産業/信頼性

2.故障と寿命

 この項は「発光ダイオード」の24項と重複する部分がありますが、半導体デバイス一般を対象に改めて説明をしたいと思います。半導体デバイスがこれだけ多く使われるようになったのは、もちろん小さいこともありますが、何と言っても故障が少なく寿命が長いことがあると思われます。

 例えばかつてトランジスタは真空管を置き換えたのですが、その重要な理由は寿命の長さにあったと言えます。現在の原理で動作する電子計算機(コンピュータ)はトランジスタの発明よりも前に発明され、最初期には真空管をスイッチング素子として使って組み立てられました。しかし真空管は寿命が短く、1本が壊れて交換するとすぐ別の1本が壊れるといった具合で装置全体が正常に動作している時間は短かったそうです。寿命の長いトランジスタへの置き換えは必須だったと言えます。

 また発光ダイオード(LED)は白熱電球を置き換えました。これも寿命の違いに理由があったと言えます。1個当たりの値段は同程度の明るさの白熱電球に比べてLED電球の方がかなり高価なのですが、寿命が圧倒的に長く、長期的なコストを考えれば十分に見合うと考えられたことが置き換えの大きな理由になったと思われます。LED電球の場合は同程度の明るさの白熱電球より消費電力が小さいことも優れた特徴ですが、置き換えを促したのはやはり寿命の差であったと思われます。

 真空管も白熱電球も故障の主な原因は加熱したフィラメントの溶断です。どちらも電気抵抗の高い金属に電流を流して発熱、発光させていますが、何らかの理由で局所的に電流の集中が起きると、これによってその部分の温度が上昇し溶断に至ります。

 一方半導体結晶は欠陥や不純物が少なければ、劣化する要因が少なく故障が発生しにくいと言えます。とはいえ電流を流して使用すれば、多かれ少なかれ温度は上昇しますので、僅かでも存在する欠陥や不純物が原因になって結晶の劣化が進み特性の劣化が起こると考えられますから、永久に故障が起きないわけではありません。

 LED電球の製品には寿命40000時間などと謳われています。点灯し放しで4年半ほどは壊れないことになります。普通の使い方なら10年くらいはもつということです。LED電球は白熱電球に比べれば高価ですが、この寿命の長さを考えれば十分割に合うということが言えます。

 ではこの寿命はどのようにして決められているのでしょうか。もちろん4年5年点灯し放しにしていつ壊れるかを調べればよいわけで、実行するのも不可能ではありません。

 しかしこの長い試験時間が終わらないうちに、技術開発によってより特性の優れた製品が出てくる可能性があります。そうなると試験結果が出る前に新製品が出てしまい、その寿命はどうかということになって、いつまで経っても試験が追いつかないことになりかねません。

 また寿命というのは我々人間をはじめ生物の寿命と同じように複雑な要因が絡み合っているので、個体の寿命は個々ばらばらです。したがって測定したからといって寿命が一つの値に定まることはありません。しかし確率的には故障が起こりやすい時期はある程度定められるでしょう。このように寿命は確率的な値と言えます。

 以下、このような確率的な寿命の表し方を紹介し、寿命を決める要因についても考えていきたいと思います。

平均寿命(MTTF)  まず寿命とは何かということですが、故障が発生するまでの平均時間と考え、これを「平均寿命」と言います。故障が発生するまでの時間を多数測定し、その平均値をとります。英語ではMean Time To Failure (略してMTTF)でまさに故障に至るまでの平均時間のことです。MTTFは故障が発生したらその製品はそれで使えなくなり捨ててしまう場合に使います。LED電球などはこれに当たります。LEDチップ自身の場合も同じです。

 これとちがって故障しても修理が効く製品があります。この場合は故障が発生したら修理し、つぎの故障が起こるまでの期間の平均値として「平均故障間隔」を使います。英語ではMean Time Between Failure (略してMTBF)と言います。

 製品の故障には図2-1に示すように3段階があると言われています。図の青色の曲線の形からバスタブ曲線と呼ばれています。バスタブとは、浴槽のことですが、日本式のではなく、洋式の浴槽に似た形のことです。横軸は時間、縦軸は故障率です。故障率の定義は後でしますが、ここでは故障が発生する程度といった意味で十分です。

初期故障  製品を使い始めてあまり時間が経たない間は故障が発生する可能性が高い期間です。この期間に起こる故障を「初期故障」と言います。

 製品を製造する場合、どんなにうまく作っても多数を作ると必ず不良品が発生します。その製品を世に出す場合、何らかのチェックを行って初めから不良品が出て行くのを防ぐのは当然です。しかしこのチェック時点では正常でも、何か不良原因を抱えているものを完全に取り除くことはできません。このような製品が使用開始後、短時間で故障する可能性がかなりあります。製品の保証期間はこの故障に対応するものです。

偶発故障  初期故障はしばらくの期間で発生し尽くし、故障の発生頻度は減少します。しかし故障発生の可能性は常にゼロになることはなく、一定程度何らかの原因で故障が発生します。これを「偶発故障」と呼んでいます。

摩耗故障  使用期間が長くなると、各部に疲労や摩耗が発生し、そのために次第に故障の発生頻度が再び増加します。半導体の場合は「摩耗」というより「劣化」という方がよいでしょうが、これを「摩耗故障」といいます。この摩耗故障により故障率の値に規定値を定め、その値まで故障率が上昇した時点までの時間を「有効寿命」または「耐用寿命」などと呼びます。LED電球の40000時間はこれに相当するものです。

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