光デバイス/半導体レーザ

51.大出力半導体レーザモジュール

 ガスレーザや固体レーザの半導体レーザへの置き換えは、半導体レーザの性能の向上に伴って大きく進んできました。これらのレーザと半導体レーザの性能のうち光出力には大きな差がありました。そこで半導体レーザを複数配列し、出射光を合波して加え合わせることが考えられました。半導体レーザはサイズが小さいので複数並べてもそれほど大型にはなりませんから、この方法により光出力を向上させることが行われています。

 複数のレーザをどのような方法で並べるかというと、2つの方法があります。一つは一つの半導体ウェハ上の複数のレーザ素子を作製し、いわゆるモノリシックレーザアレイを構成する方法です。図51-1に示すように一定間隔で活性層を含むストライプ状の導波路を配列します(1)。図はリッジ導波路を示していますが、これに限りません。大体1cm程度の幅の基板に1mmより短い間隔でレーザストライプを並べ、数10程度の発光部を設けます。共振器長は通常1mmより短いので、チップはストライプと直角方向に長い細長い形になります。これをレーザーバーと呼ぶことがあります。

 実は個別のレーザーチップを製造する際、複数のストライプを平行した状態で作製し、これをまとめて劈開して共振器端面を作る方法がとられます。個別のレーザにするためには、ストライプの間を切断分離しますが、その前の状態をレーザーバーと呼びます。これは製造中間物で完成品ではありませんが、形としてはほとんど同じです。

 このようなレーザーバーで、波長800nm~1μmで全体で数10Wの光出力をもった製品があります。39項で説明したような窓構造を設け、高出力でも端面破壊が起きないようにする場合もあります(2)

 このレーザーバー1つではまだ光出力が不足な場合は、このレーザーバーを積み重ねて数を増やします。直接重なるわけではなく、熱伝導のよい金属などの基板に実装したうえで重ねることが多いと思います。これをレーザースタックと言うことがあります。レーザーバーを数10個用いて数kWにまで光出力を増やした製品があります。

 このようなスタックからの発光を利用する際どのようにしたらよいかについてつぎに説明します。この場合も前項のパッケージと同じようにビームとして使うか、光ファイバに伝搬させて使うかの二通りの方法があります。いずれにしても複数の位置から出射される光を一つにまとめる光学手段が必要です。

 一つ一つの発光点にレンズを設け、位置合わせをするのは非常に大変です。そこで考えられたのは図51-2に示す円筒レンズを使用する方法です(3)。ここではレーザーバーを直接積層したように描いていますが、実際は上記のようにそれぞれ基板に実装したうえで積層します。図51-2は斜視図ですが、図51-3はこの光学系を説明するための(a)側面図と(b)平面図です。レーザーバーごとに基板面方向に沿って円筒レンズを置き、さらにスタックした方向、基板と直角方向にも第2の円筒レンズを置きます。この第2の円筒レンズが集光する光を光ファイバに入射させます。この複数の光ファイバを伝搬する光を合波すればスタック全体の出射光を利用できます。

 このような多数の発光部を同時に連続動作させると当然発熱が多くなりますから、放熱の問題は重要です。もはやフィンを設けて放熱するくらいでは追いつきません。レーザーバーを取り付ける基台は金属製とし、これに図51-4のように穴を開けてパイプを通し、水(あるいは他の液体)を流して強制的に冷やす手段が採られます(4)。  このような大出力半導体レーザモジュールは固体レーザやファイバレーザの励起用に使われますが、さらにはレーザ加工にも使われるようになっています。

(1)特開2005-286288号

(2)特開平02-281780号

(3)特開2000-098191号

(4)特開2006-054345号

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