光デバイス/光制御素子

7.屈折率変化を利用した光変調

 3~6項では半導体の光吸収特性の変化を利用した光変調素子について紹介してきました。これ以外の原理を使った光変調としては、屈折率の変化を使ったものがあり、むしろこちらの方がこれまで主流だったと言ってもよいかも知れません。半導体よりもむしろ誘電体、とくに強誘電体を使った素子が長く研究され一部実用化したものもあります。

 この屈折率変化を利用した光変調には原理の異なる多くの種類が提案されてきました。また屈折率の変化が起こる物理現象もいろいろあります。そこでここではこれらを分類整理しておきます。

 まず屈折率変化を利用する光変調(強度変調)の原理と手段を整理しておきます。

1)光変調の原理

(a)光の干渉を利用するもの

 光は波の性質をもっていますから、その波を特定する要素として「位相」をもっています。位相の同じ2つの波が重なると強めあいますが、位相が180°異なる2つの波が重なると相殺され光の強度が0になります。これが干渉という波の性質です。そこで位相を制御できれば、干渉現象を利用して光の強度を変調できることがわかります。

 干渉を利用した光学系として各種干渉計が知られています。その一つが図7-1に示す光学系でマッハ-ツェンダ干渉計と呼ばれています。この光学系では図のように入力光を2つに分けます。分けた後の2つの光路は再び合流され出力光となります。

 このとき、2つに分けた光路がまったく対称な形で光路の長さが等しければ、出力光は図7-2(a)に示すように、入力光と変化のないものになります。より正確に言えば、合流点で光波の位相が一致していれば、出力光は入力光と位相変化のないものになります。一方、2つの光路を経由した光の位相が半波長分ずれていると図7-2(b)に示すように出力光は相殺されて出てこないことになります。

 一方の光路の光路長を他方の光路の光路長と比べて光の使用波長の1/2に相当する長さだけ長く(または短く)なるようにすれば、この光を再び合流させると干渉によって光の強度が減少します。物理的な光路の長さを精密に変化させることは難しいですが、一方の光路の屈折率を変えることができれば実質的に光路長が変えられるので、これを利用して変調ができます。

(b)光の反射を利用するもの

 2つの屈折率の違う媒体が接している場合、屈折率の大きい側から光が入射されるとその入射角が臨界角より大きいと全反射が起きますが、臨界角より小さいと全反射は起きず、光は屈折率の小さい媒体中に入射します。この臨界角を \(\theta_c\) とし、接する2つの媒体の屈折率を \(n_1\)、\(n_2\)、ただし \(n_1 \lt n_2\) 、とすると、「結晶光学」2項で示すように

\[\sin\theta_c =\frac{n_1}{n_2}\]

の関係があります。

 そこで図7-3に示すように、光を屈折率の大きい側から臨界角 \(\theta_c \) に等しい角度で入射するとします。屈折率の小さい側の屈折率を \(n_1 \) 固定とし、屈折率の大きい側の媒体の屈折率 \(n\) を変化させるとします。いま \(n \gt n_2 \) とすると光は全反射し、光検出器1で検知されます。\(n \lt n_2 \) とすると光は屈折率 \(n_1\) の媒体の側へ進入し。光検出器2で検知されます。

 そこでいずれかの光検出器で検知される光は屈折率 \(n\) の値を制御すれば変調されることになります。ただしどのような手段を使っても屈折率の変化割合は0.1%程度と小さいので、図のような単純な光学系では実現が難しいと考えられます。実際の構成については後の項で説明します。

(c)光の閉じ込めを利用するもの

 (b)に近いとも言えますが、光ファイバなどの光導波路は光路となるコアの屈折率をその周囲のクラッドと呼ばれる部分の屈折率より高くすることによって、簡単に言えば全反射と同様な原理によってコア内に光を閉じ込め、光をコア内に閉じ込めたまま伝えることができます。コアとクラッドの屈折率差を変えると導波路への閉じ込めの強さが変わります。屈折率差が小さくなると光のエネルギーの一部がクラッド内へ漏れるようになります。この現象を利用してクラッド層の屈折率を変えればコアを伝わる光を変調することができます。図7-4のように平行な2本の導波路を近接させます。これを方向性結合器と呼んでいます。そしてこの近接した部分の導波路の間のクラッド部分の屈折率を変化させます。一方の導波路から入射した光はその導波路に閉じ込められている場合はそのまま同じ導波路を進みますが、導波路の閉じ込めが弱いと光は導波路が近接した部分で他方の導波路へ乗り移り、そちら側の導波路から出力されます。これによって元の導波路(またはもう一方の導波路)から変調された光出力を得ることができます。

(2) 屈折率を変化させる手段

(a)電界(電気光学効果)  誘電体や半導体の結晶に電界を印加すると、屈折率が変化する現象です。結晶の構造と電界の方向によって屈折率変化の様子が変わります。ニオブ酸リチウム(LiNbO3)などの強誘電体材料がよく知られていますが、GaAsなどの半導体も利用することができます。次8項参照。

(b)電流(キャリア注入効果)  半導体特有の効果です。半導体に電流を流してキャリアを注入し、伝導帯、価電子帯をキャリアで充満させてしまうと、光を照射しても新たにキャリアが生成し難くなります、すなわち光吸収が起き難くなります。これはむしろ前項まで紹介した吸収の変化に属する現象と言えます。しかし後で紹介しますが、吸収の変化と屈折率の変化は対応していますから屈折率を変化させる手段としても利用できます。11項参照。

(c)磁界(磁気光学効果)  結晶に磁場を加えると屈折率が変化する現象があります。ただし物質の磁性と関わりがあるため、顕著な効果をもつ材料は限られます。半導体が対象になることはほとんどありません。9項参照。

(d)温度(熱光学効果)  ほぼどんな固体でも屈折率は温度依存性をもっていますから、温度によって屈折率を制御できます。16項追補参照。

(e)応力(音響光学効果)  結晶に応力を加えると屈折率が変化します。応力を加えるのによく使われる手段は超音波です。超音波を結晶表面に伝搬させるとその波動の強弱にしたがって応力の強弱が発生し、これが伝搬します。この波を表面弾性波(surface acostic wave, SAW)と言います。これを伝搬させると、結晶表面に周期的な応力変化部分ができ、それにしたがって屈折率が周期的に変化した状態ができます。これは回折格子ですから、そこに光を入射させると回折格子による反射が起こります。この回折格子は表面弾性波が伝搬しているときだけ発生しますから、全反射の場合と同様に変調が可能です。結晶として半導体が使われる場合もあります。10項参照。

(f)光(非線形光学効果、フォトリフラクティブ効果)  光を照射することによって屈折率を変化させることができます。原理の異なるいくつかの効果があります。光は電磁波ですから物質に入射すると原子と相互作用を起こします。上記の電気光学効果は直流電界による効果でしたが、電磁波の場合が非線形光学効果です。ほとんど材料を選びませんが、かなり強度の大きい光が必要です。11項参照。

 フォトリフラクティブ効果というのはつぎのような少し特殊な効果です。場所によって強度が周期的に変化する光を結晶に照射した場合、光の当たっている部分と当たっていない部分でキャリア濃度が異なります。これによって周期的な電界が発生し、電気光学効果によって屈折率の周期的な変化すなわち回折格子ができるというものです。11項追補参照。

 以上から(1)×(2)の組み合わせによる光変調素子が可能性としては考えられるので、極めて多岐にわたります。以下の項ではこのうち半導体によって実現できるものを中心に取り上げていきます。