光デバイス/半導体レーザ
52.半導体レーザの応用
半導体レーザが光源として何に応用されているか、まとめておきたいと思います。半導体レーザの前にレーザ一般が光源として応用されるとき、活かされる光の特徴を列挙すると、つぎのようになるでしょうか。 (1)位相が揃っている(コヒーレント性)。 (2)強度が高い。 (3)指向性がよい。 (4)スペクトル線幅が狭い。
さらに半導体レーザは従来のガスレーザや固体レーザに比べて (5)極めて小型である。 (6)基本的に直流電源だけで駆動できる。 という大きな特徴をもっています。初期には波長が限られていて強度も十分でなかったので、ガスレーザや固体レーザを置き換えるのは難しい分野が多かったのですが、その後の開発によって、波長も紫外光から赤外光まで広がり、強度も大幅に向上したため、特殊な用途を除いて多くの分野で置き換えが進んでいます。以下に主なものを列挙し、重要なものについては項を分けて後述することにします。
(a)光通信 ほとんどの場合、光ファイバを伝送路として使う通信を意味します。とくにレーザ光でなく発光ダイオードを光源としても通信は可能ですが、長距離にわたって大きな情報量を送るには位相が揃ったスペクトル線幅の狭い強いレーザ光であることが望ましいことになります。52、53項参照。
(b)光記録 CDやDVDといったディスク上に情報を記録する装置ですが、情報の書き込みと読み出しにレーザ光が使用されます。記憶情報量を多くするためには光ビームをできる限り収束できることが必要です。また民生用装置の場合にはとくに小型化が望ましいので、光源は小さいことが必要です。54項参照。
(c)画像形成装置 電子写真式の光プリンタなどで、感光体への書き込み(画像形成)には発光ダイオードを光源とするものもありますが、レーザ光を使う場合には指向性の良さを利用して光ビームを走査する方式が利用できます。55項参照。
(d)照明装置 短波長を発光する半導体レーザが開発されたことから、発光ダイオードと並んで半導体レーザの照明分野への応用が進み、とくに高強度を要求される車両用ヘッドランプなどに使われています(1)。56項参照。
(e)投影型装置 RGBが揃ったため、指向性の良さと組み合わせた投影型の画像表示装置に利用され、大面積の表示が可能となっています。また小型であることから手持ちのレーザポインタやバーコードリーダなど投影光を用いた装置への応用もあります。55項参照。
(f)レーザ加工装置 この分野は高強度のガスレーザをすべて置き換えるには至っていませんが、ガスレーザにない波長の利用や装置の小型化などの利点を活かした装置へ応用されています。素子が小型であるので、複数の素子を用い、49項で取り上げたような各出射光を合波して高出力を得る方法も採用されています(2)。
(g)励起用レーザ 固体レーザやファイバレーザなど励起光を必要とするレーザの励起光源として集光が容易で強度が高い利点が活かされています(3)。とくに光ファイバ増幅器は光通信分野で重要な役割を果たしています(53項参照)。
(g)医用装置 レーザメスや加熱源として従来のガスレーザや固体レーザを置き換えています(4)。歯科用の手持ち治療器にも有効です(5)。
(h)エンジン点火装置 ガソリンエンジンの点火プラグに変えて、レーザ光で点火する方式です。燃焼室内に点火装置を備える必要がなくなります(6)。
(i)計測装置 レーザ本来の干渉性などを利用し、距離、速度など種々の物理量を測定する装置は多種多様ですが、従来からのレーザ光源の半導体レーザへの置き換えが進んでいます。
以上でレーザ応用のすべてを尽くしているかというと怪しいです。これらのどれにも属さないレーザを用いた装置はまだあるかもしれませんし、今後発明される可能性もありえます。
(1)特開2012-009354号
(2)特開2011-108772号
(3)特開平10-325941号
(4)特開平04-040022号
(5)特開平04-034815号
(6)特開2010-502007号
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