科学・基礎/半導体物理学

39.価電子帯の正孔密度

 価電子帯の正孔(ホール)の密度はどう考えたらよいでしょうか。その前に正孔とは何かをもう一度考えておきます。

 伝導帯の電子の場合は、結晶のなかを原子核に束縛されずに動き回る負電荷をもった粒子としてイメージできます。結晶全体では正負の電荷が釣り合っていなければならないので、どこかに電子の負電荷に見合う正電荷がなければいけませんが、1つの自由電子の動きを考える場合には周囲は中性原子と考え、過剰な負電荷があると考えます。

 結晶のなかの電荷の実体としては正電荷をもつ原子核と負電荷をもつ電子があるだけです。原子核は動かないので、動く正電荷としての実体はありません。しかしホール効果の測定では、ある半導体では動く正電荷があるかのような結果が得られます。これはつぎのように説明できます。

 半導体では一般的に電子は原子核から室温で容易に離れることができます。中性の原子から電子が離れれば、原子は正電荷を持ちます。離れた電子は一旦どこかに行ってしまったと考えると、この原子の周辺では電子が不足した状態になります。しかしこの正電荷は原子核のものなので動きません。

 ただし電子が抜けて正に帯電した原子の例えば隣の原子の電子は容易に原子から離れることができ、隣に正に帯電した原子があればそれに引きつけられます。こうしていままで中性だった原子が正に帯電し、正に帯電していた原子は中性に戻ります。実際には電子が動いているのですが、見かけ上、正電荷が電子と逆方向に動いたように見えます。

 図39-1はこの様子を示したものです。左から右へ時間が流れていると考えて下さい。白丸が中性原子で、+と書いた黒丸が正孔を表しますが、正孔は時間とともに左下から右上に向かって動いています。これは図のように逆方向に動いた電子 \(-e\) によって電子が不足している原子の位置が変わったことによるものです。

 例えば結晶に電界がかかっていると、電子は電位の高い方向に移りやすく、もしその方向に電子が抜けて正に帯電した原子があるとその原子に移る確率がより高くなります。このような見かけの正電荷が正孔です。電子が抜けたあとの孔という意味で正孔あるいはホールと名付けられたわけです。

 価電子帯の正孔の数は電子の場合と同じように

   [正孔の数]=[価電子帯の状態密度]×[エネルギー分布]

で表されます。

 上の説明のように正孔は電子が抜けた状態ですから、そのエネルギー分布は電子のそれと正反対になります。すなわち    \[1-f\left ( E \right )= 1-\frac{1}{1+\exp \left \{ \left ( E-E_{F} \right )/kT \right \}}\] となります。近似的には    \[1-f\left ( E \right ) \simeq \exp \left \lbrace \left ( E_{F}-E \right )/kT \right \rbrace\] となります。以下ではこれを使います。

 したがって価電子帯の正孔密度 \(p\) は    \[p= \int_{-\infty }^{E_{v}}\left ( 1-f\left ( E \right ) \right )D_{h}\left ( E \right )dE\] と書けます。

 エネルギーの積分区間は、エネルギーの基準を価電子帯の最高のエネルギー(価電子帯の頂上のエネルギーということがあります) \(E_{v}\) にとるので、\(E_{v}\) からマイナス無限大にします。

 正孔密度 \(p\) のエネルギー分布のイメージを図39-2に示します。赤く示した曲線が正孔密度のエネルギー分布を示しています。価電子帯の頂上付近のエネルギーのもっとも高い部分の正孔密度がもっとも大きくなっていますが、正電荷をもつ正孔のエネルギーはこの部分がもっともエネルギーが低いので、そこの正孔密度がもっとも多くなるのは常識にかなっていると言えるでしょう。

 積分を電子の場合と同じ手順で計算すると    \[p= 2\left ( \frac{2\pi m_{h}^{*}kT}{\hbar^{2}} \right )^{\frac{3}{2}}\exp \left ( -\frac{E_{F}-E_{v}}{kT} \right )\] となります。ただし \(m_{h}^{*}\) は正孔の有効質量です。正孔に質量はあるのかという問題もありますが、その問題にはここでは深入りしないことにします。さらに電子の場合と同様に    \[N_{v}= 2\left ( \frac{2\pi m_{h}^{*}kT}{\hbar^{2}} \right )^{\frac{3}{2}}\] とおくと、    \[p= N_{v}\exp \left ( -\frac{E_{F}-E_{v}}{kT} \right )\] と書くことができます。

 この式は価電子帯の頂上、すなわち \(E=E_{v}\) のところに状態密度 \(N_{v}\) が集中して存在し、これにボルツマン分布をかけたものが正孔密度 \(p\) であるということを表しています。これを図示したのが図39-3です。電子の場合と同様に、\(N_{v}\) を価電子帯の実効状態密度といいます。