科学・基礎/半導体物理学

8.固体中の電子の運動とオームの法則

 古典電子論によって説明できる現象の例としてまずオーム(Ohm)の法則を取り上げます。オームの法則とは抵抗値 \(R\) の抵抗器に電流 \(I\) を流すと、抵抗器の両端の電圧 \(V\) は    \[V= RI\tag{1}\] という関係になるというものです。これは横軸に電圧、縦軸に電流をとってグラフに描くと、図8-1のように電圧と電流の関係は直線になり、その傾きは抵抗値 \(R\) の逆数 \(1/R\) になることを示します。

 (1)式は電気回路の計算をするときに基礎の基礎となる関係ですが、もう少し、物質の性質としての言い方にすると、「ある物体に電流が流れているとき、その物体中の2点間の電位差は流れている電流に比例する」ということになります。

 さらに「物体に単位断面積当りの電流(電流密度と言います) \(J\) が流れているとき、物体中の単位長さ離れた2点間に電位差(電界と言います) \(E\) が発生しているとすると、\(J\) と \(E\) の間に    \[J= \sigma E \tag{2}\] の関係が成り立つ」という一般的な言い方ができます。ここで比例係数 \(\sigma \) を導電率または電気伝導率といい、その逆数を(電気)抵抗率と言うことは既に3項で述べた通りです。

 さてこのオームの法則ですが、前項のような1個の電子の真空中の運動では説明ができません。電子は電界によって加速されるだけで、物質によって違う「抵抗」という概念は説明ができません。

 古典電子論ではこの問題をつぎのように扱っています。まず各電子は電極に達するまで単に加速され続けるのではなく、途中で物質(固体)を構成している原子と衝突を繰り返すと考えます。図8-2は電界Eが矢印の方向にかかっているときの1個の電子の運動の軌跡をイメージで示したものです。線が折れ曲がっているところに原子がいて衝突によって電子が方向を変える様子を示しています。このように1つの電子も絶えず方向を変えているので、各電子の運動の方向はばらばらになります。

 電子は衝突と衝突の間は、電界によって加速されます。前項で示したように電子に作用する電界は電子の運動の方向と速度によって変わってきます。図では簡単化して直線運動のように描きましたが、正確には時々刻々方向が変わっていきます。しかし全体としてみれば電子は図のように電界の方向に運動します。

 このように一つ一つの電子の運動は方向も速度もばらばらですが、このような場合に、それをまとめて取り扱うには「平均」という考え方がよく使われます。一つ一つが何をしているか分からない、あるいはあまりに数が多過ぎていちいち計算するのは無理、というような場合に平均の値を使って計算すると全体の運動を知ることができます。

 電子が原子と衝突してから次の衝突が起きるまでの時間はまちまちですが、その平均値を \( 2\tau\) と置いています。これは図8-2の各衝突の間の時間は図8-3のように \( 2\tau\) より長かったり短かったりしますが、おしなべてみれば \( 2\tau\) とみなせるということです。

 ここで \(\tau\) を電子の平均寿命と言います。衝突の間の時間の半分になっているのはどういうことかというと、ある瞬間にある電子に注目すると、その電子は原子に衝突した直後の場合もあるし、直前の場合もあります。ですから平均するとつぎの衝突までの時間は \(\tau\) であるということになるわけです。

 さてこの \(\tau\) の時間の間に電子がどれだけ加速されるかというと、前項の(4)式です。    \[\bar{v} = \left ( -eE/m\right ) \tau \tag{3}\] となります。ここで \(\bar{v}\) は平均的な電子の速度です。ただし衝突直後の初速度は衝突前の速度に拘わらずゼロとしています。電子の電荷にマイナス符号を前項では付けていませんでしたが、負の電荷をはっきり示すために今後は付けることにします。\(e\) は電子の電荷量の絶対値でマイナス符号はそれが負電荷であることを示します。

 さて \(n\) 個の電子が平均速度 \(\bar{v}\) で動くとき、外部回路にどんな電流が流れるでしょうか。電流は電荷の量×移動速度で定義されますから    \[J= \left ( -e\right ) n \bar{v}\tag{4}\] と表されます。\(\bar{v}\) に(3)式の結果を代入すると、    \[J= \left ( ne^{2} \tau /m\right )E\tag{5}\] となります。かっこ内は \(J\) にも \(E\) にもよらない定数ですから、(4)式はオームの法則の比例関係を示していることがわかります。

 ここで上記定数が導電率に相当するので、 導電率 \(\sigma\) は    \[\sigma = ne^{2}\tau /m \tag{6}\] となります。導電率は \(n\) だけでなく、\(\tau\) にもよっていることがわかります。

 なお、(3)式をつぎのように書き直すことができますが、    \[\bar{v}= \mu E\tag{7}\] この \(\mu\) は移動度と呼ばれ、半導体ではよく使われる量です。もちろん    \[\mu= \left ( -e \right )\tau/m \tag{8}\] です。

 

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