電子デバイス/バイポーラトランジスタ

6.増幅回路とその特性(2)

 これまで説明してきたバイポーラトランジスタの増幅特性はベースを基準にエミッタとコレクタに電圧をかける方法を用いていました。これは接合型バイポーラトランジスタの発明者であるショックレイが用いた回路でもありますが、実際にはあまり使われていません。

 増幅用の回路としてもっともよく使われているのはエミッタを基準にベースとコレクタに電圧をかけるやり方です。図6-1に接続方法を示しました。入力側はエミッタ-ベース間に順方向の電圧をかけるので、前項のつなぎ方と変わりませんが、出力側はベースを跨いでエミッタとコレクタ間に電圧をかけています。

 接合との関係で言うと、前項のつなぎ方はエミッタ-ベース接合とベース-コレクタ接合の2つに別々の電源をつなぐかたちになっています。これに対して図6-1のつなぎ方はこの2つの接合全体に一つの電源をつないでいる点が異なります。

 とはいえ2つのpn接合を流れる電子の動きは端子のつなぎ方とは関係がありません。エミッタからベースに拡散した電子がコレクタ側にほとんど流れるという点は変わりません。

 このエミッタからコレクタに流れる電流はエミッタ-コレクタ間をつなぐ回路によって流れ、ベースに流れる電流はエミッタ-ベース間をつなぐ回路によって流れると考えることができます。前者の電流は後者の電流より大きいので、ベースに流れる電流を入力、コレクタに流れる電流を出力とすると、電流が増幅されていることになります。

 この特性をグラフで表すと図6-2のようになります。図6-2(a)は入力側の特性で、ベース-エミッタ間電圧VBEとベース電流Iの関係の概略を示しています。IはVBEの僅かな増加で急増しますが、電流自体はコレクタ電流の1/100程度と非常に小さいものです。

 図6-2(b)は出力側の特性で、コレクタ-エミッタ間電圧VCEとコレクタ電流Iの関係の概略例です。IはVCEに対して緩やかに増加しています。理想的にはI図5-2(b)の場合と同様に一定になるはずです。この緩やかな増加はVCEが大きくなるにつれてベース領域が一部空乏領域になりベース領域が見かけ上薄くなることによるもので、アーリー効果と呼ばれています。これは置いて、大体コレクタ電流は一定と見てもよいです。

 前項同様に負荷抵抗10kΩ、VCC=30Vの場合を例に、負荷直線を引いてみます。I=20μAのI-VCE曲線との交点を見ると(矢印)、Iは大体2mAで、そのときのVCEはおよそ10Vです。図6-2(a)を見るまでもなく、IはIの100倍程度になっていることが分かります。前項の場合と違って、電流の大きな増幅が起こっていることになります。