電子デバイス/半導体集積回路

10.汎用論理集積回路

 6項と前項でIGFETでもバイポーラトランジスタでもそれらのスイッチング機能を利用して論理回路を作ることができることを示しました。論理回路は基本となるいくつかの論理回路を多数組み合わせて必要な全体の論理回路を作りあげますから、トランジスタや抵抗器などの個別部品を組み合わせて作るより、集積化した基本論理回路を使う方が明らかに便利です。

 トランジスタはバイポーラ型が先行したので、集積回路の実用化もバイポーラ型から始まりました。バイポーラトランジスタを用いた最初期のNOR回路を図10-1に示します。前項の図9-2のインバータの入力抵抗を並列に2つ(R1A、R1B)接続した回路で、どちらの抵抗器に入力信号が入ってもトランジスタをオン、オフできるのでOR、正しくはNOR回路となります。この回路は1961年にフェアチャイルド(Fairchild)社によって世に出され、抵抗-トランジスタ論理回路(Resistor-Transistor Logic 略してRTL)と呼ばれます(1)

 しかし、この回路のように入力側に抵抗器を接続すると、入力信号が1(高い電位)になりトランジスタがオンになった場合、抵抗器を介して電流が流れますので、消費電力が大きくなってしまうという難点があります。そこで抵抗器をダイオードに変えて入力側から流れ込む電流を防いだ図10-2のような回路が考えられました。ただし抵抗器R1A、R1Bを単にダイオードD1A、D1Bに置き換えただけでは両方の入力信号が0(低い電位)の場合でもダイオードには順方向電圧があるので、これによってトランジスタがオンになり、入力信号にかかわらずトランジスタはオンのままになってしまいます。そこでダイオードDを挿入してDの順方向電圧を打ち消すようにしてA、Bがともに0のとき、トランジスタがオフになるようにしています。ダイオードDは2個直列にした方が動作が確実になります。このDをレベルシフトダイオードと呼んでいます。ダイオードを用いた場合をダイオード-トランジスタ論理回路(Diode-Transistor Logic 略してDTL)と呼びます。

 DTLは動作速度が遅いという欠点があります。そこでDTLのダイオードを図10-3のようにトランジスタで置き換えた回路が考えられました(2),(3)。これをトランジスタ-トランジスタ論理回路(Transistor-Transisitor Logic 略してTTL)と呼びます。入力側のトランジスタTr、Trのベース-エミッタ間接合がDTLのダイオードD1A、D1Bに相当し、ベース-コレクタ間接合がダイオードDに相当しますから、レベルシフトダイオードは不要となります。集積回路の製造ではダイオードを作る工程もトランジスタを作る工程もパターンを変えるだけで特別な変更は必要がなく、同じトランジスタを使った方が同じパターンで済むためかえって好都合です。初期に用いられたRTLやDTLは比較的早い時期にTTLに置き換えられ、バイポーラトランジスタの集積論理回路は最終的にTTLになりました。TTLは1962年にテキサス・インスツルメンツ(Texas Instruments)社が初めて製品化しています(2)

 このTTLの場合、入力側のトランジスタを図10-4のように複数のエミッタをもつ一つのトランジスタとすることができます(マルチエミッタ型と呼びます)。ベース上に溝で区切ったエミッタ領域を複数作ります。これにより入力側のトランジスタを1個にまとめることができ、集積回路とした場合に面積を小さくすることができます。マルチエミッタ型トランジスタはTTLが世に出る時期に発案されたようです(4)

 あらゆる論理回路はNOR、NAND、NOT回路があれば、これらを組み合わせて実現できます。そこでこの3種類の回路がそれぞれ集積回路として準備されてあれば、ユーザは作製したい回路にしたがってこれらの入出力、電源、接地の端子を配線すれば簡単に論理回路が作れます。

 実際に、TTLを使って標準的な回路が提供されてよく使われました。これを汎用論理回路と言います。具体的には例えば図10-4のような2入力のNAND回路を4つを14ピンのパッケージに納めた製品(図10-5)など、使いやすいように、いろいろな回路が用意されていましたので、ユーザはこれを選んで作製したい回路に従って準備したプリント基板に取り付ければよかったわけです。

 現在ではTTLより消費電力が少ないIGFET(CMOS)の論理回路への置き換えが進んでいます。内部回路は基本的には6項で示したようなものが用いられ、バイポーラトランジスタのTTLとは異なりますが、汎用という考え方は受け継がれ、TTLと互換の製品が多く用意されています。

(1)Resistor-Transistor Logic ウィキペディア

(2)Transistor-Transistor Logic ウィキペディア 

(3)米国特許3283170号 (対応日本特許:特公昭48-12661号)

(4)英国特許1037973号