電子デバイス/半導体集積回路
9.バイポーラトランジスタによるスイッチング
6項でIGFETによる論理回路を説明しましたが、同じ機能はバイポーラトランジスタを用いても実現することができます。歴史的にはバイポーラトランジスタが先に実用化したので、それを用いた論理回路の集積化も先に実現しました。集積回路のアイデアもバイポーラトランジスタを対象に生まれたことは3項、4項で説明した通りです。
バイポーラトランジスタの章でも示していますが、バイポーラトランジスタのエミッタ接地回路のコレクタ-エミッタ間電圧とコレクタ電流の関係はIGFETのソース-ドレイン間電流とドレイン電圧の関係によく似ていて図9-1のようになります。この図の横軸がコレクタ-エミッタ間電圧VCE、縦軸がコレクタ電流ICです。特性はベース電流IBを5種類変えた場合を示しています。VCEが大きくなるとICは一定とまではいかないもののあまり増加しなくなります。
前項のIGFETの場合同様に負荷抵抗RL=10kΩとして負荷直線を引いてみます。IB=0μAのIC-VCE曲線との交点を見ると、ICは大体-0.7mAで、そのときのVCEはおよそ-23Vです。またIB=-40μAの曲線との交点はICがおよそ3mAでVCEは-1V程度です。
つまり、ベース電流を変えることにより、コレクタ-エミッタ間を流れる電流をオン・オフでき、電圧も大小に変化できることがわかります。ベース電流はベース-エミッタ間の電圧VBEを変えることにより変化させることができますから、ベースへの入力信号によってコレクタ-エミッタ間電圧をスイッチすることができます。
この場合もベース電圧(絶対値)を下げたとき、コレクタ-エミッタ間電圧VCE(絶対値)は上がり、逆にベース電圧を上げるとVCEは下がることがわかります。つまりIGFETの場合と同じように入力電圧の変化に対して出力電圧は逆方向に変化しますからこれはNOT回路(インバータ)となります。
なお、実際のバイポーラトランジスタによるインバータ回路は図9-2のようなものが使われています。ベースに抵抗R1、R2が接続されている点がIGFETの場合と異なります。これはつぎのような理由によります。IGFETの場合はゲートは絶縁膜によってソース、ドレインと電気的に完全に切り離されていますが、バイポーラトランジスタの場合はベース-コレクタ間はpn接合であり、逆バイアス状態の場合もまったく電流を遮断することができません。
ベース電圧を下げてオフ状態にしたときもコレクタからベースに向かってわずかながら電流が流れます。この電流がわずかでもベースからエミッタへ流れてしまうと、エミッタ接地回路の増幅作用によってかなりの電流がコレクタからエミッタに向かって流れてしまうことになります。これはオフ状態でも無視できない電流が流れてしまうことを意味し、スイッチとしては完全でないものになってしまいます。
このときベース抵抗R2がベースと接地間に接続されていると、コレクタからベースに流れ込んだ電流がこの抵抗を通ってグランド側へ流れ、エミッタ側へ流れ込むことを防ぐことができます。その結果、オフ時にはコレクタ電流がほとんど流れないようにできます。R1は入力端子からベースに過大な電流が流れないようにする電流制限抵抗です。
この回路の入力端子にAという信号を入力すると、出力端子にはAのNOT信号である\(\bar{A}\)が出力されます。
さて以上のようにバイポーラトランジスタはスイッチとして動作しますから、IGFETの場合と同様にNAND回路、NOR回路を作ることができます。