科学・基礎/半導体物理学
40.真性半導体の電子密度と正孔密度

 とくに断らずに進めてきましたが、これまでの話はとくに不純物を含まない半導体(これを真性半導体といいます)についてのものでした。この真性半導体の場合、価電子帯から電子が励起されると、正孔ができますから伝導帯の電子の数と価電子帯の正孔の数は等しくなります。

 すなわち    \[n= p= n_{i}\] と書けます。\(n_{i}\) を真性キャリア密度と呼んでいます。この関係から    \[np= n_{i}^{2}\tag{1} \]も成り立ちます。この関係を質量作用の法則と言います。少し奇妙な名前です。よく知られている質量作用の法則は化学の分野での化学反応の平衡に関する法則です。

 物質 A、\(a\) モルと物質 B、\(b\) モルが反応して物質 M、\(m\) モルと物質 N、\(n\) モルができる化学反応式を    \[aA+bB\rightleftharpoons mM+nN\] と書きます。この反応が平衡状態にある、つまり左から右へ進む反応と右から左へ進む反応が釣り合っているとき、A、B、M、Nの濃度を \(C_{A}^{a}\)、\(C_{B}^{b}\)、\(C_{M}^{m}\)、\(C_{N}^{n}\) とすると、その間に    \[K= \frac{C_{A}^{a}C_{B}^{b}}{C_{M}^{m}C_{N}^{n}}\] という関係が成り立つというのが、質量作用の法則です。ここで \(K\) は定数です(ただし温度には依存します)。

 これと電子、正孔の質量作用の法則の関係を考えます。化学反応式に相当する式を

 (伝導帯の電子密度 \(n\))+(価電子帯の正孔密度\(p\))

\(\rightleftharpoons\) (伝導帯の電子の状態密度 \(N_{c}\))+(価電子帯の電子の状態密度 \(N_{v}\))

とみなします(1)。すると対応する質量作用の法則は    \[K= \frac{np}{N_{c}N_{v}}\tag{2}\] と書けます。これまで導いた \(n\) と \(p\) の式をもう一度書くと、    \[\begin{align}n &= N_{c}\exp \left ( -\frac{E_{c}-E_{F}}{k_{B}T} \right )\tag{3} \\ p &= N_{v}\exp \left ( -\frac{E_{F}-E_{v}}{k_{B}T} \right )\tag{4}\end{align}\] です。これを(1)式に代入すると    \[\begin{align}np &= N_{c}N_{v}\exp \left ( -\frac{E_{c}-E_{v}}{k_{B}T} \right ) \\ &= N_{c}N_{v}\exp \left ( -\frac{E_{g}}{k_{B}T} \right )\end{align}\] となります。ただし    \[E_{g}= E_{c}-E_{v}\] とし、\(E_{g}\) はバンドギャップエネルギーです。これより(2)式の \(K\) は    \[K= \exp \left ( -\frac{E_{g}}{k_{B}T} \right )\] となり、温度のみに依存する定数であることがわかります。

 このような類似から、化学反応ではありませんが、電子と正孔の密度の間の関係も質量作用の法則と呼んでいます。なお、\(n_{i}\) は    \[n_{i}= \sqrt{N_{c}N_{v}}\exp \left ( -\frac{E_{g}}{2k_{B}T} \right )\] となります。

 ところで \(n=p\) ですから、(3)、(4)式を用いると    \[N_{c}\exp \left ( -\frac{E_{c}-E_{F}}{k_{B}T} \right )= N_{v}\exp \left ( -\frac{E_{F}-E_{v}}{k_{B}T} \right )\] が成り立ちます。両辺の対数をとると、    \[\ln N_{c}-\frac{E_{c}-E_{F}}{k_{B}T}= \ln N_{v}-\frac{E_{F}-E_{v}}{k_{B}T}\] となります。これを \(E_{F}\) について解くと    \[E_{F}= \frac{1}{2}\left ( E_{c} +E_{v}\right )+\frac{1}{2}kT\ln \left ( \frac{N_{v}}{N_{c}} \right )\] となります。\(N_{c}\) と \(N_{v}\) を有効質量を使った形に戻し、価電子帯の頂上をエネルギーの原点にとる (\(E_{v}=0\)) と    \[E_{F}= \frac{E_{g}}{2}+\frac{3}{4}k_{B}T\ln \left ( \frac{m_{h}^{*}}{m_{e}^{*}} \right )\tag{5}\] となります。

 この式で、\( m_{h}^{*}/m_{e}^{*}\) はせいぜい 10 くらいの値ですから対数をとっても一桁程度の値です。また \(kT\) は室温 (\(T=\)300K) で 0.026eV です、(5)式の右辺第1項は \(E_{g}\) が 1eV 程度ですから、これに比べて右辺第2項は無視できます。したがって    \[E_{F}= \frac{E_{g}}{2}\] となり、フェルミエネルギーはバンドギャップの中央付近にあることがわかります。

(1)植村泰忠、菊池誠著、「半導体の理論と応用(上)」、裳華房 2.4