電子デバイス/薄膜トランジスタ

1.はじめに

 薄膜トランジスタはTFT(ティーエフティー)という方が通りがいいかもしれません。TFTは"Thin Film Transistor"の略ですが、ある時期にはノートパソコンの液晶ディスプレイの謳い文句としてこの語を広告等でよく目にしました。今やデスクトップ型パソコンの液晶ディスプレイや大型の液晶テレビが普及し、これらではTFT方式は当たり前になっています。

 液晶は液体ですからガラスの容器(セル)に入れ、これに電圧をかけると光を通したり、通さないようにしたり、切り換えることができます。ディスプレイにするにはこの液晶のセルを区分けして多数の画素とし、一つ一つにかける電圧を切り換えて画像を表示します。一つ一つにかける電圧の切り換えは線状の電極を縦横に交差させて多数並べればできるのですが、一つ一つのセルにスイッチを設けた方がよりよいのです。何がいいかというとコントラスト、つまり明るいときと暗いときの差が大きくなり、画像がくっきりすること、むらが少なくなること、切り換えを高速でできることなどがあります。この一つ一つのセルに設ける多数のスイッチの役割を担うのがトランジスタ、とくにTFTです。

 碁盤の目のようにスイッチを並べると言えば、これまでに説明した半導体メモリやCMOS撮像素子などで絶縁ゲート電界効果トランジスタ(IGFET)を使って行われていました。ディスプレイでも基本は同じです。ただ撮像素子などでは素子の大きさはせいぜい数cm角程度でしたから、シリコン結晶の基板にIGFETを集積すれば実現できました。ところがディスプレイの場合、パソコン用でも10数インチと大きくなりますから、これをシリコン結晶基板で作ることは難しく、できたとしてもものすごく高価になってしまいます。また液晶ディスプレイの場合は基板が光を通す材料である必要があります。大きな面積のものを容易に得られ、かつ透明なものとなると、ガラスまたはプラスチックを基板材料として選ばざるを得なくなります。

 このような要求に応えてガラス基板などの上に半導体の薄膜を作り、そのなかにトランジスタを作り込んだものが薄膜トランジスタ(TFT)です。TFTは普通はバイポーラトランジスタではなく、電界効果トランジスタで、IGFETと同じような原理で動作します。

 この章ではTFTを実現するためのキーとなったアモルファスシリコン材料、TFTと結晶Siを用いたIGFETとの構造的な差異、アモルファスシリコン以外の材料といった話を中心に進めます。途中で液晶ディスプレイの原理についても触れます。