科学・基礎/半導体物理学
16.波動を表す数式

 前項でも言いましたが、波動といえば正弦波(サイン波)が代表的です。これは式で表せば \(\sin \theta\) で、グラフに描けば図16-1のようになります。ここでいう \(\theta\)、つまり横軸は何なのでしょうか。また縦軸 \(\sin \theta\) の値は何を意味するのでしょうか。物理ではそれがはっきりしていないといけません。

 波の例として池の水面に小石を落としたときに起きる波を考えましょう。この場合、水面の波は、図16-2のように石を落とした位置から同心円状に次第に広がっていきます。波が広がる同心円の半径方向(例えば図の \(x\) 方向)に水面の形を見るとこれは正弦波状になっているでしょう。つまりこの場合、\(\theta\) は距離(位置) \(x\) で、水面の高さを \(\Psi \left ( x \right )\) とすると、    \[\Psi \left ( x \right )= A\rm{e}^{ikx}\tag{1}\] と表されます。\(A\) と \(k\) は後で説明しますが、実数の定数です。

 この式は前項のオイラーの公式によって表したものですが、この波が図16-3のようなものであれば、虚数部をとって    \[\Psi \left ( x \right )= A \sin \left ( kx \right )\] となります。

 もう一つの見方として、波が通っていく水面の1点をじっとみているとどんな変化が見られるでしょうか。時間が経過するとともに水面が上下しているはずです。上記の \(x\) に対する場合より眼で観察しても分かりにくいでしょうが、時間 \(t\) に対しても水面は正弦波状に上下に動いているはずです。つまりこの場合、\(\theta\) は時間 \(t\) で、水面の高さを \(\Psi \left ( t \right )\) とすると、    \[\Psi \left ( t \right )= A\rm {e}^{i\omega t}\tag{2}\] と表されます。\(\omega\) も実数です。この場合、図16-4のような波形とすると、虚数部をとって表せます。

 このように波は位置に対しても、時間に対しても変化していますから、両方を見なければいけません。そこで上式を掛け合わせて    \[\Psi \left ( x,t \right )= A\rm{e}^{i\left ( kx+\omega t+\delta \right )}\tag{3}\] と表します。このような形になっても虚数部をとれば、三角関数で波の形が表せるのがオイラーの公式のすばらしいところです。

 さて \(k\) ですが、これは物理的には波数と言われ、図16-3に示した波長 \(\lambda\) と次のような関係があります。    \[k= \frac{2\pi }{\lambda }\]

 \(\sin \theta\) の周期は図16-1のように \( 2\pi\) (ラジアン)ですが、実際の波の周期は波長 \(\lambda\) です。そこで \(x= \lambda\) のとき \(2\pi\) となるようにしているわけです。

 \(\omega\) は角周波数と呼ばれますが、これも同じで、時間的な周期 \(T\) も \(2\pi\) ではないので、\(\omega\) をかけています。角周波数 \(\omega\)、周期 \(T\)、またその逆数の通常の振動数(周波数) \(\nu\) とはつぎのような関係にあります。    \[\omega = \frac{2\pi}{T}= 2\pi\nu\]

 (3)式の \(A\) は振幅です。図16-1のように sin は +1 と -1 の間の値しか取りませんが、実際の波の最大値、最小値はもちろんいつも 1 ではありません。そこで \(A\) という常数をかけて対処します。

 また(3)式の \(\delta\) は位相です。実際の波は必ずしも \(x=0\)、\(t=0\) で 0 であるわけではないので、\(\delta\) という定数を入れてそれを表します。

 また、位置と時間に対して位相がちょうど \(\pi\) ずれているような場合は指数部分を    \[kx-\omega t\] とすればそれを表せます。共役複素数の虚数部は符号が反対であることを利用した表現です。

 以上が波動を表す式の基本ですが、これから扱う電磁波の場合などでは位置を3次元で表す必要がある場合があります。この場合は位置をベクトルを使って表すことができます。単に \(x\) をベクトル \(\textbf{r}\) で置き換えればよいので、式としては同じ形になります。    \[\Psi \left ( \textbf{r},t \right ) = A\rm{e}^{k\textbf{r}+\omega t+\delta}\]

 最後に物体の運動と正弦波の関係に触れておきます。ここまでの説明では正弦波がどこから出てきたのかについては何も説明していません。この不思議な波の形はどこからきたのでしょうか。

 図16-5の左側は点Pが半径1の円周に沿って一定の速度で運動している様子を示しています。例えば、位置Aを出発点に点Pが円周上をぐるぐると回ることを考えます。このときPのAと円の中心Oを結ぶ直線からの距離yの時間変化は図の右側のように波型になるのがわかると思います。

 もう少し細かくみると、Pが円周上を一定速度で移動することは直線POとAOがなす角度 \(\theta\) が時間 \(t\) に比例して変化することを意味しますから、   \[\theta=\omega t\] の関係があります。比例定数 \(\omega\) は上記と同じ角周波数に相当します。一方、点Pの直線AOからの距離 \(y\) (=PQの長さ)は三角形PQOが頂点Qを直角とする直角三角形ですから、   \[y=\sin \left ( \omega t\right)\]

 ここにまさに正弦波が出てきます。点PがA→B→C→D→Aと一周すると、\(\theta = \omega t\) は0°→90°( \(\pi /2\) ラジアン)→180°( \(\pi\) )→270°( \(3\pi/2\) )→360°( \(2\pi \) )と変化し、\(y\) の値は0→1→0→-1→0と正弦波にしたがって変化します。時間 \(t\) がさらに経過すると、Pは2周目に入りますが、\(y\) の値の変化は1周目と同じです。これを式で表すと、\(n\) 周目のとき   \[y=\sin \left ( \omega t-2\left ( n-1 \right) \pi \right) \]

と表せます。また、スタートがA点でない場合は位相 \(\delta\) を加えて   \[y=\sin \left ( \omega t+\delta-2\left ( n-1 \right) \pi \right) \]と表します。

 以上より正弦波は円運動から出てきていることがわかります。周回経路は円でなく楕円とか任意の閉曲線とすることができ、それによって特異な波動が生まれることがわかります。