科学・基礎/半導体デバイス物理

18.IGFETのドレイン電流特性

 IGFETの動作原理についてはすでに説明しているので、詳細は繰り返しません(IGFETのセクション参照)。一言で言えば前項までに紹介したように金属-絶縁体-半導体構造において半導体表面が電圧印加により空乏状態になったり反転状態になったりするのを利用しています。トランジスタの動作は電流を制御することにありますが、金属-絶縁体-半導体構造では絶縁体が挟まっているので各層を横切って電流を流すことはできません。そこで横方向つまり半導体表面に平行な方向に電流を流すようにします。以下ではこの電流の式を導きます。

 まず対象とするIGFETの構造と外部結線を図18-1に示します。ここではこれまでn型半導体の場合について考えてきたので、ここでもそれを踏襲します。この場合、ソース-ドレイン間のチャンネルを流れるキャリアは正孔となりますので、pチャンネル型と呼ばれます。

 チャンネル方向にx軸をとり、ソース側の端部を \(x=0\) とします。チャンネルの長さを \(L\)、幅(図の奥行き方向)を \(W\) とします。チャンネルを流れる電流を通常ドレイン電流 \(I_{D}\) と呼びます。この \(I_{D}\) は \[I_{D}=WQ_{p}\left ( x \right )\mu _{p}E\left ( x \right )\] と書けます。ここで \(Q_{p}\left ( x\right )\) はチャンネル内x点の正孔による電荷密度、\(\mu_{p}\) は正孔の移動度、\(E\) はx方向の電界です。電位 \(V\) を用いて書き直すと \[I_{D}=-WQ_{p}\left ( x \right )\mu _{p}\frac{\mathrm{d} V\left ( x \right )}{\mathrm{d} x}\tag{1}\] となります。

 一方、チャンネルに垂直方向を考えると、反転状態のときのチャンネル内の反転電荷の量 \(Q_{p}\left ( x\right )\) は \[Q_{p}\left ( x \right )=-C_{0}\left ( V_{GS}-V_{th} \right )\] と書けます。ここで \(V_{th}\) はしきい値電圧と呼ばれますが、この電圧の意味は元のn型半導体中の電子濃度と等しい反転電荷が半導体表面に生じるときの電圧で、反転状態がはっきりと生じる電圧を意味します。IGFETの場合にはフラットバンド電圧 \(V_{FB}\) よりこの \(V_{th}\)を基準として使いますので、これを以下に定義しておきます。

 n型半導体中の電子濃度 \(n\) は \[n=n_{0}\exp \left ( \frac{E_{F}-E_{i}}{kT} \right )\] です。ここで \(n_{0}\) は真性キャリア濃度、\(E_{i}\) は真性半導体のフェルミエネルギーつまりバンドギャップ中央のエネルギー、\(E_{F}\) はn型半導体のフェルミエネルギーです。

 表面に反転電荷 \(Q_{p}\) が生じているとき、表面でのフェルミエネルギーを \(E_{Fs}\) とすると \[p\left ( 0 \right )=n_{0}\exp \left ( \frac{E_{i}-E_{Fs}}{kT} \right )\] ですから、この \(p \left ( 0\right )\) が \(n\) に等しいとすると \[E_{F}-E_{i}=E_{i}-E_{Fs}\] です。いま \[E_{i}-E_{F}=e\phi _{b}\] と置くと、図18-2に示すように、半導体表面にかかる電位差 \(\phi_{s}\) が \[\phi _{s}=2\phi _{b}\] のとき、 \[p \left ( 0\right)=n\] となることがわかります。したがってこのときのゲート電圧 \(V_{GS}\) が \(V_{th}\) であると定義されます。

 このときの \(Q_{p}\) を \(Q_{pm}\) とすると \[V_{th}=-\frac{Q_{pm}}{C_{0}}+2\phi _{b}\] です。ただし \(C_{0}\) は絶縁体層の容量です。

 この \(Q_{pm}\) を \(\psi_{s}=2\phi_{b}\) のときの空乏層電荷とすると \[Q_{pm}=2\sqrt{eN_{D}\varepsilon \varepsilon _{0}\phi _{b}}\tag{2}\] と表されます。なお、\(V_{GS}\) が \(V_{th}\) を越えて負電圧になると、反転電荷が急激に増加し、空乏層はこれ以上広がりません。したがって高周波容量は一定となります。

 (2)式より、\(V_{th}\) はドナー濃度 \(N_{D}\) と絶縁体層の容量(言い換えれば厚みと誘電率)で決まることがわかります。もちろんこれは理想的な場合で、実際に界面準位等により変動が生じるのはフラットバンド電圧と同じです。そこでそのずれ分を考慮したフラットバンド電圧を \(V_{FB}\) とすれば、実際のしきい電圧 \(V_{th}\) は \[V_{th}=V_{FB}-\frac{Q_{pm}}{C_{0}}+2\phi _{b}\] となります。

 さて話をもとに戻して、IGFETに図18-1のように電源を接続して反転状態が生じるようにゲート電極と半導体基板間に \(V_{GS}\) を印加し、それとは別にドレイン-ソース間に \(V_{DS}\) を印加します。このとき \(x\) 点における電位が \(V \left ( x\right )\) であるとすると反転電荷は \[Q_{p}\left ( x \right )=-C_{0}\left [ V_{GS}-V_{th}-V\left ( x \right ) \right ]\] と表されます。これを(1)式に代入し、\(x\) についてチャンネル長にわたって積分します。 \[\int_{0}^{L}I_{D}\mathrm{d}x = W\mu _{p}C_{0} \int_{0}^{L}\left [ V_{GS}-V_{th}-V\left ( x \right ) \right ] \frac{\mathrm{d} V\left ( x \right )}{\mathrm{d} x}\mathrm{d}x \] ただし、\(x=0\) では \(V=0\)、\(x=L\) では \(V=V_{DS}\) です。

 ソース-ドレイン間で反転層が均一に形成されているとすると \[V\left ( x \right )=\frac{V_{DS}}{L}\] であり、この場合に \(I_{D}\) は \[I_{D}=\frac{W}{L}\mu _{p}C_{0}\left [ \left ( V_{GS}-V_{th} \right )V_{DS} -\frac{1}{2}V{_{DS}}^{2}\right ]\tag{3}\] となります。この式の特徴を以下のように(a)(b)(c)に場合分けして調べます。図18-3はこの(a)(b)(c)に対応しています。

(a)\(V_{DS}\ll V_{GS}-V_{th}\) の場合(図18-3(a))  

\(V_{DS}\) が小さいので、(3)式は \[I_{D}=\frac{W}{L}\mu _{p}C_{0}\left ( V_{GS}-V_{th} \right )V_{DS}\tag{4}\] と近似され、\(V_{GS}\) を一定としたとき、\(I_{D}-V_{DS}\) 特性は直線になります。

(b)\(V_{DS}=V_{GS}-V_{th}\) の場合(図18-3(b))  

\(x=L\) の点では \[V_{GS}=V_{th}+V\left ( L \right )=V_{th}+V_{DS}\] となりますが、\(V_{GS}\) はこれより大きくならないと反転層は発生しないので、 \[V_{DS}=V_{GS}-V_{th}\] となると、\(x=L\) でチャンネルが切れてしまうことを意味します。このときの \(V_{DS}\) をピンチオフ電圧といいます。記号としては \(V_{p}\) とします。このとき \(I_{D}\) は \[I_{D}=\frac{1}{2}\frac{W}{L}\mu _{p}C_{0}\left ( V_{GS}-V_{th} \right )^{2}\tag{5}\] となります。したがって \(I_{D}\) は \(V_{DS}\) によらず一定となります。

(c)\(V_{DS} \gt V_{GS}-V_{th}\) の場合(図18-3(c))  

こうなるとチャンネルは完全に切れ、反転領域はチャンネルのソース電極側の一部(\(x \le L'\) とします)だけになります。このとき \[V_{GS}=V_{th}+V\left ( L' \right )=V_{th}+V_{DS}\] ですから、この場合も \[V_{DS}=V_{GS}-V_{th}\] が成り立っています。このためドレイン電流 \(I_{D}\) は上式と同じで一定となります。

 以上の \(I_{D}-V_{DS}\) 特性を計算した例を図18-4に示します。各曲線は異なる \(V_{GS}\) について示してあります。\(V_{DS}\) が大きく、\(I_{D}\) が一定になる領域を飽和領域と呼んでいます。飽和領域のドレイン電流に達するときの \(I_{D}\) と \(V_{DS}\) すなわちピンチオフ電圧 \(V_{p}\) は図中に破線で示したように \[I_{D}=\frac{1}{2}\frac{W}{L}\mu _{p}C_{0}V_{p}^{2}\] の関係があります。