光デバイス/半導体レーザ
48.波長可変半導体レーザ
レーザ光の波長はその使用目的によって変動しないことが望ましい場合が多く、環境が変わっても波長を一定に保つ手段が必要になります。これについては次項で触れます。一方で目的によっては波長を変化させることが必要な場合があります。広い波長範囲を走査する必要がある場合もありますし、ある特定波長に合致させるために波長の微調節を必要とする場合もあります。
ガスレーザや固体レーザが発するレーザ光の波長は基本的に一定で変化させることができません。これは発光を生じさせる電子の遷移が単一準位間であることによっています。一方、半導体レーザの縦モードは変化しやすいことを説明しました(39項)。 量子カスケードレーザを除いて、これまでにも説明してきたように伝導帯と価電子帯の間の電子の遷移によっており、伝導帯、価電子帯はともにエネルギーに幅をもっているため、自然放出光のスペクトルは波長に幅をもっています。この波長幅を利用すれば、レーザ発振する波長が変えられます。
まずチップの温度を変える方法が考えられます。予めチップの温度とレーザ光の波長の関係を測定しておき、温度を制御して波長を設定することができます(1)。特殊な素子構造を必要としない利点はありますが、温度は高速に変えることは難しく、周囲の影響も 受けやすいという難点があります。
上記のように自然放出光のスペクトルに幅があることを考慮すると、共振器の共振周波数を変えることにより、レーザ発振波長を変えることができると考えられます。反射鏡間の距離を変更することが考えられますが、現実的にはかなり難しいと思われます。一方、42項で取り上げたDBRレーザにおいて回折格子の反射波長を変えることは可能と思われます。反射波長は回折格子の周期を変えるか、あるいは回折格子の屈折率を変えれば変えられます。前者は難しいですが、後者は可能です。手段としては電流を流すことによって屈折率を変える方法が試みられています(2)。
また、量子井戸層に電界をかけると屈折率が大きく変わることが知られています。図48-1に示すように活性層を量子井戸とし、左側の注入電極から順方向電流を流して発光させ、右側のDBR領域の制御電極には逆バイアス電圧をかけて回折格子部の量子井戸の屈折率を変化させます。高速で大きな波長変化を実現できる特徴があります(3)。
ここまで紹介してきた半導体レーザはいずれも半導体チップ内に共振器が形成されていました。しかし光増幅部と共振器は別に形成することもできます。半導体端面は反射面としないようにし、半導体チップ外に反射鏡を設け、半導体から出射した誘導放出光を反射鏡で反射させ半導体チップに戻すことによってレーザ発振が可能になります。これを外部共振器型と呼びます。
外部共振器としてはミラーが使えますが、回折格子を用いることもできます。回折格子への入射光の入射角と反射光の出射角の関係は光の波長によって決まります。そこで図48-2に示すように外部共振器に回折格子を用い、その角度を機械的に変えることによって、半導体チップへ戻る波長を変えることができます。これによって発振波長を変化させることができます(4)。回折格子の屈折率はそれほど大きく変えられないですが、外部共振器の場合はそれより大きな波長変化を実現することができます。
この外部共振器は垂直共振器型にも適用することができます。素子の上面側の反射鏡を素子から浮いた状態にし、これに電圧を印加して静電力によって反射鏡を撓ませ、発振波長を変化させることができます(5)。
(1)特開2002-134829号
(2)特開昭61-054690号
(3)特開平01-035978号
(4)特開平10-341057号
(5)特開2002-289969号
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