科学・基礎/半導体物理学

28.3次元結晶の表し方

 バンド理論を3次元に拡張するためには、3次元結晶をどう表現するかが問題となります。これにはベクトルを使うのが便利です。

 もっとも簡単な例としてxyzの方向に間隔 \(a_{1}\)、\(a_{2}\)、\(a_{3}\) で原子が並んでいる図28-1のような結晶(結晶格子)を考えます。ある原子を原点 0 にとり、xyz方向にそれぞれ長さ \(a_{1}\)、\(a_{2}\)、\(a_{3}\) (格子定数と言います)のベクトルをとり、これを \(\mathbf{a_{1}}\)、\(\mathbf{a_{2}}\)、\(\mathbf{a_{3}}\)とすると、あらゆる位置(格子点と言います)にある原子は次式のベクトル\(\mathbf{R}\)で表されます。ここで \(n_{1}\)、\(n_{2}\)、\(n_{3}\) は正負の整数です。    \[\mathbf{R}= n_{1}\mathbf{a}_{1}+n_{2}\mathbf{a}_{2}+n_{3}\mathbf{a}_{3}\tag{1}\] この \(\mathbf{R}\) を格子ベクトルと言います。また、 \(\mathbf{a_{1}}\)、\(\mathbf{a_{2}}\)、\(\mathbf{a_{3}}\) を基本格子ベクトルと言います。

 xyz方向の軸を結晶軸と言いますが、結晶軸は直交するようにとる必要は必ずしもありません。もっと原子の並び方の規則が複雑な場合も、ベクトルをうまく取ればあらゆる結晶を(1)式で表すことができます。

結晶軸

 結晶軸の方向はつぎのような指数を使って表します。例えばベクトル \(\mathbf{a}_{1}\) の方向は \(n_{1}\)、\(n_{2}\)、\(n_{3}\) を使って \(\left[ 100\right ]\) と表します。\(\left [ 200\right ]\)、\(\left [ 300\right ]\) なども同じなので、最小の整数を使うという決まりがあります。\(\mathbf{a}_{2}\) は \(\left [ 010\right ]\)、\(\mathbf{a}_{3}\) は \(\left [ 001\right ]\) です。

 図の赤い矢印の方向は \(\left [ 111\right ]\) です。青い矢印は \(\left [ 210\right]\) ですが、この例から 1 より大きな整数を使わなければならない場合もあることがわかると思います。

 負の方向は \(\left [ \bar{1}00 \right ]\)、\(\left [ 0\bar{1}0 \right ]\)、\(\left [ 00\bar{1} \right ]\)などと書きますが、普通のテキスト文では書けないので \(\left [ -100\right ]\)、\(\left [ 0-10\right ]\)、\(\left [ 00-1\right ]\) と書いている場合もあります。

 結晶軸の方向を \(\langle 111\rangle\) と書いている場合もあります。これは例えば \(\left [ 111 \right ]\) と \(\left [ -111 \right ]\) は図28-1でみると方向は違いますが、結晶をくるっと回してしまえば同じ方向になり、実際には区別がつきません。このような関係にある方向を等価な方法と言います。このような等価な方向については代表して \(\langle 111\rangle\) と書くということになっています。図28-1が立方体の重なりである単純立方晶であれば、\(\left [ 100\right ]\) も \(\left [ 010\right ]\) も \(\left [ 001\right]\) も等価ですから、これは \(\langle 100\rangle\) と書けばよいことになります。もっともこのような \(\left[ ~~~\right]\) と \(\langle~~~\rangle\) の区別が明確にされていない場合もあるようです。

結晶面

 結晶の面は図28-2に示すように(1)式の \(n_{1}\)、\(n_{2}\)、\(n_{3}\) を使ってxyz軸と \(n_{1}a_{1}\)、\(n_{2}a_{2}\)、\(n_{3}a_{3}\) と交わる面を \(\left ( 1/n_{1},1/n_{2},1/n_{3}\right )\) と表します。ただしこのままでは \(n_{1}\)、\(n_{2}\)、\(n_{3}\) のいずれかの絶対値が 2 以上の場合、その逆数は小数になってしまいますので、この3つの数に同じ倍数をかけ、それらの比を保った最小の整数の組になるようにして表します。

例えば図28-3(a)の水色の面は \(n_{1}=1\) ですが、\(a_{2}\) と \(a_{3}\) の軸には平行で切片はありません。この場合は切片は \(\infty\)、その逆数は 0 と考え、この面は \(\left ( 100\right )\) 面となります。緑色の面もこれに平行ですから同じ \(\left ( 100\right )\) 面です。面の場合は等価な面を代表して表す場合、\(\lbrace \rbrace\) を使います。図28-3(b)のピンク色の面は \(n_{1}=1\)、\(n_{2}=1\)、\(n_{3}=1\) ですから \(\left ( 111\right )\) 面です。

 面の指数は丸カッコで表すことに注意し、結晶軸の方向を表している場合と混同しないようにする必要があります。面を表すこの指数をミラー指数と呼んでいます。ミラーは人名で、この指数を考案したイギリスの鉱物学者W.H.Millerに因みます。

六方晶についての慣例

 以上のようなミラー指数を使ってあらゆる三次元結晶を表すことができます。ただ結晶学あるいは鉱物学の分野にはいろいろな慣行があります。例えば青色発光素子などに使われるⅢ族窒化物半導体には図28-4に示すような六方晶の結晶のものが多いのですが(半導体レーザの36項参照)、この六方晶をあらわすのには、上記の3つの指数ではなく、4つの指数を用いるのが普通です。なお、実際の結晶は図のように原子は六角柱の頂点だけでなく、六角柱の内部にも存在する方が安定な構造(稠密構造)となりますが、ここでは省略しています。

 この4つの指数のベースになる単位ベクトルは図28-4に示すように正六角形の底面の中心を原点とし、ここから3つの頂点に向かう 120°ずつ角度の違う3つのベクトル \(\mathbf{a}_1\)、\(\mathbf{a}_2\)、\(\mathbf{a}_3\) と底面と垂直な方向の 原点を始点とする\(c\) ベクトルです。

 結晶面の表し方は上記と同じで、この4つのベクトルが結晶面と交わる点の原点からの距離を \(p_1,p_2,p_3,p_c\) とすると、結晶面は \(\left (1/p_1,1/p_2,1/p_3,1/p_c \right )\) で表わされます。ただし、この場合は、上記立方晶などの場合と統一性がありませんが、もともと \(p_1,p_2,p_3,p_c\) は整数である必要はなく、したがってそれらの逆数も整数とは限りません。そこでこの場合も倍数をかけて最小の整数の組にしたものをミラー指数とします。

 なお、\[\mathbf{a}_1 +\mathbf{a}_2 +\mathbf{a}_3 =0\]の関係がありますから、この3つのベクトルは独立ではありません。このため、六方晶といっても3つのベクトル、3つの指数で表すことは可能です。なぜわざわざ4つの指数を使うようになったかの理由は、指数の違う結晶面が等価であるか否かがすぐわかるからです。

 いくつかの結晶面のミラー指数の例を併せて図28-4に示します。これも慣例ですが、六角形の底面の結晶面をc面、これに垂直な結晶軸をc軸と呼びます。c面のミラー指数は(0001)です。この他にも a 面とかm面とか名前の付いた結晶面があります。例えば水色で示したa面は \(\mathbf{a}_1\) と \(p_1=-1/2\) で交わり、 \(\mathbf{a}_2\) と \(\mathbf{a}_3\) とは \(p_2=p_3=1\) でそれぞれ交わっています。また \(\mathbf{c}\) とは平行です。したがって a 面のミラー指数は(-2110)であることが分かりますが、ちょうど反対側に当たる(2110)面も等価な a 面です。さらに(1210)、(1120)等々いずれも等価な a 面です。このように4つの指数を使うと等価面が指数の組み合わせからすぐにわかります。

 a 面やm面はいずれも c軸に平行な面ですから4番目の指数は 0 ですが、c軸に対して傾斜した面ももちろん存在します。この場合は c軸との交点が存在するので4番目の指数が 0 でなくなります。図のピンク色の面はその一例で(2-1-12)面です。