科学・基礎/半導体物理学

41.不純物が添加された半導体での電子のエネルギー分布

 不純物が添加され、不純物準位がある場合に電子のエネルギー分布はどうなるか、これは39項の真性半導体の場合と同じ考え方で導くことができます。

 図41-1のように半導体中にエネルギーが \(E=E_{D}\) のドナー準位だけが1つあり、その状態密度が \(N_{D}\) であるとします。ここに \(n_{D}\) 個の電子が入るわけですが、電子に正のスピンと負のスピンをもつ2種類があることを考慮しなければなりません。それらの密度をそれぞれ \(n_{D}^{+}\)、\(n_{D}^{-}\) とします。    \[n_{D}= n_{D}^{+}+n_{D}^{-}\]

 まず、正のスピンをもつ電子 \(n_{D}^{+}\)は\(N_{D}\) の状態にそれぞれ1個しか入れませんから、その入り方の場合の数は、\(N_{D}\) 個の箱に区別のない \(n_{D}^{+}\) 個のボールを入れる仕方の数と同じです。すなわち    \[\frac{N_{D}!}{n_{D}!}\left ( N_{D}-n_{D}\right )!\tag{1}\] と表せます。残りの状態は \(N_{D}-n_{D}^{+}\) 個で、ここに負のスピンをもつ電子 n_{D}^{-}個 が入る仕方の数は    \[\frac{\left ( N_{D} -n_{D}^{+}\right )!}{n_{D}^{-}! \left ( N_{D} -n_{D}^{+} -n_{D}^{-}\right )!}\tag{2}\] となります。

 \(N_{D}\) の状態に正負のスピンをもった電子が入る仕方の数 \(w\) は(1)と(2)をかけて    \[w= \frac{N_{D}!}{n_{D}^{+}! n_{D}^{-}! \left ( N_{D}-n_{D}^{+}-n_{D}^{-} \right )!}\tag{3}\] となります。

 この後は真性半導体の場合と同様の手順をとります。両辺の対数をとり、スターリングの公式を用い、(3)式の \(w\) を \(n_{D}^{+}\)と\(n_{D}^{-}\) でそれぞれ微分します。その結果、\(\alpha\)、\(\beta\) を定数として    \[\begin{align} &\ln \frac{N_{D}-n_{D}^{+}-n_{D}^{-}}{n_{D}^{+}}+\alpha -\beta E_{D}= 0\tag{4 }\\ &\ln \frac{N_{D}-n_{D}^{+}-n_{D}^{-}}{n_{D}^{-}}+\alpha -\beta E_{D}= 0\tag{5}\end{align}\] が得られます。(4)、(5)両式が成り立つためには、    \[n_{D}^{+}= n_{D}^{-}= \frac{n_{D}}{2}\] である必要があり、この関係を用いると(4)式または(5)式は    \[\frac{N_{D}-n_{D}}{n_{D}/2}= \exp \left (\beta E_{D}-\alpha\right )\] となります。したがって    \[n_{D}= N_{D}\frac{1}{1+\frac{1}{2}\exp \left ( \frac{E_{D}-E_{F}}{kT} \right )}\tag{6}\] が得られます。ここで    \[\beta = \frac{1}{k_{B}T},\; \alpha = \frac{E_{F}}{kT}\] と置きました。前に出てきたフェルミ分布関数とのちがいは exp の前に 1/2 がついていることです。

 ドナー準位は伝導帯のすぐ下にあるので、伝導帯の電子はこのドナー準位からすべて供給される図41-2で表されるような状態にあると考えてよいでしょう。

であれば電子が入っていないドナー準位の状態の数が伝導帯の電子の数 \(n\) に相当することになります。    \[n= N_{D}-n_{D}\] これに(6)式と以前に導いた伝導帯の電子密度の式を用いると    \[N_{D}-N_{D}\frac{1}{1+\frac{1}{2}\exp \left ( \frac{E_{D}-E_{F}}{kT} \right )}= N_{c}\exp \left ( \frac{E_{F}-E_{c}}{kT} \right )\] となります。少し書き直すと    \[N_{c}\exp \left ( \frac{E_{F}-E_{c}}{kT} \right )= N_{D}\frac{1}{2\exp \left ( \frac{E_{F}-E_{D}}{kT} \right )+1}\] ここで \(n<<N_{D}\) ならば    \[N_{c}\exp \left ( \frac{E_{F}-E_{c}}{kT} \right )= \frac{N_{D}}{2}\exp \left ( \frac{E_{D}-E_{F}}{kT} \right )\] となります。\(E_{F}\) について解くと    \[E_{F}= \frac{E_{D}+E_{c}}{2}+ \frac{kT}{2}\ln \frac{N_{D}}{2N_{c}}\] となり、ドナー準位がある場のフェルミレベルはドナー準位と伝導帯の底の大体中央にあることがわかります。この \(E_{F}\) を用いると、\(n\) は    \[n= \sqrt{\frac{N_{c}N_{D}}{2}}\exp \left ( \frac{E_{D}-E_{c}}{2kT} \right )\] と表せます。

 以上は半導体中に1種類のドナー不純物のみが添加されている場合を扱いました。1種類のアクセプタ不純物のみが添加されている場合も基本的に同様に扱うことができます。アクセプタ準位にいる正孔密度 \(p_{A}\) は    \[p_{A}= N_{A}\frac{1}{1+\frac{1}{2}\exp \left ( \frac{E_{F}-E_{A}}{kT} \right )}\] と表されます。ただ正孔というのは価電子帯で電子の抜けた孔を便宜的に粒子のように考えたものですから、アクセプタ準位との間のやりとりは本来電子について考えた方がいいと思います。

 アクセプタ準位にいる電子の密度 \(n_{A}\) に直すには分布関数を1から引いたものに変えればいいので、    \[\begin{align} n_{A} &= N_{A}\left \{ 1-\frac{1}{1+\frac{1}{2}\exp \left ( \frac{E_{F}-E_{A}}{kT} \right )} \right \} \\ &= N_{A}\frac{1}{1+2\exp \left ( \frac{E_{A}-E_{F}}{kT} \right )}\end{align}\] となります。またフェルミレベルは    \[E_{F}= \frac{E_{A}+E_{v}}{2}-\frac{kT}{2}\ln \frac{N_{A}}{2N_{v}}\] となり、価電子帯の頂上とアクセプタ準位の間に来ます。

以上より価電子帯の正孔密度 \(p\) は    \[p= \sqrt{\frac{N_{v}N_{A}}{2}}\exp \frac{E_{v}-E_{A}}{2kT}\] と表されます。

 以上の議論は1つのドナー準位またはアクセプタ準位だけを考えたものです。現在の実用されている半導体は非常に純度が高くなっていて意図して添加した不純物以外の不純物の含有量は非常に少ないはずですから、通常はこれで十分です。

 ドナーとアクセプタははたらきが逆なので、この両方を意図して添加することは普通は考えられません。しかし意図しない不純物の混入は微量ではあってもゼロではありえません。そこでより一般的には、複数の不純物が含まれた場合を考えておく必要があります。

 ここでは密度 \(N_{D}\) のドナーの他にドナーより少ない密度 \(N_{A}\) のアクセプタが含まれている場合を考えます。半導体は電気的に中性ですから、正負の電荷の量は釣り合っていなければなりません。ドナーは電子を離した状態で正電荷、アクセプタは正孔を離した(電子を捕らえた)状態で負電荷をもっています。これ以外に負電荷をもった自由電子と正電荷をもった正孔があります(図41-3参照)。

 電荷の中性条件は    \[n+N{_{A}}^{-}= p+N{_{D}}^{+}\tag{7}\] となります。ただし \(N{_{A}}^{-}\) は正孔を離したアクセプタの密度で    \[N{_{A}}^{-}= n_{A}\] の関係があります。また \(N{_{D}}^{+}\) は電子を離したドナーの密度で    \[N{_{D}}^{+}= N_{D}-n_{D}\] と書けます。これらの関係から一般の場合にも電子と正孔のエネルギー分布を求めることができます。

 なお、n形半導体とは \(N_{D}\gg N_{A}\) であって \(n\gg p\) である場合を言い、p形半導体とは\(N_{A}\gg N_{D}\) であって \(p\gg n\) である場合を言うと定義できます。

 さて、n形半導体について考えると、アクセプタ準位はドナーよりアクセプタの方が少ない場合を考えていますので、電子で完全に埋まっていると考えることができます。すなわち \(N_{A}^{-}=N_{A}\) が成り立っていると考えます。このとき(7)式の電荷中性条件は    \[n+N_{A}= N_{D}\left \{ 1-f_{D}\left ( E_{D} \right ) \right \}\tag{8}\] と書けます。ただし    \[f_{D}= \frac{1}{1+\frac{1}{2}\exp \left ( \frac{E_{D}-E_{F}}{kT} \right )}\tag{9}\] と置きました。

 (8)式を書き換えると    \[N_{D}-N_{A}-n= N_{D}f_{D}\left ( E_{D} \right )\tag{10} \]となりますが、以下ちょっとテクニックになりますが、(8)、(10)式の比を取り、\(f_{D}\) を(9)式に戻します。すると次式が得られます。    \[\frac{n+N_{A}}{N_{D}-N_{A}-n}= \frac{1}{2}\exp \left ( \frac{E_{D}-E_{F}}{kT} \right )\tag{11}\]

 さらにこの(11)式に \(n\) についての次式    \[n= N_{c}\exp \left ( -\frac{E_{c}-E_{F}}{k_{B}T} \right )\] を掛けます。すると    \[\frac{n\left ( n+N_{A} \right )}{N_{D}-N_{A}-n}= \frac{1}{2}N_{c}\exp \left ( -\frac{E_{c}-E_{D}}{kT} \right )\tag{12}\] が得られます。これが一般式ですが、これでは何を意味しているのかよく分かりません。そこで温度 \(T\) の範囲により、上式を近似的に書き直してみます。

(a) 温度が十分に低く、自由電子が少ない場合  \(n\ll N_{A}\ll N_{D}\) であれば、    \[\frac{n\left ( n+N_{N} \right )}{N_{D}-N_{A}-n}\simeq \frac{nN_{A}}{N_{D}-N_{A}}\] と近似して(12)式は    \[n= \frac{N_{c}\left ( N_{D}-N_{A} \right )}{2N_{A}}\exp \left (- \frac{E_{c}-E_{D}}{kT} \right )\] となります。この領域では \(n\) は \(E_{c}-E_{D}\) を活性化エネルギーとして温度とともに指数関数的に増大することが分かります。

(b) 温度がやや高くなり、\(N_{D}\gg n\gg N_{A}\) になった場合    \[\frac{n\left ( n+N_{A} \right )}{N_{D}-N_{A}-n}\simeq \frac{n^{2}}{N_{D}}\] と近似して、(12)式は    \[n= \left ( \frac{N_{c}N_{D}}{2} \right )^{1/2}\exp \left ( -\frac{E_{c}-E_{D}}{2kT} \right )\] となります。この式にはアクセプタ準位の密度 \(N_{A}\) が含まれず、アクセプタ不純物が無視できる場合と同じになります。

(c) さらに温度が上がって \(kT\gt \left(E_{c}-E_{D}\right )\) となった場合  (12)式右辺は    \[\exp \left ( -\frac{E_{c}-E_{D}}{kT} \right )\simeq 1\] と近似でき、左辺は \(N_{D}-N_{A}<N_{c}\) が成り立つとすると、    \[\frac{n+N_{A}}{N_{D}-N_{A}-n}\simeq \frac{N_{c}}{2n}\simeq \frac{N_{c}}{2N_{D}}\gg 1\] と近似される。これより    \[n\simeq N_{D}-N_{A}\] となります。この場合、ドナーにある電子はアクセプタに落ち込んだ分を除いてすべて伝導帯に上がっていることを意味し、\(n\) は温度に依存せず一定になります。ドナーの電子がすべて出払った状態であるので、この領域を出払い領域と呼んでいます。デバイスへ応用する場合、室温でこの状態になっていると通常考えます。

 また伝導電子の一部がアクセプタに落ち込んで減ってしまうことを補償効果と呼びます。アウセプタの密度が高いとドナーから供給されるはずの電子はアクセプタに落ち込んでしまうので、伝導帯に伝導電子が供給されない状態になります。ドナー不純物を添加してもn形半導体ができないということになります。かつてGaNはp形ができなかったのですが、その主な原因も補償効果によるものと考えられていました。

(d) さらに温度が高い場合。  ドナーは完全に出払い状態になり、価電子帯から電子が励起されるようになるので、    \[n= p= n_{i}= \left ( N_{c} N_{v}\right )^{1/2}\exp \left ( -\frac{E_{g}}{2kT} \right )\] となります。これは真性半導体の場合に一致しています。

 ところで \(n\) を表す式として    \[n= C\exp \left ( -\frac{E}{kT} \right )\] という形が多く出てきましたが、この式の両辺の対数をとると    \[\ln \left (n\right )= \ln C-\frac{E}{k_{B}T}\] という形になります。これは横軸に \(1/T\)、縦軸に \(\ln \left (n\right )\) をとると直線になることを意味し、その直線の傾きは \(-E/k\) になりますから、ここから活性化エネルギー \(E\) が求められることが分かります。

 以上の(a)~(d)の特性をまとめて \(\ln \left (n\right )-1/T\) の関係で表した模式図を図41-4に示します。以上がキャリアのエネルギー分布に関する理論、すなわちウィルソンモデルの中核部分です。