電子デバイス/絶縁ゲート電界効果トランジスタ
6.IGFETの動作特性(ドレイン電流)
IGFETでのソース-ドレイン間を流れるドレイン電流とゲート-ソース間電圧の関係を前項で説明しましたが、ここではドレイン電流とドレイン-ソース間電圧の関係について説明します。
最初に取り上げた各特許には例えば図6-1のようなソース-ドレイン間を流れる電流の特性が載っています(1)。これが典型的なソース-ドレイン間の電圧に対する電流の特性です。横軸はソース-ドレイン間にかけた電圧Vdsで、縦軸がこの回路を流れるドレイン電流Idです。ゲート-ソース間電圧(ゲート電極とソース電極またはバックゲート電極の間にかけた電圧、Vgs)をいろいろ変えたときの特性が描かれています。Vdsを増やしていくと最初、Idは増えますが、やがてほとんど一定になってしまいます。
ドレイン電流Idがどうして図6-1のような特性を示すのかを考えます。nチャンネルIGFETのゲートにプラスの電圧をかけると、酸化膜と半導体の界面には電子が貯まり、反転層(nチャンネル)が形成されることは前に説明した通りです。この状態で図6-2(図5-1(B)と同じ)のようにドレインがプラス、ソースがマイナスになるようにソース-ドレイン間に電圧をかけると反転層の電子はソースからドレインに向かって流れます。ゲート電圧をプラス方向に増やしていくと貯まる電子の量も増えますから、電流は大きくなります。
あるゲート電圧で一定量の電子がチャンネルを作っているだけなら、ソース-ドレイン間の電圧を増やすと電流もそれに比例して増えていくはずです。電圧が小さい範囲で電流がほぼ直線的に増加している領域がこれに当たります。ソース-ドレイン間電圧を大きくしていくとなぜ電流が増えなくなってしまうのでしょうか。これは以下のように説明されます。
ソースとドレインの電極部分はその部分だけn型に変えられています。つまりp型基板との間にpn接合ができています。ソースにマイナス、ドレインにプラスの電圧がかかっていると、ソース側では電子が流れ込みやすくなっていますが、ドレイン側からは電子が流れ込みにくくなっています。前項で、酸化膜と半導体の界面にできる空乏層の話をしましたが、pn接合に逆方向の電圧をかけた場合もその境界部分には電子も正孔もいない空乏領域ができます。この空乏領域は電圧が大きくなるほど広がります。ドレイン周辺にできる空乏領域は電圧が大きくなってくると広がってやがてチャンネルにいる電子も追い出すようになります。つまりドレイン付近では図6-3に示すように反転層が途切れてしまうのです。
チャンネルが途切れると電流は流れなくなってしまうように思われますが、そうはなりません。ドレインには大きなプラスの電圧がかかっているので、電子を引き寄せるはたらきはもっています。ソース側に残っているチャンネルから電子が空乏領域に入れば、強い電界に引かれてドレインに流れ込みます。チャンネルがつながっているときは電圧を大きくしてソースから供給する電子を多くすればそれがそのままドレイン側に押し出されるので、流れる電流が電圧とともに大きくなりましたが、チャンネルが切れてしまうと状況が変わります。ソース側に貯まっている電子が空乏領域に流れ込む量は電圧を大きくしてもあまり変わりません。つまり電圧が増えても電流は増えなくなります。
以上がなぜドレイン電流Idが図6-1のようになるかの説明です。IGFETはゲートの方はコンデンサに貯まる電荷の話で、ソース-ドレインの方はnpn接合の話になり、これが組み合わさっているのです。この辺が少しわかりにくいですね。数式を用いたもう少し詳しい説明は「半導体デバイスの物理」18項などを参照してください。
(1)特公昭41-3418号