光デバイス/受光素子

27.CMOSの固体撮像素子への応用

 かつて、ビデオカメラのテレビコマーシャルに「CMOSセンサーだから・・・」というコピーが使われていました。固体撮像素子としてはそれまでCCDが中心的な存在でしたが、最近は携帯電話用のカメラやデジタルカメラなどの撮像素子にCMOSイメージセンサーが多く使われるようになっています。

 CMOSのCは「相補型」という意味です(半導体集積回路、7項参照)。nチャンネルとpチャンネルのIGFETを対にして使うことにより、単独で使うより消費電力を大幅に減らすことができるのが特徴です。この消費電力が少ないという特徴が電池で動く携帯用の機器には向いているのです。CCDは電荷を転送するのに複数の電圧の電源が必要で、消費電力が結構大きいのです。

 それではCMOSをどのようにして撮像素子として使うのでしょうか。図27-1を見て下さい。どこかで見たような回路ではありませんか。そうですね。DRAMなどのメモリやアクティブマトリックス方式の液晶表示装置などで使われている縦横2次元にIGFETを並べた回路とよく似ています。なおこの図は単独のIGFETを使った回路を示していますが、これはCMOSをその通りに描くと複雑になり見にくいので簡略にするためです。

 さて、図を見るとDRAMでコンデンサが繋がっていたところ(IGFETのドレイン)に受光素子PD(図は2×2部分が示され、PDには11~22の添字が付けられています)が繋がっています。この受光素子はpn接合ダイオードで、光が当たって吸収されると電子と正孔の対ができ、その電子と正孔が電流となります。受光素子とスイッチとしてはたらくIGFETが繋げられ、これがセルを構成しています。撮像素子では画素と言った方が良いでしょう。CMOSイメージセンサーといってもCMOS自身が光を検知するわけではなく、CMOSはスイッチとしてはたらくだけです。

 IGFETのゲートはワード線Wに繋がっています。またIGFETのソースにはビット線Bが繋げられています。このビット線の先にはIGFET、TBによるスイッチがあり、このTBのゲートはゲート信号線Gに繋がっています。

 両方のIGFETがnチャンネル型としますと、ワード線W1の電圧をプラス電圧にし、ゲート信号線G1の電圧もプラスにすると、両方のIGFETがオンになって受光素子PD11の情報だけが、画像信号出力端子に出てきます。W1をそのままにし、G1を0に戻してG2をプラスにすれば、今度は受光素子12の情報が出力されます。このようにつぎつぎと各線の電圧を切り換えれば、各画素の情報が電気信号として得られます(1)

 このような考え方はむしろ普通で、CCDのように特別な構造の素子で、電荷を転送するやり方は大変巧妙ですが、むしろ特殊と言えます。このような普通のやり方がなぜあまり使われなかったかと言うと、理由は肝心の光を受光する感度があまり高くなかったことと、雑音が多いので、弱い光をうまく撮像できなかったことが原因です。また2個のIGFETを対にして使うので、素子の面積が大きくなってしまい、これを小さくするためにはトランジスタを小さく作る高度な技術が必要だったことも原因です。

 CMOSイメージセンサーの問題点だった感度、雑音の問題を改良するいろいろな努力がなされてきました。その一つが能動画素センサー(APS)というものです(2)。その典型的な回路(1画素分)を図27-2に示します。上記のCMOSセンサーは受光素子で光を電流に変換し、それをそのまま出力します。APSでは各画素で受光素子に電荷を貯めるようにし、その電荷量を正確に検出するようにしました。例えある一瞬ノイズが入っても貯まる電荷量にはあまり影響が出ません。

 T3のIGFETはリセット用です。最初にこれをオンにして受光素子PDに貯まった電荷をリセットします。光を受光している間はT3はオフにします。受光素子PDはpn接合ですので、逆バイアス状態では導通せずコンデンサになり、光によって発生した電荷を自分で貯めます。受光素子PDは右側のIGFET:T1のゲートにも繋がっていますが、ゲートから電流が流れることはありませんから、電荷はT1側に流れることはありません。

 一定時間後、もう一つのIGFET:T2をオンにするとT1のゲート電圧、すなわち受光素子に貯まった電荷量に従って2つのIGFET:T1、T2のソース-ドレイン回路に電流が流れます。これで当たった光の強度が電流に変換されます。

 しかしこの回路には1画素当たりIGFETが3個も使われています。各トランジスタをCMOSで置き換えるとさらに倍のトランジスタが必要になります。ここでは立ち入りませんが、小さな画素の面積内にこのような回路を押し込めるためにはトランジスタを小さくしたり、トランジスタの数を減らす工夫がなされています。

 CMOSは論理回路として集積化の技術が目覚ましく進んできました。同じ技術がイメージセンサにも使えるので、上記のような感度やノイズの問題解決が進むに連れ、1990年代後半辺りからCCDの置き換えが進んできています。

(1)特開昭62-059472号

(2)特開平11-261895号

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