科学・基礎/半導体物理学

2.半導体とはどんな物質か

 「半導体」とは何か、という問いにはどう答えたらいいでしょうか。  半導体の特徴付けるもっとも重要な性質は電気の伝わり方、電気伝導です。「半導体」でない物質と言えば2種類あって、一つは「導体」、もう一つは「不導体」です。ただし「不導体」という語はあまり使わず、「絶縁体」という方が普通です。この分け方はまさに電気伝導の起こりやすさによっています。

 「どんな物質が半導体であるのか?」という問いに対して、「半導体とは導体と絶縁体の中間くらいの電気伝導が起きる物質である」という答えが出てきます。

 電気伝導の起こりやすさを数字で言うときには、電気伝導率という量が使われます。図2-1のように断面積 \(S\)、長さ \(L\) の物質に電圧 \(V\) をかけたとき、電流 \(I\) が流れますが、このとき図中の(1)式のような関係が成り立ち、係数 \(\sigma\)(シグマ)を電気伝導率と言います。

   \[\frac{L}{S}=\sigma\frac{V}{I}\tag{1}\]

 逆に電気伝導の起こり難さを示す量もあり、それは電気伝導率の逆数の電気抵抗率 \(\rho\)(ロー)という量が使われます。

   \[\rho=\frac{1}{\sigma}\tag{2}\]

 \(L=1\:\mathrm{m}\)、\(S=1\:\mathrm{m}^2\) の大きさの試料に \(V=1\,\mathrm{V}\) の電圧をかけたとき \(I=1\,\mathrm{A}\) の電流が流れたとすると、その試料の電気伝導率は \(\sigma=1\:\mathrm{Sm}^{-1}\) という単位で表されます。ここで \(\mathrm{S}\) はシーメンス(Siemensは人名です)と読みます。電気抵抗率はこの逆数の \(\rho=1\,\Omega m\) で表し、この \(\Omega\) はオーム(Ohmは人名です)と読みます。なお、以上は国際単位系で、実際の現場では従来から馴染みのある \(\Omega\mathrm{cm}\) が使われることが未だに多いです。また電気伝導率は \(\Omega^{-1}\mathrm{cm}^{-1}\) が使われることがあります。

 以上の電気抵抗率を使うと、導体の電気抵抗率は \(10^{-6} \Omega\mathrm{cm}\) 程度、絶縁体は\(10^{14}~10^{22}\Omega\mathrm{cm}\) 程度の範囲であり、半導体はこの中間の室温で \(10^{-2}~10^{9} \Omega\mathrm{cm}\) の範囲をもつとされます(1)

  導体と半導体の電気伝導の大きさの違いは大体上記の通りですが、これ以外に性質にもはっきりした違いがあります。それは温度を変えたときどう変わるかという性質(温度依存性といいます)です。導体の代表、金属の電気抵抗率は温度が上がると図2-2のように大きくなります。金属は温度が高いほど電気を通し難くなるということです。といっても変化は温度に対して直線的((3)式)で、高温になると絶縁体になってしまうというようなことはありません。

   \[\rho=\rho_{0}\left(1+\beta T \right )\tag{3}\]

 しかし半導体は逆に温度が上がると電気抵抗率が小さくなり、電気を通しやすくなります。しかもその変化は急激で僅かな温度変化で電気抵抗は大きく変わります。この電気抵抗率 \(\rho\) と温度 \(T\) の関係は図2-3のように縦軸に \(\log\rho\)、横軸に \(1/T\) をとってプロットすると直線になる場合が多いのです。

 これはどういうことを意味するかというと電気抵抗率 \(\rho\) が \(\exp \left( A/T\right )\) に比例しているということで、この関係は自然現象にはよくあります。そのため温度に対して急に変わるような現象が見つかったときは、電気抵抗に限らず図2-3のような目盛りでプロットして直線になるかどうか確かめることがよく行われます。半導体の電気抵抗の逆数、\(1/\rho\) について(4)式のような関係式が成り立ちます。   \[\frac{1}{\rho}=\frac{1}{\rho_{0}}\exp \left( -\frac{b}{T}\right)\tag{4}\]

 以上のように電気伝導の温度依存性は導体と半導体で正反対ですから、これは区別するのにわかりやすい性質です。なぜそうなるのかは解明しなければならないテーマですが、それは後で取り上げます。

 なお、このような半導体の電気抵抗率の温度依存性はいつごろからわかっていたかというと、これはかなり早い時期で、イギリスの化学者マイケル・ファラデー(Michael Faraday)が1839年の著書のなかで指摘したのが最初とされています(2)。硫化銀の試料で温度を上げると電流が増加することが示されています。

(1)C. Kittel "Introduction to Solid State Physics, chap.8, John Wiley & Sons, Inc. 1953 邦訳「固体物理学入門」丸善

(2)M.Faraday, "Experimental Research in Electricity" 1839(電子書籍で入手可能)  邦訳「電気学実験研究」1948, 岩波書店(絶版)

 

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