科学・基礎/半導体物理学

31.3次元結晶のエネルギーバンド

 前項で説明した単純立方格子の第1ブリルアンゾーンを図31-1に再度示します。図のように第1ブリルアンゾーンは立方体になります。このためこの立方体の中心に原点をとると、原点から第1ブリツアンゾーンまでの距離は方向によって変わります。

 図でXと示した \(k_{x}\) 軸上の点の座標は (\(\pi/a\),0,0) です。またMで示した点の座標は (\(\pi/a\), \(\pi/a\),0)、Rで示した点の座標は (\(\pi/a\), \(\pi/a\), \(\pi/a\))です。Xで示した点と等価な点は黒丸で示した6点があります。また青丸のMは8点、赤丸のRも8点あります。

 等価な各点の \(\Gamma\) で示した原点 (0,0,0) からの距離はXが \(\pi/a\)、Mが \(\sqrt{2}\pi/a\)、Rが \(\sqrt{3}\pi/a\) です。ここで各点を記号 \(\Gamma\)、XMRで示しましたが、これらはブリルアンゾーンの境界を表す記号としてほぼ慣習的に使われています。

 つぎにエネルギー \(E\) と \(k\) の関係を考えます。\(E-k\) 曲線は還元ゾーン形式で描くと概略、図31-2のようになります。\(k\) 軸の値は上記の記号で示しています。エネルギーは基本的に    \[E= \frac{\hbar^{2}}{2m}k^{2}\] すなわち \(k\) の2次関数で表されると考えれば、ブリルアンゾーンが境界となる点の \(k\) の値が結晶の方向によって異なるので、ギャップが生じるエネルギーも異なることになります。MXの約2倍、RXの約3倍となります。

 図31-2の赤色の曲線が第1ブリルアンゾーンで、青色は第2ブリルアンゾーンです。第2ブリルアンゾーンがどのような形になるかはかなり複雑ですので、ここでは立ち入りません。

 上記の例の単純立方格子は実際の物質に対しては単純すぎてあまり役立ちません。例えばシリコンの結晶構造はダイヤモンド構造といわれる構造をもっていますが、これはだいぶ複雑で、第1ブリルアンゾーンがどのような形になるかも単純ではありません。したがってエネルギーバンドも複雑です。

 半導体素子を扱うためには Si や GaAs などのエネルギーバンドの構造を知っておくことが必要ですが、計算手法も得られる結果もかなり複雑ですので、ここで紹介できる範囲を超えています。

 これらが載っている本を少し紹介しておきます。まず文献(1)は固体物理の分野で有名な教科書です。8章の半導体のところにゲルマニウムのエネルギーバンド構造の図が載っています。これは手元にある第5版での話ですが、最新版の第8版でも変わっていないと思います。この本の初版(原著)は1953年ですから、初版にはもちろん載っていなかったはずです。確認していませんが、恐らく1976年刊行のこの第5版で初めて載ったと思われます。

 上記の本も入門書ですから詳しい計算方法などまでは説明していません。現在、このようなことを解説していて手に入りやすい本は多くありません(以前より減ったような気がします)。書店で見かける本としては文献(2)が挙げられます。この本の初版は1982年ですが、現在書店に置かれているのは改訂版です。

 この本には Si、Ge、GaAs のバンド構造が載っています。これらは1976年の論文からの引用となっていますから、バンド構造の詳細な計算ができるようになったのは1970年代中頃ということになります。計算に使う近似手法などについても紹介されていますが、これを読んだからと言って具体的な計算ができるというものではありません。

 なお、ここまで解説をするのに参考にさせていただいた本(3)を紹介しておきます。1995年の出版です。この本はバンド理論への導入手順が大変よく工夫されていて、これに似た解説をしている本は他にないと思います。

(1)C・キッテル「固体物理学入門」(丸善)

(2)御子柴宣夫著「半導体の物理」(培風館)

(3)金持徹編著「固体電子論」(裳華房)