光デバイス/太陽電池
51.太陽光発電システムの構成(その1)
太陽光発電システムの具体的構成の例で見ていきましょう。図51-1は前項より具体的に示した典型的なシステムのブロック図です(1)。
このシステムは太陽電池パネルで発電した電力を負荷で消費する目的で構成されていますが、余った電力はバッテリに蓄積でき、さらに商用電源系統側へ戻すころもできるようになっています。前項の図50-1でいう変換器をDC/DCコンバータとインバータとに機能で分けて示しています。
商用電源系統へ発電電力を戻すためには、太陽電池で発電される直流を交流に変換する必要があります。インバータはこの直流を交流に変える変換器です。
身近には蛍光灯に使われるものや、エアコンに使われるインバータなどがあります。いずれも商用電源とは違う交流を発生する役割を担っています。蛍光灯の場合はちらつきを減らすために商用電源の周波数(50または60Hz)を高く変更しています。エアコンの場合は、交流で動くモータを細かくコントロールするためにやはり周波数を変えるのに使われています。
インバータがどのような方法で直流を交流に変換しているのかを簡単に紹介しておきます。交流は電圧(または電流で考えてもよいですが、以下では電圧で話を進めます)が一定周期で変化している状態ですから、直流から交流への変換にはスイッチを使って直流電圧を周期的に断続させることが考えられます。しかし商用電源の交流は0を中心にプラスマイナスに電圧が振れるようになっているので、単なる電圧の断続ではこの状態は作れません。そこで考えられたのが、図51-2のように4つのスイッチを使って一定周期で出力電圧の極性を切り換える方法です。スイッチS1とS4をオン、S2とS3をオフにしたときと、S1とS4をオフ、S2とS3をオンにしたときでは、出力端子に現れる電圧の極性は逆になります。この4つのスイッチの切り替えをタイミングを合わせて制御すれば、右図のような0を中心にプラスマイナスに対称な電圧パルス波形が得られます。商用電源に合わせるためには、繰り返し周波数を50Hzまたは60Hzにします。
これでは矩形波の繰り返しになりますので、コイルLとコンデンサCを組み合わせたフィルタをつないで高い周波数成分をカットしてやれば、正弦波の出力が得られます。矩形波など正弦波と異なる波形の電源を機器に接続すると、加熱したり電磁波が発生したりするトラブルが起きますので、できるだけ正確な正弦波を発生することが必要です。
実際のインバータでは図51-3のようにスイッチにトランジスタTr1~Tr4を使用し、この各トランジスタのオンオフのタイミングと周期を別に設けた制御装置(コンピュータ)で制御します(2)。
一方、DC/DCコンバータというのは直流電圧を変更する変換器です。このDC/DCコンバータの役割はつぎのようなものです。太陽電池の出力の電流-電圧特性は入射光のパワーによって変わります。このため太陽電池につなぐ負荷抵抗を調節してもっとも大きなパワーが取り出せるようにした方がよいわけです。DC/DCコンバータの出力電圧が可変であれば、その出力電圧を調整して太陽電池からいつも最大の電力が取り出せるようにすることができます。また太陽電池の出力電圧と2次電池の充電電圧やインバータの入力電圧が異なっている場合には、その調整もできます。
直流電圧を変えるだけなら、抵抗を2個直列にしてその間の電圧を使えばいいではないかと思われがちですが、これは電流を流さない場合の話です。2つの抵抗の間から電流を取り出すということは、そこに小さな抵抗がつながったのと同じですから、電圧の配分はその新たにつながった抵抗の影響を受けて変わってしまいます。それを見込んで抵抗値を調節したとしても、変圧のための抵抗を流れる電流はまったく無駄な電力となってしまいます。DC/DCコンバータはこのような損失を発生しないように考えられた電圧変換器です。
電圧の変換として頭に浮かぶのは変圧器(トランス)です。しかしこれは電磁誘導を利用した交流の電圧変換ためのものです。しかしこれを直流の電圧変換に応用しようという考えもあります。まず直流を上記のインバータによって交流に変換します。これを変圧器に入れて必要な電圧に変換します。この交流を整流して直流に戻せば入力側の電圧と異なる直流電圧が得られます。具体的な回路例は図51-4のようなものです(3)。
DC/DCコンバータには上記とは異なる方式が複数あり、それぞれ特徴をもっています。それらの原理、回路については発光ダイオードの51~53項に詳述していますのでここでは繰り返しません。
さて図51-1に戻って、太陽電池で発電された電力は負荷で消費されます。電力に余りがあれば、その分は系統に戻す以外に二次電池(バッテリ)に蓄える場合もあります。これによって太陽電池の出力が負荷を動作させるのに足りなくなった場合には、バッテリからその不足分を補うことができます。
またインバータの制御装置などを動作させるのにも電源が必要です。独立型の場合は商用電源が使えないことを想定しなければならないので、これも太陽光発電分から供給する必要があります。このような場合にも電源はバッテリから供給することができます。
太陽電池は入射光パワーに対して10~20数%程度しか出力できないことはこれまで説明してきましたが、今回のシステムを使うと変換回路などを動かすための電力を賄う必要があり、変換回路も効率100%ではないため、負荷が使える電力はどんどん目減りします。このため、太陽電池そのものの高効率化だけでなく、周辺回路の省電力化も重要なことがわかります。
インバータというとデジタル回路では0→1と変わる信号を1→0の変化に反転させる回路のことです(例えば半導体集積回路の6項参照)。”invert”という英語を辞書で調べると、「反転する」という意味がありますから、インバータは反転器という意味です。
ところが電源回路でのインバータはこれとは別物です。商用電源は大多数の国で交流で供給されていますが、電子回路は直流電源で動作するので、交流から直流への変換は当たり前のように行われ、「整流」という言葉もあります。これに比べると直流から交流への変換はそれほど当たり前ではないので、逆に変換する(反転する)といえば直流から交流に変換することを意味するようになったようです。
(1)特開平6-266454号
(2)例えば特開平8-9557号
(3)特開平6-266454号