電子デバイス/絶縁ゲート電界効果トランジスタ
11.IGFETの作り方(2、不純物拡散)
図10-1(再掲します)で(b)を作るところまで前項で説明しました。これだけでもずいぶん手間暇がかかっているのがおわかりかと思います。つぎは(c)です。シリコン基板はn型ですが、SiO2膜に窓が開いた(b)の一部分だけp型に変えます。
どういう方法を使うかですが、この技術も半導体技術としてはよく知られた基本的なものですので詳しく説明します。
4価のシリコンをp型にする不純物、つまりアクセプタになる不純物は3価の元素で、よく使われるのは硼素(B)です。またn型にするドナー不純物は5価の元素で、リン(P)がよく使われます。これをシリコン中に部分的に入れる方法としては熱拡散法があります。基板の一部分を選んで熱拡散すること選択拡散といいます。
熱拡散は物質の濃度に高い部分と低い部分があると、高い部分から低い部分に向かって物質が移動する拡散現象を利用するものです。図11-1(a)に示すように、シリコン基板の表面をBあるいはPを含むガスに高温でさらす(気相拡散)か、または図11-1(b)に示すように、BあるいはPを高濃度に含む固体の層をシリコン基板の表面に付着させ、これを加熱する方法(固相拡散)があります。固体の層を着けるにはペースト状にしたものを塗る、あるいは蒸着などによって薄膜を形成するといった方法が使われます。この熱拡散法によりBやPは時間経過とともに次第にシリコン中に入り込んでいきます。
BやPは周りのSiO2膜の中に入り込まないわけではありません。しかしSiO2膜が覆っている部分ではそれを通過してシリコンの表面まで達するには時間がかかります。また濃度も薄くなるはずです。このため、SiO2膜がある部分では拡散は事実上ブロックされ、シリコンが露出している部分だけに図10-1(c)のようなp型領域をつくることができます。拡散はSiO2膜の下側に向けても回り込むので、p型領域はきちっとした矩形になるわけではなく、丸みを帯びた形になるはずです。
この熱拡散法は拡散後の濃度をあまり正確にコントロールできないという問題をもっています。このため、微小な素子を用いる集積回路の生産には熱拡散はあまり使われていないはずです。それでは替わりにどのような技術が使われているかというと、イオン注入(Ion implantation)という方法があります。これは例えばBをイオンにし、高い電界中で加速してシリコン表面にたたきつけるようにして、打ち込むという方法です。イオン注入装置の概要を図11-2に示します。まずイオン源で不純物のイオンを発生させます。イオンを作るには放電を利用するのが簡単です。Bを含む気体に電圧をかけて放電させると、Bは電荷を帯びた粒子、すなわちイオンになります。イオン源の出口付近に正イオンの場合ならマイナス電圧をかけた電極を置けば、イオンはイオン源から引き出されます。電極をイオンが飛ぶ方向に沿って配置し、長さを長くしておけばイオンはどんどん加速されます。もちろんこれは真空中でなければいけません。
加速されたイオンが飛んでくるところに質量分析器を置きます。これは基本的には磁石で、イオンが磁界中を通過します。荷電粒子が磁界中を通過する際、その方向が曲げられますが、その方向変化の大きさは荷電粒子の質量によって変わります。この原理を利用すると使用するイオン、例えばBイオンと他の質量のイオンは違った曲がり方をするので、出口を小さくしておけば、Bイオンだけを取り出すことができ、他の不要なイオンは排除できます。
さらに質量分析器を出た後、イオンの飛ぶ方向、速度を必要に応じて設定し、さらにイオンの到達点を2次元方向に走査したい場合にはx方向、y方向に電極を設けてイオンビームを走査します。イオンビームの到達点にシリコン基板を置けば、イオンはシリコンの結晶のなかにシリコン原子を押しのけるようにしてたたき込まれます。
このような少し荒っぽい方法ですから、打ち込まれた側のシリコン基板の方はきちんと並んでいたシリコンの配列が乱されて傷みます。これはその後、加熱することによって修復することができます。また基板の奥まで打ち込もうとしてあまり高速に加速したイオンを使うと、結晶の傷みがひどくなりますから、これはほどほどにし、あとで加熱して熱拡散の助けも借りて不純物を奥まで入れるという手段も採られます。
このようなイオン注入法には不純物の濃度をコントロールでき、濃度分布を均一にできる特徴があります。真空中で一つの種類の元素だけを基板表面には触れずに空中から打ち込むので、このようにコントロールが効くのです。もっともかなり大きな真空装置が必要になるので、ちょっと実験室に置いて手軽に使うというわけにはいかないのですが。
さてこれで(c)まで終わりました。次項では(d)以降の工程に入ります。