電子デバイス/絶縁ゲート電界効果トランジスタ

15.まとめ

 IGFETには他の半導体デバイスとかなり異なった特徴があります。それは半導体層の積層構造が基本的に不要であることです。その換わりに半導体表面に絶縁膜を設けることが必要で、しかも半導体-絶縁体の界面が理想に近い状態であることが要求されます。「理想に近い」とは、異種物質の界面に余計な不純物や電荷がないことを意味します。

 この要求を満たすためにIGFETの実現には時間がかかりました。そして現在でも実用的な組み合わせは半導体がシリコンで絶縁体がシリコン表面を熱酸化した二酸化シリコンの組み合わせに限られています。

 しかしこの組み合わせに限って進められた技術開発は大きく進展し、極めて小さなサイズの素子が作製可能となり、何10万個、何100万個といった数のIGFETを小さなシリコンチップ上に形成可能になっています。このようなIGFETの集積回路については章を分けて説明することにします。

 IGFETは集積回路以外にも使われています。消費電力が少ない特徴を生かして例えば大きな電力を扱う単体の素子などもあります。しかしいずれも同じシリコンと二酸化シリコンの組み合わせ構造の素子であることに変わりがありません。

 かつて他の材料の組み合わせについても研究が行われたことはあります。例えば移動度の大きい半導体であるGaAsを用いたIGFETなども考えられましたが、良好な界面が形成できる絶縁膜は未だに発見できず、近年はこの方向の研究は断念されたようです。  このようにIGFETは世の中でもっとも多く利用されている半導体デバイスと言えますが、それを構成する材料は1種類に限定されているというかなり特殊な状態にあります。微細化も限界に近づいていると言われ、今後の方向を予測することは難しい状態にあると言えます。