光デバイス/発光ダイオード

 

51.変圧回路(その1)

 電池を電源とする携帯機器が広く使われていますが、電池の電圧は1.5Vとか3Vとかに決まっていて、複数個使ってこれの整数倍の電圧を得ても、負荷となる素子の最適動作電圧に設定できるとは限りません。そこで直流電圧を変換する回路が必要になります。ここでいう変圧回路とは電源電圧を発光ダイオードの駆動に適した電圧に変換する回路のことです。

 電圧を電池の起電力より低い電圧に変換する(降圧する)なら簡単にできそうですが、高い電圧に変換する(昇圧する)必要がある場合もあります。このような電源電圧の降圧、昇圧を行う回路は直流電圧を変換するという意味で、DC-DCコンバータと呼ばれます。

 このDC-DCコンバータの回路方式にはいろいろなものがありますが、電圧の変換で大きな電力の損失が発生しては困ります。そこで多くは以下に紹介するようにコイルの電磁誘導を利用します。交流の場合、トランス(変圧器)を使うと、1次側と2次側の巻線比によって電圧を自由に上げ下げできますが、これもまさに電磁誘導を利用しています。同じように考えれば直流電圧を一旦交流に変換し、変圧器で電圧を変換したのち、再度整流して直流に戻すことが考えられます。しかし直流をわざわざ正弦波の交流に直さなくても変圧は可能です。

 DC-DCコンバータの説明に入る前に電磁誘導についておさらいをしておきます。電線(導線)に直流電流を流すと電線の周りに磁力線が生じて磁場が発生します。図51-1のように電線を巻いてコイルを作り、これに直流電流を流すとコイル内部には巻線のそれぞれから同じ方向に磁力線が発生します。このためコイル内部ではこれらの磁力線が重ね合わさって大きな磁場が発生することになります。

 ところで直流電源にコイルだけをつなぐと、コイルはただの導体としてしかはたらかず、回路はショート状態になってしまいます。ところが電流が変化する場合はコイルの両端に電圧が発生します。つまりコイルは抵抗器のようなはたらきをします。このとき発生する電圧Vは磁束φの変化で表されます。   \[V=-\frac{\mathrm{d}\phi }{\mathrm{d} t}\]

 これをファラデーの法則と呼んでいます。磁束の変化は電流 \(I\) の変化に比例するので、   \[V=-L\frac{\mathrm{d}I }{\mathrm{d} t}\] となります。比例定数 \(L\) をインダクタンスと呼びます。この式のマイナス記号は発生電圧が磁束の変化を妨げる方向に発生することを意味します。これをレンツの法則と呼びます。つまり電流が増加する場合、電圧は電流を減らす方向に発生します。

 さてここで図51-2のようにコイルと抵抗器が直列になった回路を考えます。スイッチをA→Bと切り換えて電圧 \(V_{0}\) を接続した瞬間 \(t=0\) からの時間変化を考えます。抵抗 \(R\) 両端の電圧は電流 \(I\) が変化しているいないにかかわらず、\(RI\) で表されますから   \[V_{0}-L\frac{\mathrm{d} I}{\mathrm{d} t}=RI\] という関係が成り立ちます。これは   \[\frac{\mathrm{d} I}{\mathrm{d} t}=-\frac{R}{L}\left ( I-\frac{V_{0}}{R} \right )\] という形の微分方程式ですが、解くことができます。   \[I'=I-\frac{V_{0}}{R}\] とおくと、微分方程式は   \[\frac{\mathrm{d} I'}{\mathrm{d} t}=-\frac{R}{L}I'\] となって、この解は   \[I'=I-\frac{V_{0}}{R}=A\exp \left ( -\frac{R}{L}t \right )\] です。スイッチを入れた瞬間 \(\left( t=0 \right )\) の電流はゼロですから   \[A=-\frac{V_{0}}{R}\] であり、   \[I=\frac{V_{0}}{R}\left [ 1-\exp \left ( -\frac{R}{L}t \right ) \right ]\] となります。電流は0から \(V_{0}/R\) に向かってゆっくり上昇することがわかります。

 また \(t=0 \) でのコイル両端の電圧は   \[V\left ( t=0 \right )=L\left ( \frac{\mathrm{d} I}{\mathrm{d} t} \right )_{t=0}=V_{0}\] であり、電源電圧がすべてコイルにかかります。その後、時間とともにこの電圧は減少し最終的には0になり、電源電圧はすべて抵抗器にかかることになります。

 電流が定常値に達した後、スイッチをAの位置に戻し電圧を \(V_{0}\) から0に切り換えると   \[\frac{\mathrm{d} I}{\mathrm{d} t}=-\frac{R}{L}I\] が成り立ちます。これは上式と同じ形ですから、解は   \[I=B\exp \left ( -\frac{R}{L}t \right )\] となり、スイッチを切り換えた瞬間を改めて \(t=0\) とし、\(t=0\) で \(I=V_{0}/R\)とすると   \[I=\frac{V_{0}}{R}\exp \left ( -\frac{R}{L}t \right )\] となります。電流はゆっくり0に戻ることになります。以上の電流の時間変化をグラフで示すと図51-3のようになります。

 ここで電力(エネルギー)について考えておくと、電力 \(P\) は   \[P=IV=IL\frac{\mathrm{d}I }{\mathrm{d} t}\] です。上式は   \[P=\frac{\mathrm{d} }{\mathrm{d} t}\left (\frac{1}{2}LI^{2}\right)\] のように変形できるので、これを電流が定常値に達するまでの時間で積分すると、それまでに電源がする仕事量 \(W\) は   \[W=\int Pdt=\frac{1}{2}LI^{2}\] となり、これがコイルに蓄積されるエネルギーということになります。

 ここで重要なことは、電源を0に戻した後も電流が流れ続けることです。これは上記の蓄積されたエネルギーが放出されるのに時間を要するためです。抵抗器のみの回路ではこのようなことは起こらず、電源電圧が0になると電流も直ちに0となります。

 以下は次項に続きます。