電子デバイス/絶縁ゲート電界効果トランジスタ

4.電界効果

 IGFETではソース-ドレイン間を流れる電流をゲート電圧によってコントロールしていることは前項で触れましたが、その原理をもう少し説明しましょう。

 ゲートには絶縁膜があるのでゲート電極と半導体の間に電圧をかけるとコンデンサができ、ゲート電極と半導体には極性が逆で同じ量の電荷が貯まります。この電荷の量は電圧に比例して変化しますが、電極の片側が半導体であるために、両電極とも金属電極の普通のコンデンサとは少しちがったところがあります。

 簡単な構造で説明します。いま半導体が前項の例と同じp型であるとします。つまり半導体中には正の電荷をもつ正孔がたくさんいます。この上に絶縁膜が着き、さらにその表面に金属の電極が着いた図4-1のようなダイオード構造を考えます。

 まず同図(a)のように電極にマイナスの電圧をかけると、半導体中の正電荷(正孔)が絶縁膜との界面に集まってきて、ゲート電極の負電荷とバランスします。正孔が界面付近に蓄積しているのでこれを蓄積層と言い、この状態を蓄積状態と呼んでいます。これは絶縁膜の両側に電極を着けた普通のコンデンサとほぼ同じ状態と考えられます。

 つぎに電極に正電圧をかけた場合はどうなるでしょうか。この場合は半導体側には負の電荷がなければいけません。正電荷の正孔は絶縁膜との界面から遠ざけられます。その場合、正孔のいないp型半導体中では、正孔を離した状態のアクセプタ不純物が残っています。これは負電荷をもっていますが、このアクセプタ不純物は半導体結晶中を動くことはできませんから電極の正電荷とつりあう負電荷が生じるように正孔のいない半導体領域が図4-1(b)のように広がります。この正孔がいない領域のことを空乏層と言い、この状態を空乏状態と呼びます。この状態は普通のコンデンサとはまったく違った金属-絶縁体-半導体構造特有の状態です。

 しかし正のゲート電圧が大きくなってくると空乏層はいつまでも限りなく広がることはできず、図4-1(c)に示すように本来p型半導体中には少ししかいない電子が絶縁膜界面付近に集まってきます。p型半導体なのに電子がたくさんいる状態なので、これを反転層と言い、この状態を反転状態と呼びます。この場合も正負の電荷が絶縁膜の両側に集まっていて、この電荷は動ける電荷の電子ですから、普通のコンデンサと似た状態になります。ただし蓄積状態とは極性が逆になります。

 上記のような状態を調べるにはコンデンサですから静電容量の測定が行われます。普通のコンデンサの静電容量はかける電圧を変えても変化しませんが、金属-絶縁体-半導体構造の静電容量は電圧によって変化します。典型的な静電容量C-電圧V特性を図4-2に示します。

 静電容量は交流信号によってコンデンサに流れる電流を測定して求めることができます。この測定では直流電圧を電極と半導体の間にかけ、これを変化させながら静電容量を測定します。静電容量の測定に用いる交流信号はその振幅を直流電圧に対して十分小さくして計ります。

 図の青色で示した曲線は交流の周波数を数100Hz以下と十分低くしたとき測定される特性を示します。一方、赤色で示した曲線は交流の周波数を数MHz程度と高周波にしたときに測定される特性です。

 青色の曲線をまず見ると、ゲート電圧が負から0V付近では蓄積状態であるので静電容量はほぼ一定になります。容量値は絶縁膜の容量Cを示します。電圧が0Vに近づき、さらに正の方へ増加すると、容量値は減少を始めます。このようなことは普通のコンデンサでは起こりません。この電圧範囲では空乏状態になっているはずで、空乏状態の半導体中には動ける電荷はないので、この部分は絶縁体と同じです。つまり絶縁膜の静電容量Cと半導体の空乏層の静電容量Cが直列になっていると考えられます。このとき全体の容量Cは

  \[C=\frac{1}{C_{i}}+\frac{1}{C_{d}}\]

または

   \[C=\frac{C_{i}C_{d}}{C_{i}+C_{d}} \]

と表されますから、Cが電圧が正に大きくなるにつれて空乏層の幅が広がるにつれてCが小さくなると、Cも減少します。この変化が電圧が正になったとき、現れてきます。  さらに電圧が正に大きくなると、静電容量は再び増加しCの値に戻っていきます。これは反転状態が生じ、絶縁膜-半導体界面に電子が貯まってきたことを示します。この電子の存在によって絶縁膜による普通のコンデンサができ、その静電容量が測定されることになります。

 一方、高周波で測定した場合、容量が減少するところまでは同じですが、反転層が生じたことによる容量の増加が見られず、容量は小さな値で赤色の曲線で示すようにほぼ一定となります。どうしてこうなるかはつぎのような理由によります。反転層で生じる電子は本来p型層中では非常に少ない量しかいないので少数キャリアと呼ばれます。この少数キャリアはたくさんいる多数キャリア、ここでは正孔に比べると速く動けない性質をもっています。高周波で測定すると電子はそれについて動けません。測定周波数に対して動かない電荷は静電容量の測定には関与できませんから、電圧が高くなって反転状態が生じても容量は増加しないことになります。これは蓄積状態とは違う反転状態が生じていることの証明にもなります。

 以上が金属-絶縁体-半導体構造に電圧をかけたときどのようなことが起こるかの説明です。さらに数式を用いた説明については「半導体デバイスの物理」の15~17項などを参照してください。