方法はフォトリソグラフィーで、IGFETの10項で詳しく説明した通りです。

 つぎに(c)のようにSiO膜に開けた穴の部分にp型領域を作ります。その方法はSiO膜をマスクとして穴の部分にp型不純物を導入する方法です。具体的方法はIGFETの11項で述べていますが、CMOSの作製にはイオン注入法が用いられる場合が多いと思われます。

 ここまでは準備工程で(d)以下でIGFETの作製が行われます。(d)はpチャンネルIGFETのソース領域、ドレイン領域を作製しています。これはSiO膜への穴開けとp型不純物の導入の工程の繰り返しです。

 つぎの(e)で今度はnチャンネルIGFETのソース領域とドレイン領域をn型不純物の導入により行っています。

 つぎに(f)では2つのIGFETのゲート絶縁膜を形成します。方法はIGFETの12項で述べているように酸素ガス中での加熱による熱酸化法が用いられます。このゲート絶縁膜はIGFETの特性に影響を及ぼすため、不純物などが入らないように注意して形成します。

 最後にソース、金属電極を形成します。金属薄膜の形成方法についてはIGFETの13項で説明しています。形成した金属薄膜をIGFETの14項で説明している方法によりパターニングします。これでソース、ドレイン、ゲートの各電極が設けられた(g)に示すようなCMOSが完成します。

(1)例えば、特開昭49-75288号