科学・基礎/半導体物理学
17.シュレディンガー方程式さて、前項までに紹介したことを前提に量子力学の基礎方程式であるシュレディンガー方程式を導きます。と言いますが、この方程式は数学的にどこかから導かれるというよりは、仮定に基づいて作られた方程式と言えます。シュレディンガー\( ( \rm{Erwin}\ \rm{Schr}\ddot{o}\rm{dinger} )\)はオーストリア出身の物理学者で、1926年に量子力学の基礎となる波動力学を提示しました。
まず前項で導出した波動方程式はつぎの通りです。 \[\Psi = A\rm{e}^{i\left ( kx+\omega t\right )}\tag{1}\] これを \(x\) で偏微分します。
偏微分というのは高校の数学には出てこないのですが、とくに難しいことはありません。\(f\left (x,t\right)\) のように複数の変数に依存する関数を \(x\) で微分するとき、一般的には \(x\) によって \(t\) が変化するので、\(x\) と \(t\) の関係を考慮しなければなりません。これに対して \(x\) による偏微分は関数 \(f\) の変数は \(x\) のみとみなして微分することです。この場合、普通の微分のことを常微分といい区別することがあります。記号も常微分の \[\frac{\mathrm{d} }{\mathrm{d} x}\] と区別するため、 \[\frac{\partial }{\partial x}\] と書きます。
さて(1)式を \(x\) で偏微分すると \[\frac{\partial \Psi }{\partial x}= ikA\mathrm{e}^{i\left ( kx+\omega t\right )}= ik\Psi\tag{2}\] となります。指数関数 \(\mathrm{e}^x\) の \(x\) に関する微分は複素数であっても実数の場合と同じで関数の形が変わらないのが特徴です。
ここで(2)式をもう一度 \(x\) で偏微分します。これでも関数の形は変わりません。係数が今度は実数の \(-k^{2}\) となります。 \[\frac{\partial^2 \Psi }{\partial x^2}= -k^{2}\Psi\tag{3}\]
古典力学の運動エネルギー \(T\) は \[T= \frac{1}{2}mv^{2}\] ですから、運動量 \(p\) についての \[p= mv\] の関係を使うと、\(T\) は \[T= \frac{p^{2}}{2m}\] とも書けます。ここでこの運動量 \(p\) に量子論で得られた関係 \[p= \hbar k\] を代入します。すると \[T= \frac{\hbar^{2}k^{2}}{2m}\tag{4}\] の関係が得られます。古典力学の式にこのような代入をしてもよいのかどうか、この辺りが非常に大胆な仮定による理論の進め方です。
(4)式右辺には \( k^{2}\) がありますから、この関係を(3)式に入れて整理すると \[-\frac{\hbar^{2}}{2m}\frac{\partial^2 }{\partial x^2}\Psi = T\Psi\tag{5}\] が得られます。
一方、全エネルギー \(E\) は古典力学において運動エネルギー \(T\) とポテンシャルエネルギー \(V\) の和ですから \[E= T+V \tag{6}\] です。ここでポテンシャルエネルギーとは、位置エネルギーが一例です。地上の重力のもとでの位置エネルギーは地表からの高さが高いほど大きくなります。プラスとマイナスの電荷が引き合う力によってもポテンシャルエネルギーが発生します。
この(6)式の関係を使って(5)式を書き直すと \[-\frac{\hbar^{2}}{2m}\frac{\partial^2 }{\partial x^2}\Psi+V\Psi = E\Psi\tag{7}\] となります。これが時間に依存しないシュレディンガー方程式です。(1)式のように \(\Psi\) のなかには時間の項 \(\mathrm{e}^{\omega t}\) が入っているのですが、(7)式をみればわかるようにこの項は両辺に入っていますから、両辺を \(\mathrm{e}^{\omega t}\) で割ってしまえば時間に依存する項はなくなります。
時間に依存する式は上式を時間 \(t\) で偏微分することによって同様に得られます。 \[\frac{\partial \Psi }{\partial t}= i\omega \Psi\tag{8}\] エネルギー \(E\) についての量子論の式は \[E= \hbar\omega\] でしたから、これを(8)式に入れて \[i\hbar\frac{\partial \Psi }{\partial t}= -E\Psi\] となります。
(6)式の関係を使って(7)式と同様な式を書けば \[-\frac{\hbar^{2}}{2m}\frac{\partial^2 }{\partial x^2}\Psi +V\Psi = -i\hbar\frac{\partial }{\partial t}\Psi\tag{9}\] となります。これが時間に依存するシュレディンガー方程式で(7)式の場合と同じように \(\Psi\) のなかの \(\mathrm{e}^{kx}\) は両辺から消すことができます。
以上のように波動関数の微分に古典力学と量子論から得られた関係を使えば、シュレディンガー方程式に行き着くことはできます。しかしこれが何を意味するのか、どんな現象を表しているのか、などはこれだけではまったくわからないと思います。つぎのステップではこの方程式が半導体にどのように適用されるのかを勉強したいと思います。