光デバイス/発光ダイオード
50.輝度調整回路
発光ダイオードの駆動回路では、電流制限抵抗を変化すれば、発光ダイオードに流れる電流を変化させることができ、発光ダイオードの発光強度(輝度)が変えられます。そう考えると改めて輝度調整のための回路は不要なように思われます。
しかし電流制限抵抗を変える方法では輝度を小さくするには、電流制限抵抗を大きくしなければなりません。そうすると回路全体で消費される電力は一定で、発光に使われるエネルギーが減る分、抵抗で消費される無駄なエネルギーが増えることになります。これはあまり得策でなく、発光強度が小さくなったときは消費エネルギーも低下するようにすることが望ましいと言えます。
そのようなはたらきをもつのがパルス幅変調(Pulse Width Modulation, PWM)です。PWMの原理はつぎのようなものです。発光ダイオードに直流電流を流す代わりに前項まで説明してきたようにパルスで駆動します。発光ダイオードはパルス電流の波形に従ってオンオフします。パルスがゆっくりした繰り返しであれば、発光したりしなかったりし、ちらつきが感じられます。しかしパルスの繰り返しが十分に早ければ前項でも触れたように残像により人間の眼にはちらつきが感じられず、オンである時間とオフである時間の割合によって見かけ上、発光強度が変化することになります。
これがパルス駆動で輝度を調整するPWMの原理です。電力が消費されるのは発光がオンの間だけですから、発光強度が小さくなれば、それにしたがって消費電力も小さくなります。
パルス駆動には前項まで紹介したトランジスタをスイッチング素子とした回路がそのまま使えます。あとは例えば人がツマミを回すことによりスイッチングトランジスタのベースに加えるパルスの幅を変えられるような回路があればよいことになります。これはいろいろな回路があると思いますが、一例を図50-1のような回路図で示します(1)。右側にスイッチングトランジスタと発光ダイオードがあります。トランジスタのベースに接続されている回路がパルス幅を変えるための回路です。
この回路の動作を説明するための波形図が図50-2です。縦軸は電圧V、横軸は時間tで、4種類のパルス波形が示されています。下の2つが2種類のパルス波形AとBが発光ダイオードをオンオフする駆動パルスの波形です。電圧が高いとき発光ダイオードに電流が流れ発光ダイオードが光りますから、パルス波形Bの方が発光している時間が長く、人間の眼にはAに比べて輝度が高く見えることになります。
このパルス幅を変える、つまりパルス幅を変調するために上から2つめの波形が利用されます。この波形はその形がのこぎりの歯のようであるため「のこぎり波」とか「鋸歯状波(きょしじょうは)」と呼ばれます。ある時点で電圧が急に上昇し、最大電圧からはゆっくり直線的に電圧が下降する波形です。電圧の上昇、下降とも直線的な傾斜をもつ「三角波」を使う場合もあります。
下のパルス波形と見比べると、ノコギリ波の電圧が急上昇する時点に合わせてパルスはAもBも電圧が上がっています。つまりオンになっています。一方、パルスの電圧が下がる、つまりオフになる時点は、のこぎり波の波形に重ねて示されている電位VaとVbに関係しています。のこぎり波の電圧が下降し、電位Vaに一致するとパルスAはオフになっています。同様にのこぎり波の電圧が電位Vbに一致するとパルスBがオフになっています。
言い換えると、のこぎり波の電圧がある値以上のときだけパルスをオンにするようになっています。使用者がツマミを回してこの電位をVaとかVbのように変えられるようにすると、それにしたがって発生するパルスの幅を自由に変化させることができることになります。これが電位変化によってパルス幅を変調する典型的な方法です。
図50-1に戻ると、のこぎり波発生回路が示されています。この中身にはここでは立ち入りませんが、一定の繰り返し周期ののこぎり波を発生する回路は知られています。可変抵抗の抵抗値を変えて(ツマミを回して変えられます)、比較器のマイナス側入力の電位を希望の値に設定します。比較器というのは2つの入力の電圧を比較し、プラス側の入力電圧がマイナス側の入力電圧より高い場合に高い電圧の右側の出力端子に出し、それ以外は低い電圧の出力を出します。この中身にも立ち入りませんが、知られている回路です。
このような回路によって、のこぎり波の電圧が比較器のマイナス側入力電圧より高い間だけ、パルスをオンにする図50-2のような波形のパルスが発生できます。以上のような回路により発光ダイオードをパルス幅変調して発光させることができ、輝度を調整することができます。
照明の分野では照明の明るさを変更、調整することを意味する「調光」という語が使われます。。屋外照明や自動車のヘッドライトなどでは、明るさを連続的に変化させることはあまり行われないと思いますが、ときどきツマミを回して明るさを調整できる室内照明や机上の照明スタンドなどを見かけることがあります。
蛍光灯はこのような調光には不向きで、従来ならば白熱電球を用いた照明に限りこのような機能を設けられていました。白熱電球は一般には商用電源の交流で発光させていますから、その輝度調整には特別な回路が必要です。発光ダイオードの場合は直流で駆動しますから、ここで紹介したようなパルス幅変調を用いて輝度を変更できます。
(1)特開平6-013659号