科学・基礎/半導体物理学
28.3次元バンド理論3次元の周期ポテンシャル \(V\left (\mathbf{r} \right )\) は25項で説明した通り、フーリエ級数に展開できます。これをつぎのように書きます。 \[V\left ( \mathbf{r} \right )= \sum_{\mathbf{K}} V\left ( \mathbf{K} \right )\mathrm{e}^{i\mathbf{K}\cdot \mathbf{r}}\tag{1}\] ポテンシャルの周期条件は、格子ベクトル \(\mathbf{R}\) を使って \[V\left ( \mathbf{r}+\mathbf{R} \right )= V\left ( \mathbf{r} \right )\tag{2}\] と表されます。ただし、\[\mathbf{R}=n_1\mathbf{a}_1+n_2\mathbf{a}_2+n_3\mathbf{a}_3\] で、\(\mathbf{a}_1\)、\(\mathbf{a}_2\)、\(\mathbf{a}_3\) は基本格子ベクトル、\(n_1,n_2,n_3\) は正負の整数です。この格子ベクトルについては[結晶の話」10項を参照して下さい。
つぎに(2)式を(1)式に代入すると \[\mathrm{e}^{i\mathbf{K}\cdot \mathbf{R}}= \exp {\left ( in_{1}\mathbf{K}\cdot \mathbf{a}_{1} +in_{2}\mathbf{K}\cdot \mathbf{a}_{2} +in_{3}\mathbf{K}\cdot \mathbf{a}_{3}\right )}= 1\] が満たされなければならないことがわかります。オイラーの公式を用いれば \[\begin{align}\mathbf{K}\cdot \mathbf{a}_{1} &= 2\pi m_{1} \\ \mathbf{K}\cdot \mathbf{a}_{2} &= 2\pi m_{2} \\ \mathbf{K}\cdot \mathbf{a}_{3} &= 2\pi m_{3}\end{align}\] の関係が得られます。ここで \(m_{1},m_{2},m_{3}\) も正負の整数です。
ここで\[\mathbf{K}=m_1\mathbf{b}_1+m_2\mathbf{b}_2+m_3\mathbf{b}_3\]と表されるベクトル \(\mathbf{b}_{1},\mathbf{b}_{2},\mathbf{b}_{3},\) を考え、
\[\begin{align} \mathbf{b}_{1} &= 2\pi\frac{\mathbf{a}_{2}\times\mathbf{a}_{3}}{V} \\ \mathbf{b}_{2} &= 2\pi\frac{\mathbf{a}_{3}\times\mathbf{a}_{1}}{V} \\ \mathbf{b}_{3} &= 2\pi\frac{\mathbf{a}_{1}\times\mathbf{a}_{2}}{V}\end{align}\]
と置きます。ここで \(\times\) はベクトルの外積(ベクトル積)を示します。また、\(V\) は結晶の最小単位(単位胞)の体積で、\[V=\mathbf{a}_{1}\cdot\left (\mathbf{a}_{2}\times\mathbf{a}_{3}\right )\]と表されます。このとき、\[\mathbf{a}_i\cdot\mathbf{b}_j=2\pi\delta_{ij}~~~~\left (i,j=1,2,3\right )\]が成り立ちます。ここで \(\delta_{ij}\) はクロネッカーの記号と呼ばれ、\[\begin{align}\delta_{ij} &= 0~~~\left (i\ne j\right) \\ \delta_{ij} &= 1~~~\left (i=j\right)\end{align}\] の意味をもっています。これより
\[\begin{align} \mathbf{K}\cdot\mathbf{R} &= \left ( m_{1}\mathbf{b}_{1}+m_{2}\mathbf{b}_{2}+m_{3}\mathbf{b}_{3}\right) \cdot\left ( n_{1}\mathbf{a}_{1}+n_{2}\mathbf{a}_{2}+n_{3}\mathbf{a}_{3}\right) \\&= 2\pi n\tag{3}\end{align}\]
が得られます。\(n\) は整数です。すなわち、逆格子ベクトルと格子ベクトルの内積(スカラー積)は \(2\pi\)の整数倍になります。この \(\mathbf{K}\) を逆格子ベクトルと呼び、ベクトル \(\mathbf{b}_{1},\mathbf{b}_{2},\mathbf{b}_{3},\) を逆格子空間の基本ベクトルと呼んでいます。この逆格子ベクトル、逆格子空間についてはその意味について次項でもう少し説明します。
さて、ポテンシャルエネルギーの影響が小さく自由電子に近いモデルでの3次元のバンド理論は、26項で説明した1次元の理論とほとんど同じ考え方で展開できます。
周期ポテンシャルのフーリエ展開は(1)式に示す通りですが、波動関数も同様に展開されます。 \[\psi _{\mathbf{k}}\left ( \mathbf{r} \right )= \sum_{\mathbf{K}}A\left ( \mathbf{K} \right )\mathrm{e}^{i\left ( \mathbf{k}+\mathbf{K} \right )\cdot \mathbf{r}}\tag{4}\]
ここで \(\mathbf{k}\) は波数ベクトルです。
(1)、(4)式を一電子モデルの波動方程式 \[\left [ -\frac{\hbar^{2}}{2m} \Delta +V\left ( \mathbf{r} \right )\right ]\psi \left ( \mathbf{r} \right )= E\psi \left ( \mathbf{r} \right )\tag{5}\] に代入します。ただし \(\Delta\) はxyz座標なら \[\Delta = \frac{\partial^2 }{\partial x^2}+\frac{\partial^2 }{\partial y^2}+\frac{\partial^2 }{\partial z^2}\] です。
シュレディンガー方程式は \[\sum_{\mathbf{K}}\left [ \frac{\hbar^{2}}{2m}\left ( \mathbf{k}+\mathbf{K} \right )^{2} -E + V\left ( \mathbf{r} \right )\right ]A\left ( \mathbf{K} \right )\exp \left \{ i\left ( \mathbf{k} + \mathbf{K} \right )\cdot \mathbf{\mathbf{r}} \right \}= 0\tag{6}\] となります。以下、途中の式展開は省略しますが、1次元のときとほとんど同様にして \[A\left ( \mathbf{K} \right )= \frac{2m}{\hbar^{2}}\frac{-V\left ( \mathbf{K} \right )}{\left ( \mathbf{k + \mathbf{K}}\right )^{2}-\mathbf{k}^{2}}\tag{7}\] が得られます。ここで分母\(\rightarrow 0\)、すなわち \[\left ( \mathbf{k}+\mathbf{K} \right )^{2}\rightarrow \mathbf{k}^{2}\] のとき、\(A\left ( \mathbf{K}\right )\) は大きくなることを考慮すると、1次元の場合と同様にエネルギー固有値 \(E_{0}\left ( \mathbf{k}\right )\) は \[\begin{align} E\left ( \mathbf{k} \right ) &= \frac{1}{2}\left [ E_{0} \left ( \mathbf{k} \right )+E_{0}\left ( \mathbf{k} +\mathbf{K}\right )\right ] \\ &\pm \frac{1}{2}\left [\left \{ E_{0}\left ( \mathbf{k} \right )-E_{0}\left ( \mathbf{k}+\mathbf{K} \right ) \right \}^{2}+4\left | V\left ( \mathbf{K} \right ) \right |^{2} \right ]^{\frac{1}{2}}\tag{8}\end{align}\] の関係を満たします。この式の形も1次元の場合と同じですから \[\left ( \mathbf{k}+\mathbf{K} \right )^{2}= \mathbf{k}^{2}\tag{9}\] のとき、\(E\) にはギャップが生じます。
(9)式の関係の意味については次項でさらに触れることにします。