産業/標準化

13.JISの実例(6)-半導体デバイス(2)光デバイス-

 半導体デバイスのうちの光デバイスの方のJISは、と言うと、発光ダイオードには JIS C 5951「光伝送用発光ダイオード測定方法」とJIS C 8152「照明用白色発光ダイオード(LED)の測光方法」 とがあります。

 一方、半導体レーザについては JIS C 5940と5941が「光伝送用半導体レーザ通則」と「同測定方法」 があります。また、JIS C 5942と5943が「再生用及び記録用半導体レーザ通則」 と「測定方法」になっています。さらに受光素子については、 JIS C 5990「光伝送用フォトダイオード通則」 という規格があります。

 以上をみても、光デバイスそのものの規格は多くありません。ここでは発光ダイオードの照明への応用について着目してみます。

(a)照明用発光ダイオード

 照明用白色発光ダイオードのJIS C 8152をみてみます。この規格には枝番が1から3まであって、第1部は「LEDパッケージ」、第2部は「LEDモジュール及びLEDライトエンジン」、そして第3部は「光束維持率の測定方法」となっています。

 JIS C 8152-1:2019(第1部)は序文によると2012年に制定され、すでに2回の改正を経ていることがわかります。対応国際規格のない日本の独自規格です。LEDパッケージとはJIS C 62504:2016「一般照明用LED製品及び関連装置の用語及び定義」の定義によると、「LEDダイを封じ込んだ独立した電子部品」のことです。JISでは「ダイ」を使っていますが、チップとも言います。

 写真Aは規格にも図が載っている砲弾形パッケージの実例です。LEDチップとリード線と、それの間を接続する配線とを透明な樹脂で固めたものです。規格にはもう一つのタイプとして窓のついた金属パッケージにLEDチップを入れたタイプも示されていますが、こちらはコスト的に不利であまり使われなくなっています。

 JIS C 8152は、11箇条と4つの附属書で構成されています。11箇条の標題を列挙すると、1.適用範囲、2.引用規格、3.用語及び定義、4.標準LED、5.受光器、6.被測定LEDの点灯条件、7.光度測定、8.全光束測定、9.光源色測定、10.測定の不確かさ、11.測定結果の記載方法、となっています。

 [7.光度測定]では、CIE平均化LED光度の測定配置が図で説明されています。[8.全光束測定]は積分球中へのLEDの配置を図示して測定法を説明しています。[9.光源色測定]は測色用標準電球の発光色を基準にして相対分光分布を計算する方法などが記されています。

 第2部は測定対象をLEDモジュールとLEDライトエンジンに変えた規定です。LEDモジュールとは上記のJIS C 62504の定義によれば、「プリント配線基板などの上にLEDパッケージなどを実装した口金を備えない光源」のことです(口金を備えるとLED電球になりますが、これについては後述します)。つまりLEDモジュールは部品であるLEDパッケージをプリント配線基板などに通常、複数取り付け電流を供給すれば光源として機能するもののことです。

 LEDライトエンジンはこの規格の3.用語及び定義にあるように、「LEDパッケージやLEDモジュールを並べ、かつ多くの構造部品からなる照明器具の光源部ユニット」のことです。つまりLEDを使った照明器具の光源部のことを意味します。

 第3部は照明用LEDの寿命に関する評価方法の規定です。5.寿命点灯試験、6.光束維持率試験の2つの試験方法が規定されています。

(b)LED電球

 上記の照明用白色発光ダイオードは単体では一般に照明用として光量が不足です。普通は複数の素子からなるモジュールまたはライトエンジンを用いて照明用光源とします。LED電球はそのようなLEDを用いた照明用光源で、従来の白熱電球と交換して使えるように標準化されています。このLED電球が短い間によく普及したのはこの標準化の力によるところが大きいと思います。

 まず、従来の白熱電球の規格をみてみます。日本では白熱電球はもうほとんど生産されていないようですが、JISはまだ廃止されずに残っています。

 まずJIS C 7501「一般照明用電球」があります。外形寸法についてはJIS C 7709-0~3があります。共通の標題が「電球類の口金・受金及びそれらのゲージ並びに互換性・安全性」で、第0部が「電球類の口金・受金及びそれらのゲージ類の総括的事項」、第1部が「口金」、第2部が「受金]、第3部が「ゲージ」となっています(*)。ここで注目するのは口金と受金の規格です。

 電球の口金には普段あまり気付きませんが非常に多くの種類があります。第0部ではこれを記号で分類して示す「表示記号の付け方」が規格化されています。表示記号は6項もありますが、第1項は英字で口金の形式を表します。形式は一覧表で示されていますが、40種類近くあります。Eがねじ込み形(通称、エジソン形と呼ばれています)でもっとも一般的なタイプです。第2項は数字で主要部の外形寸法(mm単位)を示します。ねじ込み形の場合はねじ部の外径寸法です。もっとも一般的な電球はE26で、ねじ部の外径が26mmであるタイプです。第3項以下は省略します。受金の場合はそれに合う口金の記号の最後に「受金」と書いて示す約束です。

 また電球のガラス部分の形状については、JIS C 7710:1988「電球類ガラス管球の形式の表し方」が規定されています。管球の形を示す記号だけを規定した短い規格です。ガラス管球にも20種類以上の多くの形状が規定されています。一般的なものでは、普通の電球の形はA、球形(ボール形)はG、首が細く反射膜を付けた反射形はR等々です。

 以上は白熱電球用の規格で、LED電球は対象になっていません。LED電球のJISは上記の白色LEDのJIS C 8152に続く連番で以下のような多数の規格が近年急速に制定されました。

JIS C 8153 「LEDモジュール用制御装置-性能要求事項」

JIS C 8154 「一般照明用LEDモジュール-安全仕様」

JIS C 8155 「一般照明用LEDモジュール-性能要求事項」

JIS C 8156 「一般照明用電球形LEDランプ(電源電圧50V超)-安全仕様」

JIS C 8157 「一般照明用電球形LEDランプ(電源電圧50V超)-性能要求事項」

JIS C 8158 「一般照明用電球形LEDランプ(電源電圧50V超)」

JIS C 8159-1「一般照明用GX16t-5口金付直管LEDランプ-第1部:安全仕様」

JIS C 8159-2「一般照明用GX16t-5口金付直管LEDランプ-第2部:性能要求事項」

JIS C 8160 「一般照明用GX16t-5口金付直管LEDランプ」

 このなかでJIS C 8158とJIS C 8160をみてみましょう。

 JIS C 8158:2017の序文をみると、これは日本の独自規格であることがわかります。12箇条と4つの附属書からなっています。

 [1.適用範囲]には定格入力電圧は50V超え250V以下、口金はE26/25かGX53、発光色はいわゆる照明用の白色の範囲、有機EL光源も含めない、とかなり狭く限定することが記されています。

 なお、E26/25の口金とはJIS C 7709-1によると、ねじ込み形(エジソン形)で、スラッシュの前の数字26は、口金ねじ部の外径が26.2mm以下であることを示し、後の25はねじ部の軸方向の長さが24.6±0.5mmであるという意味です。25は最小で、27とか30のタイプも規定されています。E26/25はもっとも一般的な寸法のタイプと言えます。GX53の口金とはあまり見かけないと思いますが、2本のピンを受金の穴に差し込んで電気接続をとるタイプで、ピンの間隔が5.33mmのものです。

 [引用規格]で上記のJIS C 7709-1、7710を引用し、口金やガラス管球の外形を白熱電球と整合するようにしています。

 [4.形式及び種別]に図13-1のように全部で8項からなる記号が規定されています。第1項は英字で「LD」のあとに上記のガラス管球の記号(ただしA,G,Tだけでその他はF)、2項は定格入力電圧(100Vは省略可)、第3項は定格ランプ電力をW単位で、4項は光源色(電球色:L、昼白色:Nなど)、5項(ここからハイフンで区切ってもよい)は配光角(H:準全般配光かG:全般配光)、6項は上記の口金記号(ただしE26/25は省略可)、7項は特殊仕様、8項は付加的な記号で7,8項はなければ省略可でそれぞれの前はスラッシュで区切ってもよいことになっています。

 画像で実例を示します。写真Bは通常の白熱電球に近い外形で口金がE26/25のLED電球です。表示によると100V、6.6Wの電球色であることがわかりますが、記号は表示されていません。製品の外箱にはLDA7L-G-K40/W/2Tと記号が表示されています。外形A、100V、7W、電球色で、配光角は全般配光のG、口金E25/26は省略、以下は規格にない付加的な記号です。

写真Cは口金は同じくE25/26で電球側面に反射金属膜が設けられたタイプです。電球本体にLDR-4L-Wと記号が記されています。LDの後のRはLED電球の規格にはありませんが、白熱電球の反射形の記号を用いたものと思われます。4Lは4W出力の電球色、その後のWは不明です。ハイフンの使い方が規格と異なるようにおもわれます。

写真Dはボール形のLED電球です。LDG100L1と表示されています。LDの後のGはボール形、つぎの100は出力100W相当の意味のようですが、本来は実際の出力、例えば20W程度の値を記すべきです。Lは電球色です。これも口金はE25/26です。

 以上から、LED電球が今まで白熱電球が使われていた照明を容易に置き換えることが可能になり、これが普及のための大きな要因になったと言えます。標準化の大きな効果の例です。

(c)半導体レーザ

 半導体レーザについても触れておきます。半導体レーザの主な応用先である光通信用と光ディスクの読み書き用についてそれぞれ通則と測定方法の規格があります。通則の方は規格としては用語の定義を除くと、参考程度で規格としての実効性はあまりないように思われます。測定方法の方は多くの測定方法を規定していて標準として意味があると思われます。

 JIS C 5941:1997をみると、序文には、IEC 747-5(1992) "Semiconductor discrete devices and integrated circuits Part 5: Optoelectronic devices"とそのAmmendment 1(1994)を元に技術的内容を変更することなく作成したとあり、国際規格と一致した内容の規格であることがわかります。

 5箇条だけの簡潔な規格で、1.適用範囲、2.用語の定義、3.測定の状態、4.測定用機器及び装置、5.測定方法 という構成です。5.測定方法には23の小項目があり、適宜図面を用いて測定方法が説明、規定されています。

 一方、JIS C 5943:2010をみると、序文には、IEC 60747-5-4(2006) "Semiconductor discrete devices and integrated circuits Part 5-4: Optoelectronic devices-Semiconductor lasers"を元に作成した規格であるが、内容の一部を変更したとあります。

 5941の方は近年改訂がされていないので、そのままになっていますが、5943は2010年に改訂され、その時点では対応国際規格も改訂になっていたのでそれを反映しています。

 こちらも同様に5箇条ですが、標題が少しちがっていますので、記しておくと、1.適用範囲、2.引用規格、3.用語及び定義、4.装置、5.電気的及び光学的特性の測定方法、となっています。5には19の小項目があります。

 両規格の測定方法の項目内容を比べると、少し項目分けに違いがありますが、基本的な光出力、しきい値電流、ピーク発振波長、近視野像幅、遮断周波数、相対雑音強度、偏光比など14,5項目は共通です。

 この他、光通信用の方では、5.8 縦モード間隔及び縦モード数、5.11 変調時スペクトル、5.12 サイドモード抑圧比、5.13 スペクトル線幅、5.20 高調波歪、5.21 合成第二次歪、合成第三次歪、5.22 トラッキングエラー、5.23 信号対雑音強度比、といった通信用に必要な項目が挙がっています。

 一方、再生、記録用の方では、5.15 干渉パターン強度比、5.16 非点隔差、5.17 遠視野像リプル、5.18 放射光軸ずれ角、5.19 キャリア対雑音強度比、という焦点絞りに重要な項目が挙がっています。

 

* この規格はルーズリーフ式という方式が採用されていて、改訂の際、該当するシートだけを入れ替える方式をとっています。紙の書類の場合は合理的と思いますが、電子ファイルで読む場合はかえってわかりにくくなっています。