光デバイス/半導体レーザ

50.半導体レーザ用パッケージ

 半導体レーザも他の半導体素子と同様にパッケージ内に納めて使用されます。発光素子としては発光ダイオードと類似しますが、パッケージには相違があります。発光ダイオードの場合はほとんどが封止樹脂で被覆されます。リードフレームや基板上に素子を実装し、素子の周囲を樹脂封止したパッケージが多く使われています。

 半導体レーザの場合は、樹脂封止はあまり使われません。理由は半導体レーザの発熱が大きいこともありますが、樹脂による散乱により指向性が阻害されやすいためと思われます。

 もっとも簡易な半導体レーザのパッケージは図50-1に示すCANタイプと言われるものです(1)。ステムと呼ばれる金属製の台座上にチップを実装し、これに光取り出し用透明窓を設けた金属製キャップを被せ、気密封止したものです。容器内は不活性ガスが封入されチップの酸化による劣化を防いでいます。ステムには電流を流すためのリード線がシールされた状態で取り付けられています。

 半導体レーザが端面発光型の場合にはステム表面に垂直に立った柱状の台座を設け、この表面にチップを実装することにより、窓方向にレーザ光を出射するようにします。台座とチップの間にサブマウントと呼ばれる平坦で熱伝導性のよい部材を介在させることもあります。このため、チップ、サブマウント、台座を接着する際に、それぞれの位置関係を調整し、レーザ光の出射方向を揃える必要があります。

 半導体レーザの場合、前項で説明したように光出力や波長を制御することが通常行われます。このため出射光を監視(モニター)するための受光素子がパッケージ内に実装された製品が多いようです。

 端面発光型の場合は素子の2つの端面から出射光が得られますから、後側から出射する光をモニター用に利用することが行われます。受光素子のチップをステム側に取り付ければ、後から出射した光を受光できます。このとき受光素子の受光面をレーザ光に対して傾斜させ、反射光がレーザチップに戻るのを防ぎます。

 レーザチップと受光素子チップはリード線とワイヤボンディングで接続されるのが一般的です。内部配線は図50-2のように接続すればリード線は3本となります。

 このCANタイプのパッケージはリード線を配線基板や端子板などにハンダ付けすれば使えますが、通常は何らかの放熱器(ヒートシンク)を取り付けて使用します。

 CANタイプは光ファイバに出射光を結合する場合にはこのままでは不向きです。図50-3に示すようなパッケージを固定する円筒状の金属保持具と光ファイバを固定する円筒状の金属保持具をそれぞれ用意し、これにパッケージと光ファイバをそれぞれ挿入して固定します。この際、光ファイバへのレーザ光の取り込みをよくするために調心という作業を行う必要があります(2)

 例えばパッケージと光ファイバをそれぞれの保持具に挿入し、固定します。つぎに2つの保持具を突き合わせて固定するのですが、固定位置がずれるとレーザ光がうまく光ファイバに入りません(結合しないと言います)。そこで半導体レーザを電源に接続し発光させた状態で、2つの保持具を突き合わせます。光ファイバからの光出力を監視しながら2つの保持具を摺り合わせるように位置調整し、光ファイバからの出力光がもっとも強くなる位置を探します。位置が決まったらそのまま動かさないように固定します。固定にはレーザ溶接という方法がよく使われます。集光した赤外線レーザを照射して金属を溶接します。レーザ光は小さい点に集光できるので、このような小さな部品の溶接に適していますが、接着剤による固定を行う場合もあります。とくに金属製でないレンズや光ファイバと保持具の固定には溶接は使えませんから、接着剤による固定が一般に使われます。光ファイバ保持具とパッケージ用保持具の固定を先に行い、パッケージと保持具の位置を調整する方法も可能です。

 このようにレーザ光を発光させた状態で位置合わせを行うことをアクティブ調心と言い、一連の作業を行う装置があります(2)。レーザ光を使わず、高精度で加工した部品を使うとか、何かの目印を使って位置合わせする方法もあり、これをパッシブ調心と言いますが、アクティブ調心より一般に精度は低くなるので、簡易な方法として使われる場合が多いと思われます。

 光ファイバを結合したパッケージにはCANパッケージを使わないタイプもあります。図50-4に示すように、パッケージ内に固定した基板にレーザチップを接着し、パッケージ側面に取り付けた光ファイバに結合させます(3)。レーザ光を光ファイバ端面に結合するため、レーザチップと光ファイバ端面の間にレンズを取り付けたり、光ファイバ端面を球面加工してレンズのはたらきをさせることが行われます。

 CANタイプ同様にレーザチップの後側に受光素子を取り付け、後方の出射光を利用して光出力をモニターすることが行われます。

 このタイプの場合はパッケージ内に他の光学素子を取り付けることもできます。よく用いられるのはアイソレータです。半導体レーザは自分が出射した光が外部で反射されて戻ってくると不安定になります。そこでこれを避けるための光学素子がアイソレータです。原理は省略しますが、光を1方向にしか通さない素子です。

 さらに波長を安定にするためにレーザチップをペルチエモジュールに取り付け温度制御ができるようにする場合もあります。ペルチエ素子は熱電効果をもつ半導体素子で、これに電流を流すことにより、冷却や加熱が可能で、素子の温度を一定に保つように制御ができます。  CANタイプが比較的簡便なタイプですが、こちらは高度な特性が要求される場合に使われると言えます。

 なお、上記のように光ファイバが容器に固定されているパッケージをピグテイル型と言います。"pig tail"つまりブタのシッポという意味で、パッケージからクルッと丸まった光ファイバが出ているのをブタのシッポに見立てた面白い命名です。  光ファイバが固定でなく取り外せるようにしてある場合もあります。光ファイバ同士をつないだり切り離したりできる光ファイバコネクタという部品がありますが、これと同じような機構で光ファイバに着脱できるようになっているパッケージもあります。これをレセプタクル型と呼んでいます。

(1)実開昭63-029970号

(2)特開2000-241674号

(3)特開2000-294868号

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