光デバイス/半導体レーザ

53.光通信

 半導体レーザの重要な応用先の一つは光通信の分野です。光通信とは光ファイバを使った通信と言い換えてもよいでしょう。広い意味では光ファイバを使わない光通信もあります。船と船の間で光をチカチカさせて情報を交換することは昔から行われていますが、このように空中に光を放射して行う通信もあります。ただ光は直進するので、このようなやり方は障害物があるとだめで、広い海の上とか見通せる範囲に限られてしまいます。このため光を使った通信技術でもっとも重要なのはやはり光ファイバを使った通信ということになります。

 では昔から使われている電気信号を使った有線、無線の通信に比べて光通信は何が優れているのでしょうか。第1に通信としてもっとも重要な秘密が守りやすい、盗聴されにくいという点があります。電気通信は無線の場合、空中に電波を飛ばすので他人が受信しやすいことになります。有線でも電磁誘導現象を使えば、通信内容を第三者が通信している本人に気付かれずに聞ける可能性があります。光通信では光ファイバを伝わる光を一部取り出さない限り通信内容が漏れることはありません。気付かれずに光ファイバから光を分岐させることは困難です。

 また電磁誘導は電気通信の妨害にもなります。電気通信の場合、雷などの自然現象や他の電気信号がそばを通っていたりすると、電磁誘導によってそれが伝送路に紛れ込み通信内容が乱されやすいですが、光は基本的に電磁誘導とは関係がないのでこのようなことはありません。

 さらに光の方が大量の情報を送るのに適しています。それについてこれから説明します。通信システムは図53-1のように必ず送信機と受信機、それにその間を結ぶ伝送路からなります。光通信の場合は送信機に光源が必ず備えられています。そしてこの光源から出る光の強度を変えて信号を送ります。伝送路は光ファイバです。

 この送信する信号にしたがって光の強度を変えることを光変調と言います。光をオンオフして0と1の信号を作るのがデシタル変調です。音声信号など電気信号の波形の通りに光の強度を変えるのがアナログ変調です。

 光通信と言っても元の信号は電気信号です。例えばコンピュータで作ったEメールの文章を送る場合、これはデジタル電気信号です。半導体レーザは流す電流を変えれば、デジタル変調もアナログ変調も行えますので、コンピュータからのデジタル電気信号に従って半導体レーザに電流を流します。この方法を直接変調と言いますが、他の気体レーザや固体レーザではできないので、半導体レーザの特徴になります。

 ただし非常に高速の信号(例えば1nsより短いパルス幅の信号)になると半導体レーザの直接変調ではついていけなくなります。その場合は他のレーザと同じように半導体レーザは一定強度で連続動作させておき、別に高速で動作する光変調を専門に行う素子(光変調器)を使います。図53-1はこの場合を示しています。

 変調された光は光ファイバを伝わって信号を受け取る受信機に送られます。受信機には光検出器(受光素子)が備えられていて、光の信号を電気の信号に変えます。これをコンピュータに処理させれば、人間が読むことのできる情報となります。

 通信は放送などの特別な場合以外は一方通行ではありません。Eメールに返信できる必要があるように信号をやりとりできることが必要です。このためには両側に送信機と受信機が必要です。光ファイバも行き帰り2本必要なように思いますが、実際は1本で済みます。波長の違う光は混じり合うことがないので、両側の送信機にある光源(半導体レーザ)の波長を変えておけば、図53-2に示すように1本の光ファイバで行き帰りの信号を同時に送れます。

 現在、インターネットの情報を送受するために、FTTH(Fiber To The Home)と言って個人の住宅まで光ファイバが繋がるようになりましたが、ネットワークの中継局から家庭へ送ってくる信号と家庭から中継局へ送り返す信号とは違う波長を使っています。

 この何年かの間にインターネットの使用量がどんどん増えて、莫大な量の信号を送らなければならなくなっていますが、そうするためにはどうすればよいでしょうか。まずは光ファイバの本数を増やせばよいのですが、長い距離の光ファイバをたくさん張り巡らせるのはとても大変です。

 それならば信号のオンオフを早くすることも考えられます。1秒間に100回オンオフしていたのを1000回にすれば、同じ時間で10倍の情報が送れます。このオンオフの早さの単位がbpsです。これはビット・パー・セカンドの略で、1秒間に何ビット送れるかを表します。FTTHの場合でも実際に数10M(メガ)bpsで信号を送っています。つまり1秒間に100万ビットもの信号を送っています。

 随分早いように思いますが、局と局の間や、さらには外国との間などになると送る必要のある情報の量は各個人が送ったり受けたりする量すべての足し合わせになるので、膨大です。そこでこのような通信には10G(ギガ)bpsなどというさらに1000倍も早い速度で行われています。

 以上は光送信機としての半導体レーザの役割についての説明でしたが、これ以外にもう一つ、半導体レーザの役割があります。それは光増幅器としての役割です。

 光ファイバは波長1.55μmの光に対して伝送損失は非常に小さいのですが、それでも1km進むと、光の振幅は0.98倍程度わずかに減少します。1km程度ならほとんど問題ないのですが、これが100km伝送した場合には0.1倍、つまり最初の1/10になってしまいます。デジタル通信の場合は1か0かを見分けられればいいので、強度の減少には強いのですが、それでも都市間とかさらには海外の国間など長距離伝送後は信号が誤って受信されてしまう恐れがあります。

 そこである一定距離を伝送した後には中継器を入れて減衰した信号を増幅して元に戻すことが必要になります。従来の中継器は光信号を一旦電気信号に変換し、再度半導体レーザから光信号を発信し直す方法が用いられていました。しかし途中で電気信号に変換することで光通信の利点が失われる恐れがあります。

 そこで光信号のまま増幅する手段が望ましいことになります。この光増幅器として近年多く利用されているのが8項ですでに説明したErドープ光ファイバ増幅器です。これを光ファイバ伝送路の必要箇所に挿入することにより、光信号を電気信号に変換することなく減衰を防ぐことができます。

 この光ファイバ増幅器は半導体レーザとは異なり、励起光を必要とします。伝送されてきた光信号に励起光を合流させることにより誘導放出が起き、光信号が増幅されます。この励起光の光源として半導体レーザが使われます。波長1.55μm用としては波長980nmまたは1480nmの励起光が用いられますが(1)、これは半導体レーザによって得ることが可能で、それほどの高出力は必要としません。

 光増幅器は光ファイバ増幅器に限られません。38項で紹介した半導体光増幅器も使用することができます。こちらは小さいので他の光部品とともにモジュール内などに実装するのに適しています。

(1)国際公開2002/061502号

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