電子デバイス/絶縁ゲート電界効果トランジスタ
14.IGFETの作り方(その5、金属薄膜のパターニング)
金属の薄膜を基板上に付ける技術について前項で説明しましたが、IGFETなど半導体デバイスの電極や配線を作るためには必要な場所だけに金属薄膜を着けなければいけません。ゲート、ソース、ドレインに電圧をかけ、また電流を流すために決まった位置に電極が必要ですが、それだけではありません。
これらの電極をチップの外にある電源につなぐための方法もいくつかありますが、細い金属線(ワイヤ)を使うワイヤボンディングがもっとも一般的です。このワイヤは金属薄膜の上に超音波を使って圧着されますが、各電極の上に付けることはできません。半導体を傷つけてしまう恐れがありますし、細いワイヤといっても電極に比べるとかなり太いからです。このためボンディング用の場所(パッド)をチップ上に設け、ここと電極を結ぶ配線パターンを作ります。これらすべて金属薄膜によって作ります。
これらのパターンはデバイスを設計するときにすべて決まっていますから、それにしたがってフォトマスクを準備します。
あとはフォトリソグラフィを駆使して金属薄膜のパターンをチップ上の決められた位置に作ればよいことになります。この工程によく使われる手順は2通りあります。10項で説明した絶縁膜のパターニング工程と同様な手順がその一つです。これは金属薄膜を取りあえず全面に着け、後で不要な部分を取り除く方法です。もう一つは必要な場所にしか金属薄膜が着かないように予め手を打っておく方法です。
前者の方がよく使われます。まずその手順を図で説明しましょう。図14-1(A1)のようにまず基板表面全体に前節で説明した方法で金属薄膜を付けます。図のように半導体デバイスの作製の場合には下地に凹凸がある場合の方がむしろ普通です。この場合、膜が薄いうちは図のように下地の凹凸に沿って金属薄膜も凹凸になります。膜が厚くなってくると、この凹凸が次第に埋まって表面が平らになる場合と、いつもでも凹凸がそのまま残る場合とがあります。これは膜を付ける方法や条件によって変わってくるようですが、ここでは図のように金属薄膜の表面に凹凸が残っているものとします。
つぎに金属薄膜の上にフォトレジストを塗ります。そして用意しておいた必要なパターンのフォトマスクを使ってフォトレジストを露光します。これを現像して、一部分(金属が不要な部分)に穴をあけ金属薄膜を露出させます。これが(A2)の状態です。この露出した部分の金属薄膜を金属を溶かす溶液に漬けて溶かして除きます(A3)。例えばアルミニウムは燐酸に溶けます。最後に残ったレジストを取り除けば(C)のように電極と配線のパターンができます。これは10項のSiO2膜に孔を開ける工程と同じ手順です。
しかし金(Au)などの場合は王水くらいにしか溶けませんので、上の方法はあまりやりやすくありません。その場合には、不要な部分には金属薄膜を付けない方法をとった方がよいこともあります。この場合はつぎのような手順が採られます。金属薄膜を付ける前に基板にフォトレジストを塗ります。フォトマスクを使って露光し現像しますが、図14-1(B1)のように金属薄膜を付ける必要がある部分のフォトレジストを取り除いてそこに穴が開くようにします。つぎにこの上から金属薄膜を付けます。すると(B2)のように金属薄膜はフォトレジストのない部分は基板に直接付きますが、フォトレジストのある部分ではフォトレジストの上に付きます。ここでフォトレジストをすべて溶かして取り除くとフォトレジストの上に付いていた金属薄膜も除かれ、(C)のように必要な部分のみ残ることになります。この方法をとくにリフトオフ法と言います。
以上が金属電極を作る基本的な2通りの方法です。これで以前の工程図(図10-1)でいうと(f)までができ、IGFETが完成したことになります。最近ではチップ上に膨大な数のトランジスタが作り込まれるようになっていますので、一つ一つのトランジスタはとても小さくなっています。それに伴って電極も小さくなり、配線の幅も非常に狭くなっています。電気をよく通す金属といえども、薄く幅の狭い膜になると抵抗が大きくなりますから、金属薄膜を作ることだけでも結構大変なのです。
IGFETを作る工程は以上のようにかなり複雑です。何度も膜を付けたり剥がしたりしなければならず、そのたびに違うフォトマスクを使ってフォトリソグラフィが行われます。この複雑な工程をどこにも失敗がなく、できたものもどこにもおかしなところがないようにするのは本当に大変な技術と思います。しかし一方で一旦フォトマスクができてしまえば非常に複雑なパターンでも同じ工程を繰り返すだけでよく、自動化、機械化には適していると言えると思います。