光デバイス/光制御素子
17.光非相反素子
9項で磁気光学効果を取り上げていますが、ここではこの磁気光学効果(ファラデー効果)を応用した光制御素子を取り上げます。ファラデー効果は光の非相反性(1)を示すので、これを応用した素子を光非相反素と呼びます。1960年代には基本的な提案がなされています(2)。
光アイソレータ
代表的な光非相反素子は光アイソレータです。光アイソレータは光を一方向には透過し、反対方向には透過しない素子を言います。電気で言えば、電流を一方向にだけ通す整流器が連想されます。整流器は素子で言えば電子がある方向に移動するのを阻止し、逆方向への移動だけにするはたらきをもつダイオードで、交流を直流に変換するという重要な役割があります。
一方、光アイソレータは光(電磁波)の進行方向を一方向にするもので、整流という概念はありません。光学の分野では光が反射などによって戻ってきては困る場合があります。その典型例が半導体レーザです。「半導体レーザ」50項で一言だけ触れていますが、半導体レーザは自らが発したレーザ光が反射され半導体レーザの共振器内に戻ると、レーザ発振が不安定になる場合があります。このような不具合を防ぐために光アイソレータが使われます。
光アイソレータの基本的な構成を図17-1に示します。中心となるのは大きなファラデー効果をもつ結晶で、ファラデー回転子と呼ぶことがあります。このファラデー回転子には図示は省略しますが、光軸方向に磁界がかかるように永久磁石あるいは電磁石を設置します。
さらにファラデー回転子の両側に入射光と出射光が通過するように偏光子1と偏光子2を入れます。図の(a)に示すように入射側の偏光子1により例えば垂直方向に偏光した直線偏光がファラデー回転子に入射されます。この光はファラデー回転子により45°偏光方向が回転して出射されます。出射側の偏光子2はこの光が通過するように45°傾斜させておきます。
出射側から光が入射する場合は、出射側の偏光子2を通過する45°の偏光方向の光のみが通過できます。このため(a)で示した出射光を反射した光は偏光子2を通過し(b)で示すようにファラデー回転子の出射側から入射されます。この光はファラデー回転子を通過する際、磁界の方向が反対になるので、偏光子1側からみれば、さらに45°回転することになります。これを光の非相反性と言います。このためこの光は入射側の偏光子1を通過できなくなり、戻る方向の光は阻止されることになり、アイソレータとして機能します。
ファラデー回転子を例えば1/2波長板に置き換えたとします。入射光の偏光は同様に45°回転し、偏光子2を透過します。一方、偏光子2側からこの光を反射して入射すると、1/2波長板による偏光の回転は偏光子1側からみれば逆方向に45°です。このため、偏光方向は元の状態に戻り、偏光子1を通過できることになります。つまり1/2波長板は光相反性のある光学素子ということになります。
図17-1の構成のアイソレータは半導体レーザのように直線偏光の光源と組み合わせる場合には適しています。光源の偏光に合わせて偏光子の偏光方向を設定しておけばよいからです。しかし入射光の偏光状態が一定でないような場合、例えば光ファイバからの出射光のような場合には変化に合わせて偏光子の方向を常に調整する必要があり不便です。このような場合に対応できるような偏光に依存しない構成も考えられています。それを図17-2に示します。
この構成ではファラデー回転子の前に偏光子ではなく、複屈折結晶1を置きます。これにより入射光は同図(a)に示すように常光と異常光に分かれます。この2種類の光をファラデー回転子に入射して偏光をそれぞれ45°回転させます。さらにその後に1/2波長板を挿入して偏光をさらに45°回転した後、複屈折結晶2に入射すれば、2つの光線は1つの光線に戻ります。これで出射光は入射光と同じ偏光状態になり、光はこの光学系によって変更を受けることなく通過します。
この出射光を反射してこの光学系に戻したとします。すると同図(b)に示すように、ファラデー回転子から出た光は最初の入射光の偏光に対して90°回転した光になります。これを複屈折結晶1に入射すると光は元の状態に戻らず、光路が2つに分離した状態のままとなります。このためこれらの光は元の光源側には戻ることはなくなります。すなわちこの光学系は戻り光の光路を変えてしまうことにより、偏光状態に依らないアイソレータとして機能することになります。
大きなファラデー回転角を示すYIGなどはかなり結晶性の良い薄膜を形成することができます。これを使った導波路形の光アイソレータも提案されていますが、ここでは省略します。
光サーキュレータ
もう一つ、光非相反素子として知られているものに光サーキュレータがあります。サーキュレータは例えば図17-3に示すような光路をもった光学系です。図ではA~Dの4つの光の入出力ポートをもっています。ポートの数は3つが最小ですが、目的によって4つ以上にすることができます。
ポートAから入射した光は図では時計回りに進んでポートBからだけ出射します。同様にBから入射した光はCからだけ出射し、Cから入射した光はDからだけ出射します。つまり光はAからB、BからC、といったように光を「回転(サーキュレート)」させる素子であるから光サーキュレータと呼ばれます。
素子の構成は容易に想像されると思いますが、ポート間にアイソレータを配置し、光が一方向に進むようにします。具体的な構成例を図17-4に示します。これは偏光に依存しないように構成した例を示します。複数のアイソレータ等の光学素子を目的に合わせて組合せた光学系ですが、これを一体化した素子としての製品が提供されています。
光サーキュレータはどのような目的に使われるかというと、例えば1本の光ファイバを使って双方向に通信を行う場合が挙げられます。逆方向に進行する光が光ファイバ内で干渉することはないので、図17-5に示すように2個の3ポートサーキュレータを用いた構成が考えられます。
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(1)「非相反性」は英語では"non-reciprocal"です。
(2)J.F.Dillon, Jr., J .Appl. Phys.Vol.39, 922 (1968)