光デバイス/半導体レーザ

49.半導体レーザの駆動・制御方法

 同じ発光素子である発光ダイオードと半導体レーザは、ともに直流電流を流して駆動する点、また必要に応じてこの電流を変調して駆動する点では共通ですが、かなり異なった面もあります。

 ここでは発光ダイオードではあまり注目されない点に絞って半導体レーザの駆動方法を紹介します。半導体レーザはその発光特性が温度など周囲条件によって変動しやすい性質がありますが、応用上はこのような変動は望ましくありません。そこでこれらの変動を防ぐ駆動回路技術が重要です。ここではレーザ光出力と波長についてそれぞれを一定に保つ方法について取り上げます。

(1)レーザ光出力  半導体レーザの光出力Lは10項で説明したように電流Iによって決まり、図49-1のような特性(I-L特性)をもっています。このI-L特性が変化しなければ問題ないのですが、周囲の温度の変化によって変動してしまいます。また長く使用していると経時劣化が起きて変わってしまいます。25項でも示していますが、この変化の様子を誇張して模式的に図の2つのI-L特性(青線と赤線)として示しました。半導体レーザのレーザ光は変調して使うことが多いですが、図はデジタル変調を示しています。図の下側に示すように入力電流をパルス状に時間変化させるとI-L特性にしたがって図の右側に示すように光出力がパルス出力となります。

 このときI-L特性が変動すると出力される光のパルスの振幅が変化してしまいます(1)。デジタル信号の場合は多少ピーク値が変わってもオンオフが検知できればよく、これが特徴でもあるのですが、振幅が極端に小さくなるとオンオフが認識されなくなってしまうので、これは避けなければなりません。アナログ信号の場合は振幅自体が情報である場合が多く、その僅かな変動も許容できない場合がありより重要です。このようにI-L特性が何らかの変化をしても光出力に影響しないようにしなければなりません。

 このためには、まず光出力の変動を検知する必要があります。光の強度を検知する手段はいろいろありますが、半導体素子としては受光素子があります。入射光を光電変換して電気出力を出す素子です(詳細は別のところで説明します)。光の強度を測定するには、この受光素子の電気出力(電流または電圧)の大きさを調べます。

 電圧の大きさを電子回路によって調べるには比較回路というのがあります。この回路は入力信号が予め決めてある基準値より大きいか小さいかを検知し、例えば大きければプラス、小さければマイナスの信号を出力します。半導体レーザに電流を流す駆動回路が、入力信号によって電流を増減できるようになっていれば、比較回路の出力を駆動回路に入力し、半導体レーザに流れる駆動電流を増減できます。つまり光出力が大きくなる方向に変化したら駆動電流を減らし、逆に光出力が小さく変化したら電流を増やすようにして、光出力の変動を抑えるようにます。

 このような回路をブロック図で示すと図49-2のようになります。もちろんどの程度の光出力変化に対してどの程度電流を変えたらよいかは、個々の場合で異なるので、予め試験を行って回路を設計する必要があります。一般に出力が低下した場合に入力を増やすようにすることを負帰還(negative feedback)と言います。

 光出力を一定に保つだけなら以上でよいのですが、光通信など多くの応用では光をオンオフする変調を行います。この場合、重要なのは光がオンであるかオフであるかをはっきり見分けられることです。半導体レーザのI-L特性は図49-1のようにしきい電流値を境に折れ曲がっているので、オフの場合の電流値の設定が重要です。I=0に設定してしまうと少し電流を増加させても光出力が小さいままです。オフの場合の電流をしきい電流付近に設定するのが望ましいと言えます。ところがこのしきい電流値も図49-1のように変化する恐れがあります。

 パルス光の場合、光強度の測定値としては、ある一定時間の平均値を用いる場合と最大値を用いる場合があります。オフの場合の光出力を0近くに設定するためには平均値を用いて電流(バイアス電流)を設定するのがよいと考えられます。またオンの場合の光出力は最大値を一定にするように設定するのがよいと思われます。いずれにしても図49-3に示すような回路によって、それぞれの出力電圧を基準値と比較し、その差によってレーザへの入力電流(バイアス電流と最大電流)を増加させて光出力の低下を補うことができます(2)

(2)波長  レーザ光は14項で説明したようにコヒーレントであるという発光ダイオードにはない大きな特徴をもっているので、干渉を利用した計測などの応用があります。このような応用では波長のわずかな変動も問題になります。しかし半導体レーザの場合は周囲の温度が変動すると波長が変化してしまう特性をもっています。このためこのような変動が起こった場合にそれを打ち消して波長を一定に保つ必要があります。

 これを行うためには波長の変化を検知する必要があります。光の波長に対して敏感に変化する特性をもっている波長検知素子としては光フィルタがあります(3)。入射光の波長によって反射光や透過光の大きさが変化します。この原理としては2種類あって、一つは干渉です。これは干渉フィルタと呼ばれたり、光共振器(エタロンと呼ばれることもあります)と呼ばれることもあります。もう一つは光の吸収特性が波長によって変化する吸収フィルタです。特定の原子の吸収を利用するものなどがあります。いずれにしても検知する側の特性が変動しては元も子もありませんから、温度を一定に保つなどの注意が必要です。

 検知の結果を制御に利用するためには検知結果が電気信号である必要があります。そこで上記のフィルタの出力を受光素子に入力して電気信号を得ます。この電気信号を帰還(フィードバック)して波長変動を打ち消すにはどうしたらよいでしょうか。一つの方法は半導体レーザ素子の温度を変える方法があります(4)。もともと素子の温度を一定にするために使われる熱電素子(ペルチエ素子)を利用した温度制御装置があるので、これを利用して電気信号によって温度を制御することができます(図49-4)。

 また前項で説明したように波長可変半導体レーザの場合にはDBR部分への電流を制御することもできます(5)。波長可変レーザの波長を一定にするというのは何か矛盾しているようですが、正確に言うと、波長可変レーザでDBRに電流を流して所望の波長を得た状態で、この設定波長が変動しないようにDBRへ流す電流を再調整するという意味です。

 このような半導体レーザの特性を一定に保つための方法には非常に多くの方式が考えられていますが、基本的な考え方は上記のようなものです。

(1)特開2004-096003号

(2)特開昭54-090982号

(3)特開平02-244782号

(4)特開平11-126940号

(5)特開平11-087827号

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