電子デバイス/負性抵抗素子
4.トンネル確率(モデル計算)

 「半導体デバイスの物理」21項で求めたトンネル確率はポテンシャルが一定な場合でした。ポテンシャルが位置に対して変化する場合も考え方は同じですが、境界条件が定めにくい場合などはやや近似的に考える必要があります。

 まず図4-1のような任意の \(x\) 方向に変化するポテンシャル障壁を考えます。

電子のエネルギー \(\varepsilon \) は \(x\) が \(a\) から \(b\) の間で障壁のポテンシャル \(V\left ( x \right )\) より小さいとします。この場合、きっちりした境界条件の設定ができません。言えるのは例えば \(x \rightarrow -\infty \) ではポテンシャル \(V\) は 0 になるので、波動関数 \(\psi\) はおおよそ \[\psi\simeq\exp\left ( ik_{1}x \right ) + A\exp\left ( -ik_{1}x \right )\tag{1}\] のように書けそうだということです。ただし \[k_{1}=\frac{1}{\hbar}\sqrt{2m^{*}\varepsilon }\] ここで右辺第1項は図の左から右へ進み、障壁に入射する電子を表し、第2項は障壁で反射される電子を表します(\(A\) は定数)。

 いま問題にしているトンネル現象に関係する電子のエネルギー \(\varepsilon \) は障壁のエネルギーより小さい \(\varepsilon \lt V\left ( x \right )\) \(x\) の場合ですから、\(x\) の範囲では \(a \le x \le b \) にある場合です。この範囲で左から右に進む電子の波動関数 \(\psi_{+}\) はWKB近似による前項(9)式を参照すれば、 \[\psi_{+} \sim\exp\left ( -\int_{a}^{b}\left | k_{2}\left ( x \right )\right | \mathrm{d}x\right ) \tag{2}\] のように書けると考えられます。ただし \[k_{2}\left ( x \right ) =\sqrt{2m^{*}\left \{ V \left ( x \right ) -\varepsilon\right \}}\] です。

 電子が障壁を透過する確率、透過率すなわちトンネル確率 \(T\) はおおよそ \[T=\left | \psi_{+} \right |^{2} \simeq\exp\left ( -2\int_{a}^{b}\left | k_{2}\left ( x \right ) \right | \mathrm{d}x\right ) \tag{3}\] と書けると考えられます。

 つぎにポテンシャル \(V\) が \(x\) に対して直線的に変化する具体例を考えます。第1の例は図4-2のようなポテンシャルです。\(x\) 軸に沿って電子が障壁をトンネルするとすれば \(x\) の範囲は \(-x_1 \sim x_2 \)の範囲を考えます。

\[x=-x_{1}~~~~~~~~\varepsilon = W\] \[x=x_{2}~~~~~~~~\varepsilon = 0\]  電界 \(E\) は \[eE=\frac{W}{x_{1} + x_{2}}\] と表されます。

 (3)式よりトンネル確率 \(T\) は \[T\simeq\exp\left [ -2\int_{-x_{1}}^{x_{2}}\sqrt{\frac{2m^{*}}{\hbar^{2}}\left ( \frac{w}{2}-eEx\right )} \mathrm{d}x\right ]\] となります。積分が計算できて \[T\simeq\left [ \exp\left [ \frac{4}{3}\frac{\sqrt{2m^{*}}}{eE\hbar}\left ( \frac{W}{2}-eEx\right )^{3/2}\right ] \right ]_{-x_{1}}^{x_{2}}\] \[=\exp\left ( -\frac{4\sqrt{2m^{*}}W^{3/2}}{3e\hbar E}\right )\tag{4}\] となります。

 もう一つは図4-3のような2次関数のポテンシャルの例です。\(x\) が \(-x_1\) と \(x_2\) の間でポテンシャル \(V\left ( x \right )\) は \[V\left ( x \right ) -\varepsilon = \frac{\left ( W/2 \right )^{2}-\left ( eEx \right )^{2}}{W}\] と書けるとします。

 同様な計算ができ、トンネル確率 \(T\) はつぎのように計算できます。 \[T=\exp\left [ -2\int_{-x_{1}}^{x_{2}}\sqrt{\frac{2m^{*}}{\hbar^{2}}\left ( \frac{W^{2}/4-e^{2}E^{2}x^{2}}{W} \right )}\mathrm{d}x \right ]\] 積分を実行するために \[y=2eEx/W\] と変数変換を行い、 \[T=\exp\left [ -\frac{m^{*1/2}W^{3/2}}{\sqrt{2}e\hbar E}\int_{-1}^{1}\left ( 1-y^{2} \right )^{1/2}\mathrm{d}y \right ]\]

再度 \(y=\sin z\)、\(\mathrm{d}y=\cos z\mathrm{d}z\) と変換すると、上式の積分は

\[\int^1_{-1}\left ( 1-y^2 \right )^{1/2}\mathrm{d}y =\int^{\pi /2}_{-\pi/2} \cos^2 z\mathrm{d}z=\pi\]となり、

\[T=\exp\left ( -\frac{\pi m^{*1/2}W^{3/2}}{\sqrt{2}e\hbar E} \right )\tag{5}\] が得られます。