光デバイス/半導体レーザ
47.フォトニック結晶を用いた面発光レーザ
まずフォトニック結晶とは何かについて説明します。フォトニック結晶とは、波長より小さい周期をもつ、屈折率の異なる2種以上の透明媒質でできた周期構造体のことです。屈折率が異なる4分の1波長の膜厚の誘電体膜を交互に積層した光学多層膜は光学フィルタや反射防止膜などとしてよく知られていますが、これは上記の周期構造体とみなせ、フォトニック結晶の一次元版と言えます。特定の波長域の光を干渉によって反射したり、透過したりする特性をもっています。
さらに面内2方向に周期をもった二次元フォトニック結晶、さらに通常の結晶と同様に3方向に周期をもった三次元フォトニック結晶が考えられますが、次元が増えるほど実際に作製するのが難しくなり、作製方法がいろいろ検討されてきました。
一次元フォトニック結晶の性質からみて二次元、三次元のフォトニック結晶が特有な光学特性をもっていることが予想されます。「結晶」という名前が付いていることから、本来の結晶との関係も注目されます。本来の結晶は原子が三次元的に規則的並んでいるものですが、原子に属する電子は量子力学によれば波動の性質をもっていて、そのエネルギーがバンドを形成していることが明らかになっています。結晶中の電子はある範囲のエネルギーをもつことができません。この範囲を禁制帯(エネルギーバンドギャップ)と呼んでいます。
フォトニック結晶における光(電磁波)もこれとまったく同じようなエネルギーギャップを有することが明らかになっています。このことからその光学特性を応用できるのではないかと期待されてきました。
いろいろな話題がありますが、ここでは面発光レーザに関することに絞って紹介します。図47-1は面発光レーザの構造の概略図ですが、共振器を構成する反射層がありません(1)。替わりに二次元フォトニック結晶層が発光層(活性層)の下に設けられています。これでなぜレーザ発振が可能なのでしょうか。以下説明します。
簡単のためにフォトニック結晶は図47-1の下部に示すように平板状の高屈折率部材に碁盤の目状、正方形の頂点部分に低屈折率部分があるタイプとしますが、周期性があればこのパターンに限られません。今、図47-2に示すように活性層で発生した光が低屈折率部Aから出て同Bに向かって進んだとします。各低屈折率部でこの光が1次の回折で90°曲がるように設計されているとすると、光はBで回折され、Cに向かいさらにDを経てAに戻ります。このように各低屈折率部から出た光は回折により同じ低屈折率部に戻ります。これは出た光が戻ってくる共振器と同じ作用を光に及ぼしますから、誘導放出を起こす条件があればレーザ発振が生じることになります。各低屈折率部では面と垂直にも回折が起こるのでこれが出射光となり、図47-1に示すような面発光レーザとなります。
面内も多数の低屈折率部を設ければ、各部から互いに結合した単一モードの発光が得られるので、通常の垂直共振器型に比べると非常に大きな面から単一縦モードの発光が得られるという大きな特徴があります。
また、DBRが不要なので、例えば長波長VCSELで問題となる活性層とDBR部の格子整合の問題も発生しませんから、長波長面発光レーザの実現にとっても利点があります。とは言えフォトニック結晶を作製するのは必ずしも容易ではありません。半導体の結晶成長により作製する方法がいろいろ検討されていますが(2)、ここでは省略します。
(1)特開2000-332351号
(2)特開2012-033747号
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