科学・基礎/半導体物理学

12.ホール効果

 ホール(Hall)効果については3項で触れ、半導体中の \(\mathrm{p}\) 型と \(\mathrm{n}\) 型の見分け方として有用であることを説明しました。ここではさらにホール係数を古典電子論を使って表現することを試みます。

 ホール効果は図12-1のように試料に \(x\) 方向に電流 \(J_{x}\) が流れている状態で、\(z\) 方向に磁界 \(H_{z}\) をかけると、\(y\) 方向に電界 \(E_{y}\) が生じるという効果ですが、電界 \(E_{y}\) は    \[E_{y}= RH_{z}J_{x}\tag{1}\] のように \(J_{x}\) と \(H_{z}\) の積に比例するということがHallの実験により見いだされています。ここで \(R\) をホール係数と呼んでいます。

 電荷 \(q\) をもつ1個 (\(i\) 番目)の荷電粒子に電界と磁界がはたらくとき、はたらく力 \(\mathbf{F_{i}}\) はローレンツ力と呼ばれ、つぎのように表されます。    \[\mathbf{F_{i}}= q\mathbf{E}+\frac{q}{c}\mathbf{v_{i}}\times \mathbf{H}\tag{2}\] ここで太字はベクトルを表し、力 \(\mathbf{F_{i}}\)、電界 \(\mathbf{E}\)、速度 \(\mathbf{v_{i}}\)、磁界 \(\mathbf{H}\) はその方向を含めて考えなければいけません。\(\times\) はベクトルの「外積」を表し、内積と違ってこれはベクトルです。

 ベクトル \(\mathbf{a}\times \mathbf{b}\) の大きさは、ベクトル \(\mathbf{a}\) と \(\mathbf{b}\) がなす角を \(\theta\) として    \[\left | \mathbf{a} \right |\left | \mathbf{b} \right |\sin \theta\] で、方向は \(\mathbf{a}\) と \(\mathbf{b}\) が作る面に垂直です。ただし \(\mathbf{a}\) を右手人差指の方向、\(\mathbf{b}\) をそれと直角方向にした中指の方向とすると、\(\mathbf{a}\times \mathbf{b}\) は親指の方向を正とすると決められています。

 このローレンツ力を運動方程式    \[m\frac{\mathrm{d}\overline{\mathbf{v}} }{\mathrm{d} t}= \mathbf{F}-m\frac{\overline{\mathbf{v}}}{\tau }\] に代入すると、多数の粒子の平均速度 \( \overline{\mathbf{v}}\) についての運動方程式は    \[m\frac{\mathrm{d} \overline{\mathbf{v}}}{\mathrm{d} t}+\frac{m}{\tau }= q\mathbf{E}+\frac{q}{c}\overline{\mathbf{v}}\times \mathbf{H}\tag{3}\] となります。

 ホール効果は定常状態での現象ですから、    \[\frac{\mathrm{d} \overline{\mathbf{v}}}{\mathrm{d} t}= 0\] とします。電流は \(x\) 方向にだけ流れていますから、\(\overline{\mathbf{v}}\) は \(x\) 成分のみです。また上図の通り、磁界は \(z\) 方向です。これらを考えて、上式を \(x\)、\(y\) 方向成分に分解して書くと、    \[\begin{align}\frac{m}{\tau }\overline{v_{x}} &= qE_{x}+\frac{q}{c}\overline{v_{y}}H_{z}= qE_{x}\tag{4} \\   \frac{m}{\tau }\overline{v_{y}} &= 0= qE_{y}-\frac{q}{c}\overline{v_{x}}H_{z}\tag{5}\end{align}\] となります。磁界による力は上記外積の定義から \(-y\) 方向にはたらくことが分かります。(5)式を書き直すと    \[E_{y}= \frac{\overline{v_{x}}}{c}H_{z}\] ですが、これに電流を表す式    \[J_{x}= qn\overline{v_{x}}\tag{6}\] を使うと、     \[E_{y }= \frac{J_{x} H_{z}}{qnc}\] となります。これを(1)式と比較すると、ホール係数 \(R\) は    \[R= \frac{E_{y}}{J_{x}H_{z}}= \frac{1}{qnc}\tag{7}\] と書けることが分かります。

 (7)式の第1の特徴は 「\(R\) の符号は荷電粒子の電荷 \(q\) の符号によって変わること」 です。\(R\) の符号を実験から知れば、荷電粒子の電荷の符号を知ることができます。別のところですでに説明したように、これによって半導体の伝導型を判定することができます。

 (7)式の第2の特徴は 「\(R\) の大きさは荷電粒子の濃度 \(n\) に逆比例すること」 です。電荷が電子とすれば、\(q\) の値は既知なので、キャリア濃度 \(n\) を求めることができます。

 一方、(6)式に(4)式の関係を用いると、次式のようになります。    \[J_{x}= qn\overline{v_{x}}= qn\frac{m}{\tau }qE_{x}\]    \[n\left ( \frac{q^{2}\tau }{m} \right )E_{x}= \sigma E_{x}\tag{8}\] つまりこれはオームの法則です。

(7)式から \(n\) が求められるので、(8)式から得られる導電率 \(\sigma\) を求めれば、移動度 \(\mu\) が    \[\mu = \frac{q\tau }{m}= \frac{\sigma }{qn}\] より求められます。このようにホール効果の測定は半導体の基本的な特性を評価するために非常に重要です。

 

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