光デバイス/光制御素子

6.フランツ-ケルディッシュ効果

 電界によって光の吸収端が変化する効果としては、量子閉じ込めシュタルク効果より以前からフランツ-ケルディッシュ(Franz-Keldysh)効果が知られています。

 この効果は1958年にドイツの物理学者フランツ(W.Franz)とロシア(当時はソビエト連邦)の物理学者ケルディッシュ(L.V.Keldysh)が互いに独立に見い出しました。量子閉じ込めシュタルク効果が知られるようになってからは少し影が薄くなってしまいましたが、ここではいろいろな半導体の効果を紹介しておきたいので、取り上げることにします。

 この効果は量子効果の一種ではありますが、量子井戸など特別な構造を用いない均一な半導体層で起こる現象です。半導体の光吸収スペクトルが電界印加によって変化する現象をここでは数式によらず定性的にのみ説明することにします。

 図6-1は一様な半導体層のバンド図ですが、電界 \(F\) がかかると図のように変化します(図のように横軸を距離 \(x\) にとると、伝導帯、価電子帯は傾き \(qFx\) で傾斜するのは量子井戸の場合と同じです。電界を印加しない \(F=0\) の場合、エネルギーバンドギャップ \(E_G\) より大きなエネルギーをもつ光が照射されると、その光は吸収され、例えば価電子帯のA点の電子は伝導帯のB点に励起されます。

 それでは電界がかかった場合にはどんなことが起こるかでしょうか。「負性抵抗素子」2~5項で説明したように価電子帯のA点の電子はトンネル現象によって半導体層の内部(例えばC点)に波動関数が入り込み、電子はバンドギャップ内にも存在する確率を持ちます。このギャップ内の電子が光によって励起されます。

 このとき受け入れ側の伝導帯においてもギャップ内に入り込んだところ(D点)に励起が可能になるのが重要な点で量子現象の特徴です。したがって電界がかかっている場合、光の吸収は図のようなエネルギー \(E_{FK}\) で起こります。これは電界がない場合の \(E_G\) に比べて小さくなります。

 このため、光の吸収端は電界がかかると長波長側にずれることになります。ただし量子閉じ込めシュタルク効果のように量子準位が変化するような現象ではないので、吸収スペクトルが平行移動するような変化ではなく、図6-2に示すように吸収スペクトルが吸収端付近で低エネルギー側に広がるような変化になる点が異なります。

 以上がフランツ-ケルディッシュ効果です。電界 \(F\) が実際に印加が可能な\(10^5~10^6\) V/cm程度の大きさで十分観測が可能と言われています。「負性抵抗素子」のところで用いたモデル等を用いれば、定量的にどの程度吸収波長が変化するかを見積もることもできますが、ここでは省略します。

 フランツ-ケルディッシュ効果を利用した光変調素子としてはInP系を用いた例(1)(2)が提案されていますが、実用的に用いられるには至っていません。

(1)特開平02-39467

(2)特開平03-291617