電子デバイス/絶縁ゲート電界効果トランジスタ
3.IGFETの基本構造と動作
絶縁ゲート型電界効果トランジスタ(IGFET)の基本動作を考えてみます。前項では歴史的な説明のために最初の特許から図面を引用しましたが、少しわかりにくいところもあるので、改めてIGFETの断面図を描いてみました(図3-1)。
3極の名前は現在ではソース、ドレイン、ゲートが定着しています。前項で示した2件の特許には、この名前はなく、真空管と同じアノード、カソード、グリッドが使われています。ソース、ドレイン、ゲートの命名者は誰なのでしょうか。どうもShockleyのようです。1951年出願の米国特許には電界効果トランジスタのアイデアが書かれています(1)。ただしこれは接合型と呼ばれるpn接合を使ったタイプなのですが、このなかに3つの電極をソース、ドレイン、ゲート「と呼ぶものとする」(”shall be termed・・・”)と書かれているので間違いなさそうです(第3コラム、7行目、14行目参照)。
ご存じのようにバイポーラトランジスタではエミッタ、コレクタ、ベースですから、これとも区別するための命名だと思います。さてこれらの意味ですが、ドレイン(drain)は排水溝という意味です。ソース(source)は源(みなもと)ですが、ドレインに対応するなら水源でしょうか。水源が大げさなら蛇口でもいいかも知れません。ゲート(gate)は言うまでもなく門ですが、水に関してなら水門ということになります。下手なマンガですが、水源から出た水が傾斜に沿って流れ排水溝に流れ込み、その間に水門があって流れの水量をコントロールするというイメージを描いてみました(図3-2)。
この水の流れは電子(または正孔)の流れを例えたものです。ソース電極をマイナス、ドレイン電極をプラスにすると、電子はソースを出てドレインに向かって流れます。このとき言ってみればゲートのところで流路の幅を変えることができれば、通過する電子の量、すなわち流れる電流の量をコントロールできることになります。図3-3はこれをイメージで表した図です。
もう少し図3-1に戻ってIGFETの構造を説明しましょう。この図では半導体基板はp型です。ソースとドレインの付近はn型になっています。pn接合は普通、半導体基板の上に薄い層を重ねたものや薄い層同士を積み重ねたものですが、このようにp型半導体の一部分だけをn型に変えることもできます。ソースとドレインは対称な構造ですから入れ替えても動作は同じです。
以下ではp型基板の場合を例にとって説明しますが、n型基板の場合はp型とn型を入れ替え、電子を正孔に、正孔を電子にそれぞれ読み替えていただければ、あとの説明は共通です。
さて、ここで誤解してはいけないのは、ソース-ドレイン間を流れるのは電子です。p型半導体なのでたくさんある正孔が流れるように思いがちですが、チャンネル(channel)と呼ばれる流路を流れるのは電子です。このタイプのトランジスタはnチャンネルIGFETと呼ばれます。逆にn型基板を使ったものはpチャンネルIGFETとなります。なぜp型半導体中に電子が流れるのかは後で説明しますが、ソース領域のn型部分から電子が供給されてドレインへ向かって流れることになります。
IGFETの最大の特徴はその名の通り半導体とゲート電極の間に絶縁膜があることです。このため、ゲート電極に電圧をかけても、ここから半導体に向かって電子や正孔が流れ込むことはありません。図3-1のゲート電極とソース電極の端子間に電圧をかけると絶縁膜中に電界ができ、これが半導体側に影響を与えます。チャンネルは絶縁膜と半導体の界面に沿っていますから、ここを流れる電子はこの電界によってコントロールされることになります。このゲート電極による電界の効果によってコントロールされるトランジスタであることから、電界効果トランジスタ(FET)と呼ばれているのです。
半導体としてシリコンを使う場合、絶縁膜としてはシリコンの酸化膜が使われます。これは酸素のなかでシリコンを加熱するだけで質のいい絶縁膜ができるからです。シリコンの表面が絶縁膜で覆われてしまってはソース、ドレインに線をつなげませんから、この部分の絶縁膜は取り除き、金属膜を半導体に直接接触させて電極にします。ゲート電極はこのソース、ドレイン電極に接触しないように絶縁膜の上に作ります。なお、半導体の裏側にバックゲート電極という電極を着け、ゲート電極とこのバックゲート電極の間に電圧をかける場合もあります。
このような構造のIGFETのソース電極とドレイン電極の間に直流電源をつないで電圧をかけると電流が流れます。ゲート電極とソース電極(またはバックゲート電極)の間にも電圧をかけますが、このゲート電圧を変化させるとソース-ドレイン間を流れる電流を変化させることができます。ゲート電極には電流は流れませんから、電力は消費されません。つまりソース-ドレイン間電流の制御をエネルギーをかけずに行えるという理想的なトランジスタなのです。
(1)米国特許2744970